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ポテチ村の芋畑

 カワ村の件から三日後。第一部隊は、王都の南西へ向かう街道を馬で進んでいた。空はよく晴れている。薄い雲はあるが、雨の気配はない。街道沿いには低い草原が広がり、その向こうにぽつぽつと畑が見える。風は乾いていて、王都の石と煙の匂いではなく、土と草の匂いを運んできた。カワ村の墓地で嗅いだ湿った土の匂いとは違う。


 生きている土の匂いだった。


「芋だな」


 バルトが言った。馬上で、なぜか真剣な顔をしている。


「まだ村も見えてないぞ」


 アルドが返す。


「匂いで分かる」


「犬か」


「俺様の鼻を舐めるなよ、カシラ。これは芋の匂いだ」


「芋にそこまで情熱燃やせるの、すごいですね」


 ルカが呆れたように言う。バルトは胸を張った。


「芋は偉大だ。焼いてよし、煮てよし、潰してよし、揚げてよし。腹持ちもいい。戦士の味方だ」


「バルトさんの場合、腹持ちしてるところを見たことがありません」


「ルカ!」


「事実です」


 ノルが横からぼそりと言う。


「燃費悪すぎ」


「お前、それ言えばいいと思ってるだろ!」


「便利だから」


「便利で俺様を刺すな!」


 セレスが笑いながら馬の手綱を緩めた。


「でも今回の村、名前からして芋だものね」


「ポテチ村、だったか」


 アルドが言う。


「何度聞いても腹が減る名前だな」


「正式にはポテチ村です」


 レイスが留帳《とどめちょう》を開きながら言った。


「芋の一種であるポテチ芋の産地として知られています。王都の市場にも多く卸していて、薄く切って揚げる料理が有名だそうです」


「ほら見ろ! 揚げてよし!」


 バルトが勝ち誇った顔をする。


「芋の汎用性は否定していません」


 レイスは淡々と返した。


「問題は、あなたの食べる量です」


「また俺様の話に戻るのかよ!」


「戻るというより、最初からそこが問題です」


「レイス、お前今日はよく刺すな!」


「いつも通りです」


 その横で、ルシアンがくすくす笑っていた。彼女の髪飾りが、馬の揺れに合わせて小さく揺れる。


「でも、ポテチ村って名前、かわいいですね」


「かわいいか?」


 アルドが首を傾げる。


「うん。なんだか平和そう」


「そういう村だといいけどな」


 アルドは前方を見た。今回の任務は、重いものではない。ポテチ村周辺の畑で、雑級の夜骸《やがい》が一体目撃された。村人に被害はなく、芋畑の一角が荒らされた程度。村の祈り場から王都へ連絡が入り、近隣巡回中だった第一部隊が確認に向かうことになった。普通なら、第一部隊全員で向かうほどではない。だがカワ村の後、ローグレスは第一部隊に大きな任務を入れなかった。代わりに、王都近郊の巡回と、軽度の夜骸対応を任せた。


 休ませるためだろう。レイスはそう解釈していた。アルドも同じだった。ただし、ローグレスは言葉にはしなかった。総隊長は、休めと言っても休まない連中に、仕事の形をした休息を与えることがある。


