悪夢の再来
酒場を出た陽剣旅団は、その足で町長の屋敷へ向かった。静かになった通りを、五人の足音だけが進んでいく。ノルは少し俯いて歩いている。
セレスは何度か隣を見たが、声は掛けなかった。何を言えばいいのか決められないまま、歩調だけを合わせている。エディンもいつものように緩く歩いていたが、目には笑みがない。
先頭近くを歩くレイスが、町長の屋敷へ続く道を見ながら言った。
「町長は現場を見ていない。報告は順番に、抜けなく話す」
「ああ」
アルドが頷く。
「余計なことは言うなよ」
「お前がな」
「俺かよ」
「お前だ」
セレスが小さく息を漏らし、張っていた空気がほんの少しだけ緩んだ。
◇
町長の屋敷では、門番が五人を見るなり中へ通した。事前にレイスが来た時点で取り次ぐよう手配されている。応接室へ案内されると、町長はすでに待っていた。
顔色は悪い。それでも姿勢を崩さず、五人が入ると立ち上がった。
「レイス殿。……皆様も」
町長が深く頭を下げる。
「夜分に失礼します」
レイスも丁寧に返した。
「こちらが、団長のアルドです」
アルドが一歩前へ出る。
「陽剣旅団、アルドだ」
町長は一度だけアルドを見て、頷いた。
「承知しました。町長として、正式にお話を伺います。……何があったのですか」
アルドとレイスは、エレノアを追って地下へ踏み込み、協力者二人と本人を拘束して被害者を救出したところまで報告した。町長は途中で口を挟まず、握った手へ力を込めていく。
「地下室には、何が……」
町長の声が掠れた。
「薬瓶、器具、拘束具、実験台に近い椅子。それから記録らしき紙束です。すべて警備隊が押収しています」
「……記録も」
「はい」
レイスが頷いた。
「現場では、エレノア本人からも話を聞きました」
ノルの肩が僅かに動く。アルドは一度だけそちらを見てから、町長へ戻った。
「あいつが試してたのは、錆病の薬だ」
「錆病……」
町長が息を呑む。
「不治の病だと聞いています」
「毒を転用して、錆病の原因を取り除くところまでは成功していたそうです」
レイスが引き継ぐ。
「ただし使った毒が患者の体内へ残る。錆病は治っても、その毒で死ぬ。だから人間で試していた」
町長は返事を失った。セレスの手が膝の上で握られる。
「捕まっていた人たちは生きています。証言にも協力してくれるって言ってくれました」
「……そうですか」
町長は目を閉じ、長く息を吐いた。
「よかった、と言っていいのかすら分かりませんな」
「よかったでいいと思う」
ノルが小さく言った。町長が顔を向ける。ノルは俯いたまま続けた。
「助かった人は、助かった。そこは、よかったでいい」
町長は少し黙ったあと、深く頷いた。
「……そうですな。ありがとうございます」
エディンが静かに口を開く。
「町長さん。エレノアちゃんと男二人はもう連行されたわぁ。それと、前に埋められた遺体の場所を警備隊へ伝える必要があるわ」
「場所は分かるのですか」
「ええ。目印を付けてある」
「分かりました。すぐ確認させます」
町長は机の紙へ手を伸ばし、必要なことを書き留めた。
「現場の調査と国軍への報告はこちらで行います。酒場の関係者、押収物、被害者の保護、遺体の確認。すべて町の責任で進めます」
「頼む」
アルドが言った。
「俺たちは疲れを抜いたら町を出る」
「もう、行かれるのですか」
「ああ。俺たちはオルセア商会から依頼を受けて来た。報告もしなきゃならない」
レイスが続ける。
「必要な証言は出発前に文書で残します。警備隊長にも同じ内容を伝えてあります。追加で必要なことがあれば、ハイン商会かオルセア商会を通してください」
「承知しました」
町長はもう一度、深く頭を下げた。
「本当に、ありがとうございました」
アルドは少しだけ視線を外した。
