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信じる

 パタス村の宿は、夜になっても静かだった。外では、第二部隊が夜骸を討っている。低級夜骸の咆哮。隊員たちの号令。武器のぶつかる音。魔法が森の外れで爆ぜる音。そのすべてが、遠く聞こえていた。宿の二階。広めの客室で、アルドたちは誰も寝ようとしなかった。エルヴィナが出ていった後の空気が、まだ部屋に残っている。王都討祓軍第二部隊副隊長。エルヴィナ。彼女はアルドたちを見つけた。捕まえようとはしなかった。


 だが、報告は上げると言った。それは当然だった。当然だからこそ、重かった。


「エルヴィナに居場所がバレた」


 アルドが口を開いた。窓際に立ったまま、外を見ずに言う。


「エルヴィナにバレたってことは、灰冠にもバレたと思った方がいい。そうだな? エディン」


 エディンは椅子の背に腕を乗せ、軽く首を傾けた。いつものように笑っている。だが、目は笑っていなかった。


「そうねぇ」


 声は柔らかい。けれど、部屋の温度が少し落ちた。


「エルヴィナちゃんが言うには、ロザリアは独断で動いていた。報告を上げずに、勝手におねぇさんたちを追った」


「ああ」


「にも関わらず、灰冠はまるで連携していたみたいに隙をついて、ルシアンちゃんを連れ去った」


 ルシアンの名前が出た瞬間、セレスの指が膝の上で小さく動いた。ノルは床を見たまま何も言わない。レイスは留帳《とどめちょう》を閉じていた。エディンは続ける。


「だとしたら、灰冠は討祓軍を監視してるわぁ、情報を得るために。多分、次に隙を見せたらまたやられるわぁ」


 誰も返さなかった。外で、夜骸の声が一度響いた。すぐに第二部隊の号令が重なる。村を守るための声。正しい声。その声を聞きながら、部屋の中では誰も動かなかった。エルヴィナは正しい。第二部隊も正しい。それでも、その正しさの後ろに、灰冠がいる可能性がある。そう考えた瞬間、もう安心などできなかった。


「灰冠は姿を見せない」


 レイスが言った。


「追跡も、襲撃も、処理も、こちらが気づく前に終わらせる。ルシアンの時もそうだった」


「こっちが分断された瞬間に来た」


 ノルの声は低かった。


「偶然じゃない」


「だろうな」


 アルドは短く返す。分かっている。偶然などではない。あの時、ルシアンは連れていかれた。こちらが第三部隊に気を取られ、バラバラになったその隙に。もし次も同じことが起きたら。もしまた誰かが離れたら。灰冠は来る。たぶん、必ず。そう思った時だった。セレスが、そっと手を挙げた。全員の視線が集まる。セレスは少しだけ息を吸った。


「それ、利用できないかな?」


 アルドの眉が動いた。


「どういうことだ」


「次に第三部隊に襲われた時、ルシアンの時みたいに私とハインさんが逃げる」


 ハインが目を見開いた。セレスは続ける。


「そうすれば、灰冠は私を狙って姿を表すでしょ?」


「駄目だ」


 アルドは即答した。考えるより先に、声が出ていた。


「リスクが高すぎる」


「でも」


「駄目だ」


 セレスは怯まなかった。いつもなら、一度引くところだったかもしれない。けれど、今回は引かなかった。


「私に手がある」


「手?」


「成功率は低くはないと思う。だから、灰冠を釣り上げるには、これくらいやらないと駄目だと思う」


 アルドは黙った。反論はすぐに出なかった。セレスの言っていることが、完全に間違っているわけではないからだ。灰冠は姿を見せない。こちらがまとまっている間は、たぶん来ない。アルド、レイス、ノル、セレス、エディン。今残っている五人を正面から相手にするくらいなら、もっと確実な隙を待つ。ルシアンの時と同じように。分断。護衛対象。逃走。そこに、灰冠は来る。捕まえて、話を聞き出すなら。その一瞬を狙うしかない。