 それを第一部隊は、何となく分かっている。


「でもさ」


 ルカが馬の上で銃の整備具を弄びながら言った。


「雑級一体なら、村の墓守とかでどうにかできなかったんですか?」


「ポテチ村の墓守は元国軍兵が一人だけです」


 レイスが答える。


「夜骸戦闘の専門ではない。雑級相手でも、畑に出たものを一人で追うのは危険だ」


「それもそうですね」


「あと」


 レイスは留帳へ目を落とした。


「目撃された夜骸は、畑の土を掘るような動きをしていたらしい」


 その言葉に、少しだけ空気が変わった。アルドも視線を向ける。


「掘る?」


「ああ。ただし、カワ村のような墓地ではない。芋畑だ」


「芋を食おうとしてたんじゃないか?」


 バルトが言う。


「夜骸は芋を食わねぇ」


 アルドが呆れる。


「分からねぇだろ! 芋は偉大だ!」


「夜骸に芋の偉大さを理解されても困るわ」


 セレスが言った。ノルが小さく頷く。


「芋に負ける人間、嫌」


「何で人間が芋と勝負してるんですか?」


 ルカが笑う。レイスはその会話を聞きながらも、表情は少しだけ硬かった。アルドはそれに気づく。


「レイス。カワ村の件、まだ引っかかってるか?」


「引っかかっていないと言えば嘘になる」


「今回は畑だぞ」


「分かっている」


 レイスは留帳を閉じた。


「だからこそ、切り分ける必要がある。墓地の土と畑の土を同じもののように扱えば、判断を誤る」


「つまり?」


「今回が本当にただの雑級なら、それでいい。記録上も、カワ村とは関連なしと残せる」


「関連があったら?」


「嫌だな」


 レイスは短く答えた。アルドは笑った。


「お前が嫌だなって言うと、だいたい本当に嫌なやつなんだよな」


「だから、そうでないことを確認しに行く」


「了解」


 前方に、村が見えてきた。ポテチ村。低い丘のふもとにある、丸い村だった。家々の屋根は赤茶色で、周囲には広い芋畑が広がっている。畑の畝はきれいに並び、ところどころに収穫用の籠や鍬が置かれている。村の入り口には、芋の形をした木の看板が立っていた。看板には、大きくこう書かれている。


 ようこそ、ポテチ村へ。芋は命。


「いい村だな!」


 バルトが力強く言った。


「看板だけで?」


「看板で分かる!」


「バルトさんには最高の村かもしれませんね」


 ルカが言う。


「若造、お前にも芋のよさを教えてやる」


「ほどほどでお願いします」


「芋はほどほどに語るものじゃない」


「面倒な予感しかしない」


 ノルが看板を見ながら呟いた。


         ◇


 村の入り口では、村長と数人の村人が第一部隊を待っていた。村長は丸い顔の中年男だった。体格も丸い。だが、目はよく動き、商売人のような抜け目なさがあった。


「黒豹さん方! よく来てくださいました!」


 村長は両手を広げて迎えた。


「第一部隊隊長、アルドです」


 アルドが馬から降りる。


「夜骸が出たと聞きました」


「はい、はい。昨夜です。南の畑で、土を掘るような音がしましてな。見に行った若い衆が、黒っぽい塊のような夜骸を見たと」


「被害は?」


「芋が少し」


 村長は深刻な顔で言った。


「かなり少し」


「どっちですか」


 レイスが聞く。


「人命ではなく、芋ですので少しです。しかし、我々にとっては深刻です」


「芋は命だからな」


 バルトが頷く。


「分かってくださいますか!」


 村長の目が輝いた。バルトも輝いた。アルドは嫌な予感がした。


「カシラ。この村、いい村だ」


「早いな」


「芋を大事にする村に悪い村はない」


「単純すぎる」


 ノルが呟く。村長はバルトの手を握った。


「あなたは分かっておられる。芋は食料であり、誇りであり、冬を越す力なのです」


「その通りだ!」


「バルトさん」


 レイスが冷静に割って入る。


「交流は後にしてください。まず現場です」


「レイス、お前は芋への敬意が足りねぇ」


「必要な敬意はあります。ただし任務が先です」


 村長は慌てて頭を下げた。


「これは失礼致しました。こちらです」


 案内された畑は、村の南側にあった。芋畑が広く続いている。土は柔らかく、畝がきれいに盛られている。その一角だけが、ぐしゃりと掘り返されていた。芋の葉は踏み潰され、土の中から白っぽい芋がいくつも顔を出している。その近くに、黒い泥のような跡が残っていた。アルドはしゃがみ込む。