「礼を言われるような気分じゃないな」
「それでもです」
町長は顔を上げた。
「町の者が助かった。行方不明になった方々の行方も、これから追えるかもしれない。……それは、皆様のおかげです」
アルドは答えなかった。代わりにレイスが軽く頭を下げる。
「では、我々は宿へ戻ります」
「はい。今夜はゆっくりお休みください」
アルドの口元が少しだけ緩んだ。
「寝るのだけは得意だ」
「アルドちゃんは、食べるのも得意よぉ」
「うるせぇ」
「肉も」
ノルがぼそりと言う。
「お前もだろ」
「うん」
町長の固かった顔にも、ほんの僅かに笑みが戻った。
◇
宿へ戻ると、アルドは椅子へ腰を落として乱暴に髪を掻いた。
「疲れた」
「雑な感想だな」
レイスが水を注ぎながら返す。
「他に言いようがないだろ」
「ある」
「じゃあ言え」
「長い」
「結局それかよ」
セレスも寝台へ腰を下ろし、靴を脱ぐ。
「でも、疲れたのは本当だよね」
「うん」
ノルが机に残っていた菓子を一つ取った。少し眺めてから口へ入れ、ゆっくり噛む。
「甘い」
「昨日も言ってたぞ」
「今日も甘い」
「そりゃそうだ」
窓際にいたエディンが外を見ながら言った。
「明日、ニロちゃんが来るかもしれないわねぇ」
その名前に、アルドの顔から少しだけ力が抜ける。
「だろうな」
「知らなかったら、相当驚くよ」
セレスが言う。
「知ってたら?」
ノルが聞いた。
誰もすぐには答えなかった。
アルドは椅子の背へ身体を預け、天井を見る。
「その時は……ショックだな」
「だろうな」
レイスが短く返した。
「うん」
ノルも頷く。
「でも、まだ決めるな」
「分かってる」
アルドは息を吐いた。
「明日聞く」
その後は簡単に食事を取った。味がよく分からなくても食べる。ノルも肉を少しずつ口へ運び、そのあと菓子へ手を伸ばした。
アルドは何も言わなかった。食事が終わると、レイスが立つ。
「寝るぞ」
「最近そればっかだな」
「必要だからな」
「まあな」
セレスが毛布を引き寄せた。
「今日は寝られるかな」
「寝る」
ノルが先に答えた。
「考えると、寝られないから」
「それでいい」
レイスが頷く。エディンが灯りを落とすと、部屋はすぐ暗くなった。
◇
翌朝。キュリン町は、別の意味で騒がしくなっていた。エレノアが捕まった。
酒場の地下から行方不明者が救出された。陽剣旅団が事件を解決した。話はすでに町中へ広がっている。
宿の部屋では、レイスが宿に置かれていた本を読み、アルドが荷をまとめていた。セレスは窓から通りを眺め、ノルは残った菓子袋の中身を確認している。エディンは壁へ背を預け、目を閉じていた。
そこへ廊下を走る足音が近づいてくる。
「皆さん!」
アルドが顔を上げた。
「ニロか」
扉を開けると、息を切らしたニロが立っていた。髪も少し乱れている。いつもの軽い笑顔はなかった。
「俺らも、お前のところに行こうと思っていたところだ」
「何が起こってるんですか!?」
ニロは部屋へ入るなり声を上げた。
「エレノアさんが逮捕されたって! 陽剣旅団が解決したって! 町中その話で持ちきりですよ!」
レイスは本から目を上げる。
「ちゃんと話すから落ち着け、ニロ」
「落ち着けって言われても!」
アルドが木杯へ水を注いで差し出した。
「飲め」
「え、いや」
「いいから」
ニロは言われるまま杯を受け取り、水を飲んだ。喉が何度か動き、荒れていた呼吸が少しずつ戻る。
「座れ」
「……はい」
椅子へ座ったニロへ、アルドはエレノアを尾行して地下施設を見つけ、再び動いたところを押さえたこと、そこで人体実験が行われていたことまで一通り話した。ニロは途中から口を開かなくなった。
膝の上で握った手だけが固くなる。
「……そうですか」
すべて聞き終えると、絞り出すような声が落ちた。