 分かる。分かってしまう。だからこそ、アルドは何も言えなかった。もし失敗したら。もしセレスが連れていかれたら。また、手が届かなかったら。その先を考えた瞬間、胸の奥が焼けるように痛んだ。


「アルド」


 セレスが立ち上がった。アルドの前まで来る。そして、その手を握った。小さな手だった。けれど、震えてはいなかった。セレスはアルドの目を真っ直ぐ見た。


「アルド、私を信じて」


 その言葉に、アルドは息を止めた。信じる。それは、簡単な言葉ではなかった。守りたい相手を危険に送ること。失敗すれば、二度と取り返せないかもしれないこと。それでも、相手が自分で立つと言うなら、その足を信じること。アルドはセレスの手を握り返した。


「……分かった」


 声は低かった。苦かった。それでも、逃げなかった。


「信じる」


 セレスは小さく頷いた。その夜、外では第二部隊が低級夜骸を討った。アルドたちは、宿の部屋で次の隙について話し続けた。灰冠を釣り上げるための隙。セレスが作る守り。ハインが合わせる動き。アルドたちが戻るまでの時間。口にすればするほど、嫌な作戦だった。だが、必要な作戦でもあった。それから三日。大きなアクシデントは起きなかった。身体を休め、荷を整え、食事を取り、眠れる時に眠った。そして、森の中で赤鎖に囲まれた。


         ◇


 地面が大きく震えた。森の奥。セレスとハインが消えた方向から、重い衝撃が響く。ただの戦闘音ではない。土そのものが跳ねたような、腹の底へ響く地鳴り。アルドは曲刀の男の一撃を緋喰刃《ひくいじん》で受け止めながら、目を細めた。レイスも気づいていた。


「合図だ、アルド」


「ああ」


 アルドは短く返す。曲刀を押し返す。


「任せていいか」


 レイスは赤鎖本体の男たちの動きを見ていた。


「当たり前だ」


「お前こそ、一人で大丈夫か?」


「当たり前だ」


 その声には、お互いに迷いがなかった。アルドは笑わなかった。頷くだけで、十分だった。次の瞬間、アルドは正面の男を無視して横へ抜けた。蒼炎が足元で爆ぜる。踏み込みが伸びる。


「逃がすか!」


 セレスに執着していた赤鎖の男が、怒声を上げて追おうとする。だが、その前にレイスが立った。静かな目で、男を見る。


「お前の相手は俺だ」


「邪魔だ」


「知っている」


 男の曲刀が走った。速い。アルドと渡り合うだけの速度。だが、レイスは下がらない。足元の土に魔力を流す。


「雷流弐式 絡縛《らくばく》」


 細い雷が湿った根を拾い、男の足元へ走った。男は跳ぶ。だが、レイスはその跳躍を見ていた。雷は足首ではなく、着地点の泥へ先回りする。男が着地した瞬間、黄色い雷が跳ね上がった。


「っ」


 足が一瞬止まる。その一瞬で、レイスは距離を取った。


「強いが頭を使ってるようには見えないな」


「分析してる暇があるのか?」


「ある」


 レイスは短く答えた。


「お前が思っているよりは」


 男の笑みが消えた。その背後で、ノルの翠穿《すいせん》が鳴る。エディンの大剣が赤鎖の群れを押し返す。アルドは振り返らない。森の奥へ走った。


         ◇


 蒼炎の檻が、森の中に立ち上がっていた。蒼炎肆式 炎枷牢《えんかろう》。炎の柱が円を描き、鎖のように横へ伸びた蒼炎が柱と柱を繋ぐ。逃げ道を塞ぐ檻。燃やすためではなく、閉じ込めるための炎。その中心近くで、巨大な岩儡《がんらい》が立っていた。土と岩でできた巨体。形は歪で、洗練されてはいない。腕は太く、足は重く、動きは遅い。だが、その胸の奥には空洞があり、セレスとハインと荷車を抱え込んでいる。


