第13話
ここは、ノーザリア国の城下町。
城を出て宿屋に落ち着いたオルガたちは、広間に集まっていた。
暖炉の火がバチバチと音を立てて燃えている。皆、何も話さず静寂に包まれていた。
沈黙を破ったのは、ゴブローだ。
「それで......何があった? 教えてくれ」
ゴブローはアイリスとエリーゼを見る。
「フィーネとリリィと私は、ノーザリア国王に戦争を止めるように進言しましたにゃ。でも、聞き入れてもらえなかった」
「頭の固い国王だな」
スザクが言う。
「交渉が決裂して、大臣のバロールが現れたにゃ」
「バロールが......!」
オルガが絶句する。その場の皆が
固唾を飲んで話を聞く。
「バロールが片目の眼帯を外すと、そこには黒い穴が開いていて、フィーネとリリィはそこに吸い込まれましたにゃ。私は気づかれないように猫になって逃げましたにゃ」
「フィーネとリリィが......吸い込まれた!?」
ホウオウが驚く。
「恐らく、バロールの精神世界に二人は幽閉されたんだろう」
イブが言う。
「精神世界ってなんだ?」
ハクが訊ねた。
「バロールの精神世界。言ってみればバロールの心の中に二人は閉じ込められているのです。そこは何があるか分からない。長く閉じ込められるとフィーネとリリィの精神を侵食する......」
アイリスが真面目な顔で言う。
「とにかく早く助けないと!」
オルガが焦りの色を見せる。
「簡単には行かないだろうな。」
ミカが腕組みをしながら言った。
すると、外が騒がしくなってきた。
宿屋の外で慌ただしく人が動いている。
「戦争だ! 戦争が始まるぞ!」
「イストリア軍が攻め込んできた!」
「皆んな、家に隠れるんだ!」
「ついに、来たな」
イブがつぶやく。
「まだ間に合う。最前線に行って、軍を止めよう!」
オルガが言って、立ち上がる。
「よし!行こう!」
ホウオウとスザクも立ち上がった。
オルガたちは、城下町を出て雪原の最前線に向かう。
大勢のノーザリア軍の兵士たち。その一番前にバロールがいるはずだ。
その頃。
三司祭バロールの精神世界。
「......う、ん......ここは?」
フィーネは目を覚ました。
辺りを見回すと一面の荒野が広がっている。茶色い土に覆われ、ひび割れている。草木は一本も生えていない。空は厚い雲に覆われていて、薄らと明るいが太陽は見えない。
「リリィは、どこ?」
周りには人っ子一人いない。
「リリィ! どこにいるの? 返事をして!」
フィーネの声だけが響く。返事は無い。
フィーネは歩き出した。
(探して......)
頭の中にあの声が響く。
「言われなくても探すわよ。リリィは絶対に」
フィーネは足を進める。
しばらく歩くと、巨大な影が見えた。
「......あれは......また、厄介ね」
その影はゲンブだ。
「......エルフ......殺す......殺す」
ゲンブは正気を失っている。
「倒すしか無さそうね」
フィーネは疾風の如く素早い動きで拳と足蹴りを繰り出す。
「ぐっ! 兄貴、力を......!」
足首を執拗に狙われて、ゲンブは膝をついた。
「ライトニングソード」
光の刃をフィーネは無慈悲にゲンブの首に振り下ろす。
首を斬られたゲンブはそのまま消えた。
一方。
「ん、う......ん......」
リリィが目を覚ます。
「ここは?」
周りは見渡す限りの荒野。ふと横を見ると、なぜか美しい黒猫がいる。
「お前も一人なの?」
リリィはそう言って立ち上がった。
......以前にこんなことがあったような......? 不思議な感覚に襲われていた。
リリィは行く当てもなく歩き出した。
黒猫もついてくる。
ひたすらに真っ直ぐに歩く。
すると人影のようなものが見えた。
(リリィ......リリィ......)
頭の中に声がする。
黒い影、真っ赤な瞳。ブレザーの制服を着た少女。
「貴女は......百合?」
リリィの前世の少女、百合。どす黒いオーラを纏った彼女は、世の中の全てに悪意を向けている。
「憎い! みんな大っ嫌い!」
すると、黒猫がスーッと前に出て、見る見るうちに人の姿に変わった。
その姿もまた百合そのものだった。ただ、優しい瞳、優しい表情。薄らと白い光を纏っている。
「リリィ、私と来て」
もう一人の百合がリリィに言う。
「百合が二人......」
リリィは戸惑っている。憎悪の塊の百合、優しい百合。どちらも本当の百合だ。
「リリィ、私を選びなさい!」
「リリィ、私を選んで」
二人のゆりが選択を迫る。
「そんな......私、選べないよ......」
リリィはうつむいた。しかし、
二人の百合を一緒に抱きしめ、リリィは言った。
「どちらの百合も私。どっちかなんて選べないよ。みんなで一緒に生きよう?」
「ありがとう、リリィ......」
ふたりの百合は消えていった。
残されたリリィは涙を流していた。
リリィは涙を拭う。
「フィーネを探さなきゃ」
また、荒野を歩き出した。
ノーザリアの雪原。
「ノーザリアの精鋭よ! 今こそ戦いの時だ!」
バロールが声を上げる。
「うおーっ!」
兵士たちが一斉に雄叫びをあげた。
その目の前には、数万のイストリア兵が迫っている。
戦争は避けられない情勢だった。




