第88話 10と11
今日は火曜日、ハッピーチューズデー。
アリスが名付けた"はぴちゅ"の日だ。
会社も部活も休み。そのうえ夜は「お好み焼きてっぱん」が社割で利用できる、部員たちの癒しのひとときだ。
ヨウは、あおい庭園管理がメインのためシフトが違うが、仕事を終えて、わさびとユミと連れ立って「てっぱん」にやってきた。
「お〜、お疲れ。」
すでに何杯かやって出来上がっているイレが、ヨウに手招きする。いつもと同じ、オヤジさんの焼き台前のカウンター席だ。
ヨウは呼ばれるがまま座ろうとして、イレの向こうで"さかつくスペシャル"を頬張る男性を見てギョッとした。
なんとカウンターには、あのテンがいた。
「やぁ、ヨウ君。久しぶりに食べるけど、やっぱりさかつくスペシャルは最高だよ。ね、アニキ。」
テンがオヤジさんに声をかける。
「このおっさんには、俺らが若けぇときから食わせてもらっててな。当時のさかつく部員は、みんなアニキって呼んでたんだ。若けぇ頃から、おっさんだったけどな。」
イレが補足する。
「うるせぇ、お前だってどっからどう見てもおっさんだろ。それにしても、テンはまったく変わらねぇな。苦労してねぇんだろ?大金持ちさま。」
冗談を言い合いながら、テンは楽しそうに食事を続けている。
さすがに不意を突かれたな……。まだ、まとまってない。
ヨウは、テンリーグの進捗への焦りを思い出しながら、夏海が運んできたハイボールで喉を潤した。
「さて……。うちの右腕は、どれくらい作ってくれたかな?」
ふっと真剣な目つきになったテンが、ヨウを見つめる。隣でイレが苦虫を噛みつぶしたような顔で腕を組んだ。
「え、えっと……。方向性は決めましたが、具体的には……。」
ヨウが、ああでこうでと説明していると、不意にテンが視線を外した。
「お〜い。」
小さく呼びかける。
すると、いつの間にかヨウの背後にペイが立っていた。
「どう?できてる?」
テンが尋ねる。
「もちろんですよ、社長〜。もうばっちりです。」
ペイは、大好きな飼い主にまとわりつく犬のようにすり寄ってきた。
「あ、じゃ、よろしく。それでさ〜。」
テンは、ペイがそこにいないかのように、イレとオヤジさんとの会話に戻った。
イレさん、引いてる……。
ヨウは、いつものようにうすら寒さを感じながら、ハイボールをちびちびと舐める。
「ヨウ君。」
背後から低い声。
「うわ!?」
振り返ると、すぐ後ろにイレが立っていた。思わずハイボールを吹き出しそうになる。
「明日からもう実装ですよ、テンリーグ。社長の滞在は明後日までの3日間。やることやりますよ。」
「え〜!!」
ヨウは思わず大声を上げた。
さかつく部員たちが、何事かと視線を向ける。
だがテンとイレは、何事もなかったかのように酒を酌み交わしている。
明日から、どうすればいいのか。
何を話したのかも定かではないまま、気がつけば夜は更けていた。
その後は、ペイと遅くまで飲み明かした。