 アルドはそれを見上げた。


「これが、セレスの言ってた岩儡か」


 思っていたより大きい。想像していたより、不格好だ。けれど、強い。守るためだけに作られた、巨大な盾。


「すごいな」


 岩儡の胸の奥で、セレスの気配が動いた。ハインもいる。生きている。守れている。それだけで、アルドの呼吸は一つ深くなった。だが、灰冠たちは逃げ場を失いながらも崩れていなかった。黒灰色の外套が、炎の檻の中で散開する。一人が低く呟いた。


「炎が蒼い……覚醒したのか」


 別の灰冠が炎枷牢を見回す。


「それに、この規模の炎枷牢……まずいな」


 動揺はある。だが、恐慌ではない。さすがに、灰冠だった。アルドは緋喰刃を下ろした。蒼炎が全身へと激しく広がる。炎装。かつて赤い炎で纏っていた強化の形が、今は蒼く身体を覆っていた。踏み込み、視界、呼吸。すべてを戦闘へ寄せていく。同時に、感知を深く絞る。広くではない。この檻の内側だけ。灰冠の気配を一つずつ拾う。一。二。三。四。五。木の陰。岩儡の背後。炎の柱のそば。足音を殺している者。


 魔力を抑えている者。六。七。八。九。十。呼吸が薄い。武器の位置が低い。まだ仕掛けていない。十一。十二。十三。


「十三か」


 アルドが呟いた。灰冠たちの気配が、わずかに変わった。数えられた。その事実が、彼らの緊張を一段上げる。アルドは剣を構えた。


「お前らは強い」


 蒼炎が低く揺れる。


「手加減できない」


 灰冠たちは答えない。


「死んでも文句言うなよ」


 一人が短く返した。


「こっちの台詞だ」


 次の瞬間、灰冠が動いた。速い。赤鎖とは違う。怒りも、虚栄も、余計な声もない。ただ、消すために動いてくる。三人が正面。二人が左右。残りは距離を取り、アルドの足場と背後を狙う。アルドは正面の一人へ踏み込んだ。蒼炎が足元で爆ぜる。刃がぶつかる。軽い。だが、受けた相手はその軽さを利用して流れた。真正面から受け止めず、刃の熱を逃がし、次の灰冠が横から喉を狙う。アルドは身を沈める。肩を裂かれる。


 浅い。そのまま肘を入れ、相手の胸を押し返す。背後から短槍。感知で拾う。振り返らずに剣の柄で弾いた。灰冠の刃が頬をかすめる。


「っ」


 速い。強い。一対一なら負けない。だが、十三人が殺すためだけに動くなら話は違う。アルドは蒼炎を広げた。


「蒼炎壱式 乱火《らんか》」


 小さな蒼い火が、不規則に弾けた。足元。腕の近く。視界の端。灰冠たちが一瞬だけ動きを乱す。その隙に、アルドは一人の懐へ入った。峰で首を打つ。倒れる。殺してはいない。次。横から来た刃を受け、足を払う。転ばせた相手の手首を踏み、武器を落とさせる。殺さない。できるだけ。だが、灰冠はその甘さを見逃さなかった。倒れた灰冠を踏み台にするように、別の一人がアルドの脇腹へ刃を突き込んできた。アルドは避けきれない。


 刃が刺さる。深くはない。けれど、血が熱く流れた。


「ぐっ」


 その灰冠は、すぐに刃を引こうとした。アルドは左手で相手の腕を掴む。蒼炎が手に絡む。


「悪い」


 緋喰刃が横に走った。灰冠の胸が裂ける。黒灰色の外套が、蒼い火を受けて倒れた。一人目。アルドは息を吐く暇もない。次の灰冠が背後から来る。感知が叫ぶ。身体をひねり、刃をかわす。かわした先に、もう一人。罠のような連携。アルドは蒼炎を強く踏み込ませ、強引に抜けた。足元の土が焦げる。炎枷牢の柱が揺れる。灰冠たちは退かない。檻の中で、アルドを削る。それしかないと分かっている動きだった。アルドは歯を食いしばる。