「エレノアさんが、そんなことを……」
アルドはニロを見る。
「知らなかったのか」
ニロが勢いよく顔を上げた。
「そんなこと知ってるわけないですよ!」
声が裏返る。
「知ってたら止めてましたよ……そんなこと……!」
驚きも怒りも隠れていなかった。アルドは長く息を吐く。
「安心したよ」
椅子へ身体を預ける。
「ニロまでそっち側だったら、俺はショックだった」
「そうだな」
レイスが言う。
「うん」
ノルも頷いた。ニロは三人を見た。
「皆さん……」
アルドはそこで話を変えた。
「ニロ。お前、借金いくらあるんだ?」
「え?」
「残ってる額だ」
急な問いにニロは瞬いたが、すぐに答えた。
「残ってるのは、あと四十万セリオです」
「それなら」
アルドは真っ直ぐ言った。
「商人に戻るつもりはないか?」
ニロの目が揺れる。
「戻りたいですけど……四十万も返すには、あと何年もかかります。今は儲けも少ないですし、利子もかなり付いてくるので」
「俺たちが世話になってる、ハインって商人がいる」
「ハイン……ハイン商会ですか?」
「ああ。知ってるのか?」
「ええ、もちろん」
ニロの背筋が少し伸びた。
「情報を商品として取り扱う者で、知らない者はいません」
「そんな有名なのか」
「有名です。少なくとも商人の間では」
「繋いでくれるんですか?」
「ハインから、俺が気になった商人がいたら紹介してくれって言われてる」
ニロは目を丸くした。それから少しだけ笑う。
「アルドさん、僕のこと気に入ってくれたんですね」
アルドが目を逸らした。
「まぁな」
「照れてる」
セレスがすぐ拾う。
「うるせぇ」
アルドは咳払いをした。
「ただし、仲間に迎えるかはハインの判断だ。俺は紹介するだけ。ハインが認めなければ無理だからな」
「騙されてるしね」
ノルが言う。
「エレノアの裏の顔にも気づかなかった」
ニロは苦笑した。
「これは手厳しいですね」
「事実だ」
レイスが本を閉じる。
「だが、知らなかったこと自体は責めない。重要なのはこれからどうするかだ」
ニロはしばらく何も言わなかった。やがて、深く頭を下げる。
「ありがとうございます」
「俺たちは明日ここを出る」
アルドが言った。
「ハインが会うかどうか決めたら、手紙を送る」
「分かりました」
ニロは顔を上げた。
「お待ちしてます」
その後はしばらく、祭りの売り上げや麦酒の話をした。
昔どんな商売をしていたのか。オルセアにはどんな商人がいるのか。ハイン商会の噂。キュリン町で美味い飯屋。
話すうち、ニロの声にも少しずつ普段の調子が戻っていく。それでも時折、言葉が止まった。
「では、僕は戻ります。町中ばたばたしてますから」
立ち上がったニロへ、アルドが頷く。
「ああ。変なことに首突っ込むなよ」
「それ、皆さんに言われると説得力がないです」
「うるせぇ」
ニロは少し笑って部屋を出た。扉が閉まる。アルドは息を吐いた。
「飯食って寝るか」
「結局それ」
セレスが言う。
「明日出るからな」
「うん」
ノルは菓子袋を閉じた。
「寝る」
「お前もすっかり寝る側だな」
「便利」
「便利ってなんだよ」
◇
翌朝。陽剣旅団はキュリン町を出た。門を抜ける時、警備隊の何人かが頭を下げた。
町人も遠巻きにこちらを見ている。礼を言う者。泣いている者。
何も言わず、ただ見送る者。
アルドは大きく応えず、片手を軽く上げるだけにした。町から離れてしばらくすると、セレスが息を吐く。
「終わったね」
「事件はな」
レイスが返した。
「報告が残ってる」
「そうだった」
アルドが金袋を確かめる。
「なぁ」
「どうした」
「もう金が減ってきた」
セレスの顔が呆れに変わった。
「また?」
「治療費と宿代と飯代だぞ。仕方ねぇだろ」
「町長さんから三万もらったよね」
「もらった」