「足跡は?」


「不明瞭だな」


 レイスも膝をつき、土を見る。


「形が崩れている。四足か、這ったのか、判断しにくい」


「畑が柔らかいからですか?」


 ルカが聞く。


「それもある。だが、歩いたというより、体を引きずった跡に近い」


 ノルが畑の端へ回り、周囲を見渡した。


「森は近くない。隠れるなら、あっちの用水路」


 彼女が指した先には、畑の水を流す細い溝があった。蓋はなく、膝ほどの深さがある。水はほとんど流れていないが、泥が溜まっている。


「夜骸はそこから?」


 セレスが聞く。


「可能性はある」


 レイスは土の跡を追った。黒い泥の筋は、畑から用水路へ向かっている。


「夜骸が畑を掘り、用水路へ戻った。あるいは、用水路から出てきて畑を掘った」


「芋狙いか?」


 バルトが真剣に言う。


「それは一旦忘れてください」


「忘れられるか! 芋が襲われてるんだぞ!」


「人が襲われる方が問題です」


「それはそうだ!」


 バルトは素直に頷いた。ルシアンが畑の荒れた部分を見て、少し困った顔をした。


「これ、村の人はショックだったでしょうね」


「収穫前だからな」


 アルドが言う。村長は横で何度も頷いていた。


「ええ。人に被害がないのは幸いです。しかし、夜骸が畑を荒らすとなれば、夜の見回りもできません。収穫期にこれが続けば、村の蓄えに響きます」


「分かりました」


 レイスは立ち上がった。


「夜まで待ちます。昨夜と同じ時間帯に現れる可能性が高い。用水路、畑、村への進入口を押さえます」


「お、おお。よろしくお願いします」


 村長は深く頭を下げる。


「それと」


 レイスは村人たちを見た。


「夜になったら、絶対に畑へ出ないでください。芋が心配でもです」


 村人たちが少し気まずそうに目を逸らした。アルドはそれを見て察した。


「まさか、昨日見に行った若い衆って」


「芋が心配だったようで……」


 村長が小さく言った。


「命の方を心配してください」


 レイスが冷たく言う。村人たちは一斉に頷いた。バルトも腕を組んで頷く。


「芋を守るためにも生きてなきゃ駄目だ」


「バルトさんにしては正論ですね」


 ルカが言う。


「俺様はいつも正論だ!」


「それは違う」


 ノルが言った。


         ◇


 夜までの間、第一部隊は村に滞在した。村人たちは、黒豹の来訪に少し浮き足立っていた。ナカ村やカワ村と違い、ポテチ村はどこか明るい。もちろん夜骸への恐怖はある。だが、被害が芋畑に留まっているためか、村全体が絶望に沈んでいるわけではない。むしろ、第一部隊が来たことを半分祭りのように受け止めている者もいた。