「蒼炎弐式 蒼炎蛇《そうえんじゃ》」


 蒼い炎が蛇のように地を這った。二本。三本。灰冠たちの足元へ走り、腕へ、脚へ絡みつく。燃やしながら拘束する炎。灰冠の一人が即座に刃で炎を断とうとした。だが、蒼炎は刃に絡み、さらに腕へ這い上がる。


「ちっ」


 その隙にアルドが踏み込む。一人の腹を柄で打ち、膝を蹴る。倒れる。拘束。殺さない。だが、別の灰冠が炎に巻かれながらも突っ込んできた。自分の腕が焼けることを無視して、短剣をアルドの首へ突き出す。アルドは避けた。避けたが、首筋が裂ける。熱い血が流れた。次の一撃は、止められない。アルドは反射で剣を振った。蒼い線が走る。蒼炎参式 蒼火閃《そうかせん》。灰冠の身体が斜めに裂け、倒れた。二人目。


 息が上がる。それでも止まれない。灰冠はまだいる。十一。そのうち何人かは、すでに拘束している。だが、動ける者はまだ多い。岩儡の拳が地面を叩いた。地響きが走る。灰冠の何人かが体勢を崩す。セレスだ。岩儡の胸の奥から、こちらを見ている。攻撃は遅い。当たらない。だが、地面を揺らせる。それだけで、アルドには十分だった。


「助かる!」


 アルドは叫び、崩れた灰冠へ踏み込んだ。一人を柄で顎から打ち上げる。もう一人を蹴り飛ばし、炎の蛇で腕を縛る。殺さない。だが、また別の灰冠が倒れた仲間の影から現れた。刃が腹へ向かう。アルドは受け損ねた。刃が脇腹を深く裂く。


「っあ……!」


 視界が白く跳ねた。それでも、アルドは倒れない。倒れれば終わる。セレスも、ハインも、また奪われる。アルドは相手の外套を掴んだ。引き寄せる。額がぶつかる距離。灰冠の目が、フードの奥でわずかに揺れた。


「近ぇよ」


 蒼炎が爆ぜた。緋喰刃ではない。アルドの左腕に纏った蒼炎が、相手の胸元で弾ける。灰冠は吹き飛び、地面に叩きつけられた。動かない。三人目。その直後、背中に衝撃が走った。刃ではない。蹴り。アルドは前へ転がり、すぐに立つ。息が荒い。血が落ちる。蒼炎が揺らぐ。灰冠の一人が言った。


「消耗している」


「見りゃ分かる」


 アルドは笑わなかった。


「でも、まだ立ってる」


 地面を踏む。アルドを纏う蒼炎が、もう一度強く燃える。


「まだ終わってねぇ」


 灰冠が同時に仕掛けた。四人。前後左右。アルドは炎枷牢の柱を背に取った。後ろは炎。退けない。なら、前へ行くしかない。蒼炎が刃に集まる。


「蒼炎参式 蒼火閃《そうかせん》」


 横一線。蒼い閃きが、正面の二人を裂いた。一人は胸を浅く裂かれ倒れた。もう一人は、避けきれず首元を断たれた。四人目。アルドは顔を歪めた。殺すつもりではなかった。だが、灰冠は止まらない。止まってくれない。横から来た灰冠を、足払いで崩す。肩を打ち、蒼炎蛇で両腕を縛る。背後の灰冠が、炎の柱すれすれを抜けてくる。アルドは振り向きざまに柄で打つ。浅い。相手の短剣が腹へ向かう。避けられない。


 アルドは相手の腕ごと、剣を振った。血が散る。灰冠が倒れる。五人目。静かだった。誰も叫ばない。灰冠は、死ぬ時でさえ声を上げなかった。アルドは荒く息を吐いた。残りは八人。全員が立っているわけではない。炎の蛇に縛られた者。手首を砕かれた者。意識を落とされた者。足を焼かれ、膝をついた者。アルドは最後に残った一人の刃を弾き、肩を蹴り、地面へ叩きつけた。蒼炎蛇が腕と脚を縛る。その灰冠も動けなくなる。