「なのに?」
「使った」
「早い」
ノルが言う。
「人は飯を食うんだよ」
「菓子も」
「お前の分も入ってるからな」
「必要経費」
「強い言葉を覚えたな」
エディンが小さく笑う。
「でも、まさかエレノアちゃんが犯人だったとはねぇ」
少しだけ会話が止まった。セレスは前を見たまま言う。
「人体実験だとは思わなかった」
「俺もだ」
アルドは短く返す。
「金のためかと思ったら、医療の進歩だの何だの……面倒な話だった」
「答えが出ない話だ」
レイスが言う。
「だから置いてきた」
ノルが横から聞く。
「置いてこれた?」
レイスは少しだけ考えた。
「……いや」
「私も」
「そうか」
それきり、二人とも前を向いた。五人の足音が街道へ続く。キュリン町からオルセアまでは、急いでも数日はかかる。
「帰りまでどれくらい?」
セレスが聞く。
「五日くらいだな」
レイスが答えた。その時だった。
「おーーーい!」
やけに明るい声が、街道の向こうから飛んできた。五人の足が止まる。男が一人、こちらへ走ってくる。
満面の笑顔で大きく手を振りながら、一直線に。
「やっと会えたねーーー!!」
アルドの顔が固まった。ノルの目が細くなる。レイスから僅かに温度が消え、エディンは苦笑した。
セレスだけは一歩でアルドの後ろへ隠れた。
「セレスーーー!!!!」
男の速度が上がる。
「……悪夢だ」
アルドの口から漏れた。ケリーだった。
「いやぁ! 疲れた!」
五人の前まで来たケリーは膝へ手をつき、大きく息を吐いた。
「キュリンにいるって聞いてたからキュリンに行ったのに、さっき出たって聞いて慌てて追ってきたんだよ!」
「待て待て待て!」
アルドが両手を出す。
「なんで方角が分かった! なんでお前が来る! そもそも戦闘の意思はあるのかないのか!」
「お前が落ち着け」
レイスが横から言った。ケリーが一度だけレイスを見る。
「あ、金髪メガネだ」
「……」
レイスの目がさらに冷えた。しかしケリーはもう見ていない。
「セレスーー! 会いたかったよーー!」
セレスがアルドの後ろから出た。次の瞬間、蹴りがケリーの顔面へ入る。
「ぶぐふぉわ!」
身体がそのまま後ろへ倒れた。動かない。アルドは数秒、倒れたケリーを見下ろした。
「こいつには、セレスの攻撃は避けない決まりでもあるのか」
「どちらにせよ、気持ち悪い」
セレスが言う。
「同感」
ノルも短く続いた。アルドはしゃがみ、ケリーの腰へ目を向ける。
「短鎖がないな」
「町に入るから外したのか?」
セレスはまだアルドの後ろから半分だけ顔を出している。レイスも服装を確認した。
「なるほどな。外套を脱げば、服自体は少し荒っぽい程度だ。腰の短鎖さえ外せば、町中では赤鎖だと気づかれにくい」
「だから、普段はあんな分かりやすい印を腰に下げてるのか」
「多分な」
その時、倒れていたケリーの目が開いた。
「ハッ!」
セレスが即座に一歩下がる。ケリーは勢いよく起き上がった。
「セレ――」
「待て」
アルドが遮った。
「まずは用件を聞く」
「ああ、そうだったな」
ケリーの顔が急に真面目になる。ケリーは胸を張った。
「団長が、俺とセレスの結婚の話を聞くと言ってくれた!」
「はぁ!?」
セレスの叫びが街道へ響く。ケリーは気にせず、折り畳んだ紙をアルドへ差し出した。
「指定の場所はここ。二週間後に来いだそうだ」
受け取って開く。地図だった。オルセアから南西へ外れた森林地帯に、一つだけ印が付けられている。
詳しい場所まではない。
「誰が!!」
横でセレスが今にも飛び出しそうになる。
「セレスちゃん、落ち着いてぇ」
エディンが肩を掴む。ノルも腰へ抱きついて止めた。
「だめ。今は大事な話してる」
「離してノル! あいつ一回じゃ足りない!」
アルドは紙を折り畳む。