「黒豹さん、これ食べてってください」


 村の女たちが、大きな籠いっぱいの揚げ芋を持ってきた。薄く切った芋を油で揚げ、塩を振ったものだ。香ばしい匂いが広がる。バルトの目が輝いた。


「これがポテチ芋か!」


「食べすぎるなよ」


 アルドが言う。


「任務前だぞ」


「分かってる。味見だ、味見」


 バルトは一枚つまんで口に放り込んだ。次の瞬間、目を見開いた。


「うまい!」


 声が村中に響いた。村人たちが嬉しそうに笑う。レイスはこめかみを押さえた。


「声量」


「すまん。だがうまい」


「それは分かります」


 レイスも一枚食べていた。アルドは思わず見た。


「お前も食うんだ」


「差し出されたものを断るのは失礼だ」


「もう一枚食べてるぞ」


「味の確認だ」


「ふーん」


「何だ」


「いや、気に入ったんだなって」


「悪くない」


 レイスはそう言って、三枚目には手を伸ばさなかった。伸ばしかけて、やめた。ルシアンがそれを見て、微笑む。


「おいしいね」


「うん。軽くて食べやすい」


 セレスも頷いた。


「これ、煤鳩亭に持っていったら売れそう」


「ミナさんが喜びそうですね」


 ルカが言う。ノルは黙って食べていた。それを見たアルドが笑う。


「ノル、気に入ったのか?」


「……普通」


「普通にしては食べてるな」


「軽いから」


「気に入ったんだな」


「うるさい」


 ノルは顔を逸らした。バルトがにやりと笑う。


「ノルも芋の偉大さに目覚めたか!」


「バルトほどじゃない」


「照れるな!」


「照れてない」


 エディンは揚げ芋を一枚つまみ、楽しそうに眺めていた。


「こういうの、王都でも流行りそうねぇ」


「もう少し保存がきけば、遠くにも売れるんですがね」


 村長が言う。


「湿気るのが早くて。王都へ出す分も、朝揚げて急いで運ぶんです」


「なるほど」


 レイスが少し興味を持ったように言った。


「保存性が低いから、村の名物で留まっているわけですね」


「ええ。商売としては悩みどころです」


「乾燥剤代わりに焼いた石を使う方法もありますが、油を含むものだと匂いが移る可能性があります」


「レイス」


 アルドが言う。


「何だ」


「商談始めるなよ」


「始めていない。改善案を考えただけだ」


「村長、めちゃくちゃ聞く顔になってるぞ」


 村長は身を乗り出していた。


「ぜひ詳しく」


「任務後で」


 レイスが即座に区切った。村長は残念そうだったが、すぐに頷いた。


「そうですね。まずは畑の夜骸です」


 その言葉に、空気が少しだけ戻る。明るい村。うまい揚げ芋。笑う村人。それでも夜になれば、怪物が出るかもしれない。


 この国のどこでも、夜は必ず来る。


         ◇


 日が沈む頃、第一部隊は配置についた。芋畑の周囲は静かだった。昼間の賑やかさが嘘のように、村人たちは家へ戻っている。レイスの指示通り、畑へ近づく者はいない。月はまだ高くない。雲は薄く、夜風は乾いている。


 畑の土が、昼の熱を少しだけ残していた。アルドは畑の中央近くに立ち、剣の柄に手を添えている。バルトは用水路の近く。ゴードは村側の道。ルカは畑小屋の屋根。


 ノルは少し離れた丘の上。セレスとルシアンは村人の避難側。エディンは畑の端で、なぜか揚げ芋の残りを一枚つまんでいた。


「エディンさん」


 アルドが小声で言う。


「任務中ですよ」


「最後の一枚よぉ」


「そういう問題じゃないですよ」


「おいしいわねぇ」


「聞いてます?」


「聞いてるわぁ」


 エディンはにこにこしながら、畑の用水路へ視線を向けた。


「来るなら、あそこかしらねぇ」


 アルドも目を細める。用水路。泥の溜まった細い溝。レイスは昼の調査で、そこに黒い泥の跡を見つけていた。風が止む。


 虫の声が、一瞬だけ遠のいた。ぬるり。用水路の泥が盛り上がった。


「来た」


 ルカの低い声。泥の中から、黒い塊が這い出してくる。大きさは人の腰ほど。形は一定しない。泥と草の根と腐った葉が混ざったような塊で、短い脚のような突起をいくつも出している。ナカ村の岩と土の夜骸よりも小さいが、動きは妙に速い。塊は畑へ這い上がると、まっすぐ芋の畝へ向かった。