 炎枷牢の中に、荒い呼吸だけが残った。アルドは緋喰刃を地面に突き立てた。倒れそうになる膝を、かろうじて堪える。


「……終わりだ」


 声は掠れていた。岩儡の胸が開いた。土と岩が左右へ割れ、セレスとハインが姿を見せる。セレスはすぐに飛び降りた。


「アルド!」


 走ってくる。顔色が変わっていた。アルドは片手を上げようとしたが、途中で力が抜けた。セレスが肩を支える。


「座って!」


「まだ」


「座って!」


 セレスの声が強かった。アルドは逆らわず、地面に膝をついた。ハインも荷車から布と水を持って駆け寄る。


「ここを押さえます」


「頼む。セレス、首と脇腹から」


「分かってる」


 セレスは水の膜を作り、傷口を覆った。水流の魔力が血を洗い、痛みを落ち着かせる。治癒魔法ではない。だが、応急処置にはなる。アルドは息を吐く。


「悪い」


「謝らないで」


「殺した」


 セレスの手が、一瞬だけ止まった。アルドは灰冠の倒れた場所を見ていた。


「五人」


「……うん」


「できるだけ避けた」


「分かってる」


 セレスは静かに答えた。


「分かってるよ」


 ハインは何も言わず、布を押さえた。その時、炎の檻の向こう側から声がした。


「おい、アルド」


 レイスだった。炎枷牢の外側に立っている。片手で、赤鎖の男の襟首を掴んでいた。男は意識こそあるようだが、抵抗できないほどぐったりしている。曲刀は二本とも失われ、腕には雷の痺れが残っているのか、指がまともに動いていなかった。レイスの頬にも血が滲んでいる。服も裂けていた。だが、足取りは崩れていない。


「アルド。大丈夫か?」


 アルドは振り向いた。


「ああ。終わった。そっちは?」


「こっちも終わった」


 レイスは赤鎖の男を少し持ち上げる。


「入れてくれ」


 アルドは炎枷牢へ視線を向けた。蒼炎の柱が一部だけ低くなる。鎖のように伸びていた炎がほどけ、レイスが通れるだけの隙間が生まれた。レイスは赤鎖の男を引きずりながら入ってくる。その後ろから、ノルとエディンも現れた。ノルは翠穿を肩にかけ、周囲を確認している。エディンは大剣を担ぎながら、倒れている灰冠たちを見て眉を下げた。


「あらぁ……ずいぶん派手にやったわねぇ」


「手加減できなかった」


 アルドが答える。


「責めてないわぁ」


 エディンは静かに言った。


「生きてる子もいるんでしょう?」


「八人」


 ノルが数える。


「灰冠八人。赤鎖の気持ち悪いの一人」


 レイスが赤鎖の男を地面へ落とした。男が呻く。


「俺を……そんな雑に……」


「黙れ」


 レイスは冷たく言った。その声だけで、男は口を閉じた。アルドは、拘束された灰冠たちを見る。黒灰色の外套。赤鎖の男。どちらも、これまで逃げられてきた相手だった。ようやく、捕まえた。ようやく、聞ける。ルシアンのこと。赤鎖の団長のこと。王国の秘密。灰冠の動き。聞きたいことが、多すぎる。アルドは血の滲む息を吐いた。


「聞きたいことがありすぎる」


 レイスが赤鎖の男の襟から手を離し、留帳を開いた。


「長くなるぞ」


 蒼炎の檻の中で、灰冠たちは黙っていた。赤鎖の男は、悔しそうに歯を噛んでいた。セレスはアルドの傷を押さえたまま、顔を上げる。ハインも荷車のそばで、静かに息を整えていた。森の奥は、まだ騒がしい。けれど、陽剣旅団は初めて、追う側の一端を掴んでいた。

お読みいただきありがとうございます。

引き続き毎日20時頃更新です。

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