若年貴族交流会
王城からの招待状が届いた瞬間。
フィアは机へ突っ伏した。
「行きたくない……」
「今回は諦めてください」
エマは即答だった。
「絶対?」
「絶対です」
机の上には、王家の紋章入り封筒。
そこに書かれていたのは、今年度の若年貴族交流会について。
王家主催。
対象は同世代の貴族子女たち。
将来の学園生活や社交界を見据え、
交流を深める目的の集まりらしい。
らしいのだが。
「知らない人いっぱい」
「交流会ですので」
「帰っていい?」
「王家主催です」
「うぅ……」
つまり拒否権がない。
ヴァルディア家ほどの立場なら尚更だった。
「どうして本を読む会じゃないの……」
「貴族社会だからです」
「理不尽」
フィアは頬を机へ押し付けた。
その横でエマは、慣れた様子で当日の準備を進めていく。
「最低限で構いませんので、ちゃんと挨拶してくださいね」
「努力する」
「信用できません」
「ひどい」
エマは小さくため息を吐いた。
フィアは優秀だ。
礼儀作法も完璧。頭も良い。
だが、興味がないことへのやる気が壊滅的だった。
◇◇◇
交流会当日。
王城の一角にある大広間は、
すでに多くの若い貴族たちで賑わっていた。
豪華な装飾。磨き上げられた床。高い天井。
談笑する令息令嬢たち。
その中へ入った瞬間、視線が集まる。
「ヴァルディア家の……」
「噂の令嬢か」
「剣も魔法も優秀だとか」
「騎士団長の妹君でしょう?」
ひそひそ声。好奇心。値踏み。
フィアは開始数分で疲れていた。
「帰りたい……」
「まだ始まったばかりです」
エマはにこやかに返す。
助ける気はない。
フィアは仕方なく、挨拶を繰り返していく。
「フィア・ヴァルディアです」
「よろしくお願いします」
何度も同じ言葉。同じ笑顔。同じ流れ。
(長い……)
半分意識が飛びそうになった頃。
一人の少女が目に入った。
金色の髪。整った姿勢。
教本のように綺麗な所作。
見るからに“名門貴族”。
「フォンレイ公爵家、リゼ・フォンレイ様です」
エマが小声で教える。
四大貴族。
代々王国を支えてきた名家の娘である。
その中でもフォンレイ家は厳格な教育で有名な家系だった。
「リゼ・フォンレイです、
本日はよろしくお願いいたします」
綺麗な礼。
姿勢も、言葉遣いも、
まるで教本みたいに丁寧だった。
けれど。その動きは少しだけ硬かった。
まるで、“失敗しないように” 動いているみたいだった。
「フィア・ヴァルディアです、
よろしくね」
フィアはふわりと笑う。
「……はい」
リゼは少しだけ目を丸くする。
(思ったより普通……?)
もっと鋭い人だと思っていた。
新興ながら、王国中で注目されるヴァルディア家。
天才と噂があり、社交界にも全く出席していない。
そういったことから、もっと近寄り難いと思っていたのだ。
けれど目の前の少女は、
どこか眠そうで、少し気の抜けた空気をしている。
(不思議な人……)
それがリゼの第一印象だった。
その時だった。
「すごー!」
広間へ元気な声が響く。
「おっきい! シャンデリアすごい!」
周囲の視線を一身に受けながら、
一人の少女が目を輝かせていた。
赤茶色の髪。くるくる変わる表情。
楽しそうに辺りを見回している。
「あれカルヴァン家の……」
「商会貴族の娘か」
「元気だな……」
周囲の声をまったく気にしていない。
「ミナ・カルヴァン様です」
カルヴァン家。
大陸規模の交易を持つ新興貴族。
最近急速に力を伸ばしている商会系貴族だった。
(元気)
それがフィアの感想だった。
一方ミナは、フィアを見つけて少し驚く。
(あの子がフィア様?)
もっと怖い人だと思っていた。
でもなんだか眠そう。しかも少し退屈そう。
(変な人)
それがミナの第一印象だった。結局その日。
三人が交わした会話は、本当に挨拶程度だった。
けれど。互いの印象だけは、少しだけ残った。
◇◇◇
「疲れた……」
帰宅した瞬間、フィアはソファへ沈み込んだ。
「お疲れ様でした」
エマがお茶を置く。
「もう二度と行きたくない」
「お友達はできましたか?」
「いらない」
「作ってください」
「本が友達」
「悲しいこと言わないでください」
フィアはぐでっと机へ突っ伏した。
「だって疲れるんだもん……」
「貴族令嬢として必要です」
「うぅ……」
エマは少し考えた後、一枚の紙を差し出した。
「本日参加されていた方の一覧です」
「なにこれ」
「気になった方を選んでください」
「えぇ……」
「お茶会を開きます」
「なんで」
「友達を作るためです」
「いらないって言った」
「誰でもいいので作ってください」
フィアは嫌そうな顔をしながら紙を見る。
ずらりと並ぶ家名。
長い。つまらない。読むだけで眠い。
「もう適当でいいです」
エマはあきらめたように言った。
「ほんと?」
「はい」
フィアはぱらりと紙を眺める。
「じゃあ……これとこれ」
適当に二つ指差した。
エマは確認する。
「フォンレイ公爵家のリゼ様と、
カルヴァン家のミナ様ですね」
「有名なの?」
「かなり」
「ふーん」
興味なさそうな返事。
だがその適当な選択が、
これから先、フィアにとって大切な出会いになることを。
この時の彼女は、まだ知らなかった。
読んでいただきありがとうございます。
更新は火・金の20時予定です。
少しでも続きが気になると思っていただけたら嬉しいです。
よろしくお願いいたします。




