第91話 いやいやいや……
ピーーー
試合開始の笛が鳴る。
試合は10分間。
自由にチームを作れと宣言したが、最初は動き出しも鈍い。まずはヨウともんちゃんを中心にサッカー部員たちがチームを作った。
コートは2面あるが、その1面で初戦が始まった。
チームは、もんちゃん(DF)、中山(FW)、夏海が所属する "なつもんドラゴン" vs ヨウ(FW)、野村(MF)、西山(GK)所属の "イケオジ・ファイブ" 。DF司令塔 vs GK司令塔という組み合わせだ。
まずはサッカー部員で始めようという雰囲気であったが、夏海が熱望してもんちゃんとのチーム作りとなった。チーム名は夏海が決めたらしいが……、夏海のセンスって……。
対するヨウ所属のチームは……、何も言いますまい。
なぜかペイにはメンバー構成、チーム名ともに高評で、社長の前での初披露試合としては満足のマッチングのようだ。さらに言えば、テンも喜んでいるように見える。
何がツボに入るのか、ヒット商品というのは分からない。
さて、試合は、DFもんちゃんがフィールドを仕切る "なつもんドラゴン" が、巧みにボールを回してゴールに迫る一方的な展開が続く。
"イケオジ・ファイブ" のGK西山はナイスセーブを続けるも、敵FWの中山と何度も1対1の場面を作られ、止めきることはできない。すでに2点を献上している。
試合も残りわずかとなった時間帯、もんちゃんが、左サイドの中山に視線を向けてパスを繰り出そうと動き出した。
その時、ヨウは右サイドに転がる青いボールの軌跡を視認した。これから1秒先の未来を映し出すボールだ。
気づいたのは良いが、ヨウは前線から戻りきれておらず間に合わない。
「右サイドフォロー!!」
ヨウは、味方に向かって叫ぶのが精一杯だったが、それはGK西山、MF野村が準備するには十分な情報だった。
「ノム、しっかり詰めろよ!!」
ヨウからの言葉通り、もんちゃんは右サイドの夏海に向かってボールを蹴り出した。
すでに野村に反応されている以上、素人の夏海への意表をついたパスは通らない。
もんちゃんはそう確信し、"ヨウさんに時々やられるんだよなぁ"と悔しさを噛み締めた。
パスは、夏海の走り込むやや前方に転がっている。夏海の方が少し早めに到達しそうだが、しっかりと野村が詰めている。
そのとおり、夏海がわずかに早くボールに到達し、野村と正面で向き合う形になった……と思った瞬間、夏海は左足でちょこんとボールの軌道を変え、そのまま野村の左側を回り込むようにして走り続けた。
軌道を変えられたボールは、野村の股下を転がり、野村を回り込んだ夏海と西山の間に転がっている。
これを見て、GK西山は迷わず前に出てボール奪取を狙いに行くが、これもまた、わずかに夏海のほうがボールに早く到達しそうだ。
やはり夏海がボールに先に到達したため、GK西山は身体を投げ出して滑り込み、シュートコースを消しに行く。
ぽ〜ん……。
大柄なGK西山が身体を投げ出してボールに向かって来ているため、シュートする隙間などほとんどない。そんなGK西山の身体の上をふわりと越えるような軌道のボールが夏海の足元から蹴り出された。
あまりにもきれいなフォームのため、ちょこんとボールの下側に足を差し入れただけに見える。
倒れ込むGK西山の遥か頭上をゆっくり通過するボールが、ゆっくり、ゆっくり、ゴールに向かっていき、ようやく地面に到達した。
ぽん、ぽん、ぽん
……パシュ。
GK西山のプレッシャーをものともせず、夏海は軽々とループシュートを決めて1点取ってしまった。もんちゃんのパスから、わずか2タッチの出来事だった。
……。
コートが沈黙に包まれた。
試合後に夏海に聞いたところ、「勇気の真似をしたっす」とのこと。
いやいや、いやいやいや……。
な、なっちゃんは何者?
"イケオジ・ファイブ"は、最後の夏海に対するディフェンスでもわかる通り、手加減なしで臨んだのだが、結局3-0の大差で勝敗が決まってしまった。
中山が2ゴールで10コイン(試合出場1コイン、勝利3コイン、得点3コイン×2点)。
次点はなんと夏海であり、7コイン(試合出場1コイン、勝利3コイン、得点3コイン×1点)となった。
一方、ヨウはこの試合で、なんとか1コインをもらったのみであった。
「このリーグでなら、お金持ちになれそうっす。」
夏海が嬉しそうに、わさびからあおコインを受け取る。
「もんちゃんさん、安心して欲しいっす。私が養っていくっす。」
夏海が顔を赤らめながら、もんちゃんにアプローチしている。
そんな2人の後から、へとへとになったヨウがあおコインを受け取りに来た。
「はい、ヨウは1コインね。」
「えっと、このまま勝てないなら、少なくともあと4試合に出ないと食事にもありつけないのか……。」
ヨウは、西山らを始めとした他のメンバーに申し訳ない気持ちになった。
「おいヨウさん、まだ試合はあるんだろ?作戦を練るぞ。」
そんなヨウに、西山が声をかけてきた。普段は無口な男だが、こういう時は話が違う。闘志むき出しでヨウを見据えた。
「そ、そうだね。みんなで集まろう。」
ヨウが皆を集めて、次戦に向けての作戦会議を始めた。




