第11話
ここはウエス国の城下町に向かう道中。
フィーネたち一行は、ウエス城に向けて馬車を走らせていた。
「すー、すー」
フィーネが寝息を立てている。
ガバッ!
突然起き上がったフィーネは、びっしょりと汗をかいていた。
「何だか嫌な夢を見たわ......」
「どうしたの?フィーネ」
リリィが心配して声をかける。
「ただの夢よ。前世のね」
フィーネは少し暗い表情になった。
「どんな夢?」
フィーネは興味があるようだ。
「教えない」
「えーっ!フィーネのケチ!」
リリィは口をすぼめて言った。
(セルティナ......あの子が最初の私なの?)
フィーネは考え込んでしまった。
「姉さん、大臣のバロールってアイツに似てなかった?」
スザクがホウオウに話しかける。
「アイツって......まさか!?」
ホウオウは何かに気づいたようだ。
「そう、ゲンブよ。よく似てるわ」
スザクは確信を持って言う。
「ゲンブとバロールは兄弟?まさか、だとしたら厄介ね」
ホウオウは腕組みして考え込んだ。
「お父様とは、久し振りに会うにゃー」
エリーゼは、楽しそうに外の景色を眺めている。
「エリーゼは父親と離れて暮らしてて寂しくないのか?」
ハクが聞く。
「リリィやハクや皆んなが一緒だから寂しくないにゃ」
エリーゼは即答した。
「そうか。おいらはずーっと独りだったから、何だか今が嘘みたいに感じるんだ」
ハクが少し真面目に言う。
「今の皆んなは家族にゃ。嘘はないと思うにゃ」
エリーゼがハクの頭を撫でる。
ハクは悪い気がしなかった。
「メルティナは、何であんな風になってしまったんでしょう......」
アイリスがつぶやく。
「メルティナは罪を犯した。その結果、心が歪んでしまったんだろう」
イブが言う。
「セルティナが可哀想ですわ。今頃、どこの誰に転生しているのか......」
アイリスの言葉にイブは動揺したが、それを隠して、
「セルティナの罰には終わりがある。それがせめてもの救いだ」
そうつぶやいた。これは本心だ。
「セルティナに会って、あの時、止める勇気が無かった私のことを謝りたいですわ......」
「アイリス......」
全てを知っているイブは、複雑な気持ちだった。
馬車は、ウエスの城に到着した。
フィーネたちは、王の間に向かう。
王の間の玉座にはウエス国王が座っている。
「フィーネ殿、家族の皆様、よくぞ参られた。エリーゼ、見違えたな、さあ、こちらへ」
エリーゼは国王の方に歩いていく。
ウエス国王はエリーゼを抱き寄せ頬ずりをした。
「愛しのエリー、寂しかったぞ」
「......お父様、やめて下さい」
エリーゼに睨まれて、国王は手を離した。
「すまん、エリーゼ。寂しかったもので、つい......」
エリーゼはリリィの隣に戻った。
「国王陛下、この度はノーザリア国王との謁見を仲介いただき、ありがとうございます」
フィーネが言う。
「うむ。だが、向こうは条件をつけてきた。くれぐれも用心してくれ。」
ウエス国王は、フィーネ、リリィ、エリーゼの三人を見て言った。
「ノーザリア国の新しい大臣は、魔神教の三司祭の一人のようです」
「なんと!そうであったか」
フィーネの言葉にウエス国王は驚いた様子だ。
「私たちが必ず戦争を止めます。国王陛下の計らいを無駄にはしません。」
フィーネは力強く言った。
「頼んだぞ。フィーネ殿、エリーゼ」
「畏まりました」
「はい。お父様」
ウエス国王との謁見は終わった。
その夜。
酒場で夕食を食べている時。
(探して......)
また、あの声だ。フィーネは何かに導かれるように席を立った。
「少し、外の風に当たってくるわ」
そう言うとフィーネは、店の外に出た。
夢で見た光景がフラッシュバックする。メルティナの過去、妹のセルティナ、アイリス、イブ......99回の転生......。
「......私が、セルティナ?」
(......救って......)
「救うって、誰を?」
フィーネは混乱していた。頭が割れるように痛む。
(助けて......フィーネ)
「ハンス?!」
頭の中でハンスの声が聴こえた気がした。フィーネは頭を抱える。
「私はどうしてしまったの?」
「フィーネ、大丈夫?」
声をかけたのはリリィだ。
「大丈夫よ、リリィ。少し疲れただけ」
「フィーネ、一人で抱え込まないでね。何かあったら、オルガや私に相談して」
「わかったわ。ありがとう、リリィ」
「じゃあ、先に戻ってるね」
そう言ってリリィは酒場に戻った。
入れ替わりでオルガがやってきた。
「フィーネ。大丈夫か?」
「うん、大丈夫。ありがとう、オルガ」
二人はしばらく無言で寄り添っていた。
「一人で何かを抱え込んでるなら、言って欲しい」
「ありがとう」
「僕は何があってもフィーネの味方だ」
「私ね。ずっと昔に好きな人がいたの。いまだにその人の夢を見る」
フィーネの話をオルガは黙って聞いている。
「その人は優しくて良い人だった。私の目の前で魔物に食べられてしまった」
オルガは、驚いた顔でフィーネを見る。
「大丈夫。もう何百年も前の話だし、今では沢山の記憶の一つ。」
「フィーネ......」
オルガはフィーネを抱きしめた。
「私、オルガを失うのが怖い。ハンスと同じことになるんじゃないかって......」
フィーネの瞳から涙が溢れる。
「約束するよ。僕はまだ死なない。僕は歳をとって爺さんになって、フィーネに看取られて死ぬんだ。」
「ありがとう。約束よ」
フィーネはより強くオルガを抱きしめた。
空には三日月が浮かぶ。
まるでオルガとフィーネを乗せた小舟のようだった。




