第86話 あおい庭園経済圏
最近のヨウは、昼間はスタジオみかんに通い、美香やわさびと打ち合わせを重ねている。
ペイも本人の希望で同席してもらっているが、会社運営の猛者に支えてもらえるのは本当にありがたい。
夕方になると、さかつくの練習があるためグラウンドへ向かい、ブルーズのメンバーとして汗を流す日々を送っている。
みんな体力モンスターだなぁ。
練習後のロッカールームではしゃぐ選手たちを眺めながら、ヨウも帰り支度を整える。
「ヨウさん、かなり体力つきましたね。」
不意に勇気から声をかけられた。
「いや、ぜんぜんダメでしょ。もうボロボロでさ。帰ったら立ち上がれないよ。」
ヨウが答えると、今度はキャプテンの仲地が口を開く。
「いや、ヨウさんは少しはまともになってきたぞ。事実、いま倒れてない。」
「倒れるの前提かよ。」
そう言い返しながら、気づけばヨウも、はしゃぐみんなの輪の中に入っていた。
勇気、さんきゅ。
ヨウは勇気に感謝しながら部員と別れ、社宅へ向かって夜道を歩く。
冬の青空市は、しこたま寒い。風も強い。
その代わり、今日のような寒風吹きすさぶ夜には、満天の星空というご褒美が待っている。
美しい夜空を見上げながら、わさびや夏海の待つ暖かい我が家を目指した。
なんかさ、横浜で暮らしてた時は、いつも画面の向こうばっかり見てたな……。
朝起きてスマホ。
家を出て駅に着いてスマホ。
電車に乗ってスマホ。
……俺、何してたんだろうなぁ。
そんなことを考えているうちに、ふと考えがまとまってくる。
スタジオみかんは、お客さんが、景色に映えるイラストを撮影してSNSに上げる。
ここでも画面の向こうを見てるんだな。
ほんとに、それでいいのかな。
『みかん箱』は、みんながのぞき込んでた世界に来てもらう場所にしたいな。脱ITとか、脱AIとか。
そんな場所っていう地位を確立できたら面白いかもな。
画面の向こうを見る場所じゃなくて、人が人を見る場所。
そんなことを考えながら、ヨウは社宅の玄関を開いた。
「ただいま〜。」
いつものように靴を脱ぐ。
「あ、ヨウ。洗濯物取り込んじゃって。ちゃんときれいに畳んでね。この前、シャツが裏返しだったよ。ほんとちゃんとしてよね。」
わさびから、なぜか小言を言われながら仕事を与えられる。
「ヨウさん、洗濯洗剤が切れそうっす。なんで、こないだ買っておかなかったっすか?頼んだと思うっすけど。」
今度は夏海からのお小言だ。
週末はわさびも夏海も用事があったので、ヨウが日用品の買い出しに行った。その際、買い忘れたらしい。
「あ、ごめん!今から車で買いに行くよ。」
「今日はポイント率悪いからだめ。ほんとにヨウは人の話聞かないんだから。」
とにかく小言を言われつつも、ヨウは洗濯物を取り込み、教わった通りに畳んで所定の場所に片付けた。
「洗濯物ありがとう。今日はカレーだよ。」
「やったっす!」
労いの言葉と美味しい夕飯に、小言などすっかり忘れて幸せな気持ちで我が家を満喫した。
すっかり忘れるから、また小言を言われるのであるが……。
「夏海、あおコインの話はだいぶ進んだよ。」
今の夏海はスタジオみかんの運営を手伝っているため、情報共有が不足している。この団らんの時間を使ってわさびが説明を始めた。
「難しいんっすよね、私には。美香は分かってるみたいっすけど。」
「美香さんは元銀行員だからね。こっちが教えてもらってるよ。」
ヨウが答える。
「今日決めたのは、テンリーグの選手は試合に出るとあおコインがもらえる。それ以外は普通のお金でやろうかってこと。」
「へ……へ〜。理屈は分からないっすけど、私は試合に出ないから、あおコインは関係ないっすね。」
「まぁ、まだ分からないけどね。夏海に『みかん箱』の受付をやってもらうかもしれないじゃない?
その時に、あおコインを渡す仕事はあるかも。」
「な、なるほど〜???」
夏海の頭の上に???が三つくらい乗ったまま、夜は更けていった。