「分かった。確かに受け取った。お前は帰れ」
「断る」
ケリーは即答した。
「俺はこれから、セレスと別れの抱擁を――」
最後まで言えなかった。ノルを腰へぶら下げたまま、セレスが踏み込む。蹴りがまた顔面へ入った。
鈍い音と一緒にケリーが倒れる。今度も動かない。セレスは肩で息をし、ノルは地面へ座り込んだ。
「止められなかった」
「十分頑張った」
レイスが言う。少し離れたところで、エディンが肩を揺らしていた。
「エディン、笑ってる!」
「ごめんなさいねぇ」
セレスはそのままアルドを睨む。
「アルドも! なんで否定しないで続けたの!」
「あいつの相手、面倒なんだよ」
「面倒で済ませないで!」
「赤鎖の団長もちゃんと分かってるはずだから大丈夫だ。安心しろ」
「そういう問題じゃない!」
アルドは倒れているケリーへ目を落とした。
「早くこの場を離れるぞ。痕跡も消す。こいつは灰冠より厄介だ」
「灰冠と比べられる種類じゃないと思う」
ノルが立ち上がりながら言う。
「だから厄介なんだよ」
レイスは周囲を確認した。
「足跡を散らす。街道から外れるぞ」
「ああ」
五人は気絶したケリーを置き去りにし、街道から森へ入った。
◇
夜。陽剣旅団は森の中で小さな火を囲んでいた。人目につきにくい場所を選び、明かりも最低限に抑えている。
レイスが地図を広げ、アルドも横から覗き込んだ。
「指定の場所って、ここだよな?」
オルセアの南西にある森林地帯。
「そうだな」
レイスが頷く。
「ここに赤鎖の団長がいる」
「詳しい場所は書いてないぞ」
「近づいたら、また迎えが来るんだろう」
毛布を抱えたセレスが顔をしかめた。
「もうケリーはやめてほしい。絶対嫌がらせだよ、あれ。分かっててやってるよ」
「可能性は高いな」
「次はまともなやつが来ることを祈ろう」
「祈ってどうにかなる?」
ノルが聞く。
「ならない」
「じゃあ駄目」
セレスは毛布を置き、地面へ手を触れた。
「もう寝る。見張り置く」
大地の魔力が土へ流れる。
「大地参式 岩儡生成」
土と石が盛り上がり、三体の小さな岩儡が形を取った。一体は丸い身体に短い脚。一体には耳のような突起があり、残る一体だけ妙に背筋が伸びている。
アルドが最後の一体を見る。
「なんかこいつ、レイスみたいだな」
「どれだ」
「これ」
「似ていない」
「姿勢が似てる」
ノルも岩儡をじっと見る。
「似てる」
セレスの口元がようやく緩んだ。
「見張りよろしくね」
三体の岩儡は別々の方向へ歩き、木々の影へ入っていく。セレスも毛布へ潜り込み、そのまま目を閉じた。
◇
五日後の昼過ぎ。陽剣旅団は予定より少し遅れてオルセアへ到着した。町の門が見えたところで、アルドが大きく息を吐く。
「やっと着いた」
「少し遅れたな」
レイスが言う。
「ケリーのせい?」
ノルが聞いた。
「どう考えてもそう」
セレスの返事には迷いがなかった。
「とりあえず商館に戻るぞ」
アルドが歩き出す。
「ハインに報告だ」
町へ入れば、商人の声と荷車の軋みが戻ってくる。何度も出入りするうちに、その雑踏にも見慣れたものが増えていた。だが、商館へ近づくほどアルドの歩みが遅くなる。
「……なんだ?」
塀の外や通りの端にまで、商人らしき者や護衛、近所の住民、何かを抱えた者、書類を手にした者が溢れている。人の声が重なり、商館の中からもざわめきが漏れてくる。レイスも足を止めた。
セレスが商館を見つめ、ノルは集まった人々を目で追う。エディンも小さく首を傾げた。アルドはしばらくその光景を見たあと、呟いた。
「……なんだこれ」
お読みいただきありがとうございます。
引き続き毎日20時頃更新です。
続きが気になる!と思ってくださった方は、ぜひ【★評価】や【ブックマーク】で応援をよろしくお願いします!