「本当に芋狙いかよ」


 アルドが呟く。夜骸は畝に突っ込み、土を掘り返し始めた。黒い泥の体がうねり、芋を掘り出す。食べているようには見えない。ただ、掘っている。


 掘り返して、土の中を探っている。


「レイス」


 アルドが小声で呼ぶ。


「分かっている」


 レイスの声が、少し離れた場所から返る。


「芋ではない。土の中の何かを探している」


「何かって何だよ」


「分からない」


 また、その言葉。だが今回は、カワ村の時ほど重くはない。レイスは状況を見ている。恐れているのではなく、切り分けている。


「討祓していいか?」


「待て。もう少し動きを見る」


 夜骸は芋を掘り出し、次の畝へ移った。掘る。掘る。掘る。その動きに目的はある。


 しかし、掘り出した芋には見向きもしない。バルトが小声で震えていた。


「芋を……粗末に……」


「バルトさん、落ち着いてください」


 ルカが屋根の上から言う。


「落ち着けるか! 掘るだけ掘って食わねぇだと!? 芋への冒涜だ!」


「そこですか」


「そこだ!」


「声を落とせ」


 レイスが言う。バルトは口を押さえた。夜骸が、ぴたりと動きを止めた。泥の体が震える。畝の下から、何か白いものが出てきた。


 芋ではない。小さな骨のようなものだった。アルドの目が鋭くなる。


「骨か?」


「動物の骨だと思う」


 レイスがすぐに言った。


「大きさから見て、人骨ではない」


 その言葉に、アルドは少しだけ息を吐いた。夜骸はその骨に触れた。黒い泥の体が、ぶるりと震える。そして、低く鳴いた。


「ご……ぼ……」


 咆哮というほど大きくはない。だが、夜骸の声だった。


「レイス」


「討祓する」


「了解」


 アルドが剣を抜く。だが、その瞬間。バルトが先に動いた。


「芋畑荒らしてんじゃねぇ!」


 大地を蹴って突っ込む。拳に土色の魔力が集まる。


「大地参式 爆岩拳《ばくがんけん》!」


 拳が泥の夜骸に叩き込まれた。その瞬間拳を包む岩が轟音と共に爆発するように夜骸に叩き込まれ、黒い泥が弾け飛ぶ。夜骸は畝の上を転がり、用水路の縁にぶつかった。


「おお」


 ルカが声を漏らす。


「バルトさん、いつもより怒ってますね」


「芋絡みだから」


 ノルが丘の上から言う。


「分かりやすい」


 レイスが呟く。


「まったく……雑級相手に参式使う馬鹿がどこにいる」


 しかし、夜骸はまだ動いていた。泥の体が崩れたまま、ずるずると集まっていく。バルトが眉を寄せる。


「ちっ、泥だから手応えが悪いな」


「バルトさん、下がって。散らすと面倒です」


 レイスが指示を出す。


「ルカ、核を探せ。ノル、逃げ道を塞げ。アルド、用水路側へ回れ」


「了解」


 ルカの銃声が夜に響く。弾丸が泥の塊を削る。ノルの一撃が用水路の先を撃ち、泥の逃げ道を潰した。弾丸に乗った風が土を抉り、浅い溝を崩す。夜骸は逃げようとした。だが、アルドがそこに立っていた。


「悪いな。芋畑は荒らさせないらしい」


 剣に炎が宿る。


「火炎壱式 炎刃《えんじん》」


 炎の刃が泥の中心を裂いた。黒い泥が焼け、嫌な匂いが立つ。夜骸はびくりと震え、最後に小さく鳴いた。


「ごぼ……」


 そして、動かなくなった。畑に静けさが戻る。バルトは荒れた畝の前に膝をついた。


「芋が……」


「バルトさん、夜骸は倒しました」


 ルカが言う。


「芋が……」


「そこなんですね」


 ノルが呟いた。村長が家の戸口からそっと顔を出した。


「終わりましたか?」


「終わりました」


 アルドが答える。


「雑級一体。被害は畑の一部だけです」


 村長はほっとした顔をした。その後、畑を見て、少しだけ悲しそうな顔になる。


「……芋が」


「村長」


 バルトが立ち上がった。なぜか真剣だった。


「俺様も手伝う。掘り返された芋、使えるやつは拾うぞ」


 村長の目が潤んだ。


「黒豹さん……!」


「芋は命だからな!」


「はい!」


 アルドはそのやり取りを見て、笑いそうになった。だが、レイスは笑っていなかった。彼は夜骸が掘り出した小さな骨を見ていた。布越しに拾い上げる。


「動物の骨。古い。畑の下に埋まっていたものか」


「それが目的だったのか?」


 アルドが聞く。


「分からない。ただ、芋ではない」


「それは分かる」


 レイスは留帳を開いた。ポテチ村。芋畑に泥状雑級夜骸。畑土を掘削。土中を掘削。


 食餌行動ではなく探索行動の可能性。原因は未確認。書きながら、レイスは少しだけ眉を寄せる。


「カワ村との関連は?」


 アルドが聞く。


「今はなしと見る」


「今は?」


「墓地と畑では条件が違う。ポテチ村は土を掘っていたというだけで、何に反応していたかも分かっていない」


「ならよかった」


「よかったかどうかは別だが、少なくともカワ村ほど厄介ではない」


 レイスは留帳を閉じた。その横で、バルトは村人と一緒に芋を拾い始めていた。大柄な体を屈め、泥まみれになりながら、真剣に芋を籠へ入れている。


「バルトさん、似合いますね」


 ルカが言う。


「芋農家?」


 ノルが続ける。


「聞こえてるぞ!」


 バルトが叫ぶ。


「でも手伝え!」


「はいはい」


 アルドは笑いながら、剣を鞘に納めた。夜骸は倒した。村人は無事。畑は少し荒れたが、命は失われていない。なら、今日は勝ちでいい。


 月明かりの下、ポテチ村の芋畑で、第一部隊は夜明けまで芋を拾った。バルトは誰よりも真剣だった。そして翌朝。村人が感謝として出した山盛りの揚げ芋を、誰よりも嬉しそうに食べた。

お読みいただきありがとうございます。

次回も明日20時頃更新予定です。

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