第85話 第1回テンリーグ設立検討委員会③
「みかん箱に入れるものを、イラストだけにするのはやめる?」
ヨウのアイデアに、ペイは絶賛してくれたが、他の委員にはうまく伝わらなかったようだ。
もんちゃんが代表して質問する。
「何でも委託販売しようかなって。」
ヨウが答える。
「それって、アプリとかの何でも売るやつのイメージ?アクセサリーとか資料作成とかの?」
「そうそう、副業アプリみたいな感じ。」
「で、何が違うの?」
「青空市で生活するために、リアルな売り買いをするんだよ。」
……??
う〜ん、うまく説明できないなぁ……。
ペイを除くすべての委員の頭の上に、はてなマークが浮かぶのを見て、わさびがたまらずホワイトボードにイメージ図を描きながら説明を始めた。
「えっと……この『みかん箱』に入れるものは、みかん。でも、みかん以外も入れようって話は分かったよね?」
わさびが委員に向かって問いかける。
「まぁ、何でも儲かればいいんじゃねぇか?」
イレが適当に答えた。
「じゃぁ質問です。儲かるって、どういうことですか?」
わさびの根源的な質問に、一同が静まり返る。
「物を売ってお金をもらえば儲かりますよね。」
未来が高校の授業のように手を上げて答えた。
「そう。そのお金はどこから来ると思う?」
「青空市の外……ですか?」
未来が答える。
「そう。外から来る人に払ってもらう。普通はそう考えるよね。でも、それだとずっと、たくさんの人にお金を持ってきてもらわないといけない。」
わさびはホワイトボードにお金と書いた。
「世界中の人が欲しがる物を作る工場でもあれば別だけど、ここにはないでしょ。それに、どんな商品もいつかは売れなくなるし。」
一同は黙って聞いていた。
「だから、みかん箱の中には、町の中で売り買いできるものをたくさん詰め込んでいきたいの。
物々交換に近いかも。
例えば、『みかん箱』でぶどうを売った代金で、勉強を教えてもらうとか。」
「つまり、それは『みかん箱』を中心にした、あおい庭園独自の経済圏を確立するということですよね?」
ペイが静かに口を開いた。
「素晴らしい。でも大変だし、危険でもあります。」
ペイは少し笑う。
「それでも、素晴らしいと思います。」
ペイさんは、たぶん何手か先を見ているなぁ。
ヨウには、ペイの言う危険の意味は分からない。だが、ペイの頭の中には何かしらの未来が見えているのだろう。しかも、それは素晴らしいらしい。
「結局、具体的にどうやるんだ?」
イレが目をつぶって考えながら、わさびに問いかけた。
「例えば、未来君が『みかん箱』でリフティングの実演を売りに出します。売り出しはネットか張り紙。それを見た人が、『みかん箱』で買う日を決める。」
わさびはホワイトボードに書きながら続ける。
「未来君は、その日が来たら『みかん箱』に来て、リフティングを実演する。そしてお金をもらう。」
「なるほど、何でも売買できる実店舗ってことですね。」
未来がうなずく。デジタルネイティブの未来には珍しいスタイルのはずだが、すんなり受け入れることができたようだ。
「はい。ここでポイントなのは、ここでの売り買いは日本円ではないということです。」
??
「ドルですか?」
未来が首をかしげる。
「あおコインです。『みかん箱』でしか使えません。あおコインは、アリスちゃん命名です。」
「あおコインか〜。じゃ、買う人はどこからあおコインをもらうの?」
「『みかん箱』に何かを売ってもらいます。」
「その何かって難しいね。でも、なんか面白いな。俺なら木工とか売るもんね。」
もんちゃんが興味を示し始めた。
「『みかん箱』が通貨を発行して、まちカフェあおいが政府。あおい庭園が国土って感じか。」
イレが腕を組む。
「ちょっとした独立国ごっこだな。確かに危険だ。議会制度もなんも整ってない中で国家ごっこなんてやったら、国民の選別とか汚職とか蔓延しまくりそうだぜ。」
社長らしく問題提起する。
「だから大変なんですよ。監査や警察機能も必要になります。」
ペイが追従して指摘する。
それを聞いて、わさびがうなずいた。
「……でも。」
イレがにやりと笑った。
「超小さな国家。うまくやれば、めちゃくちゃ住みやすいかもな。」
青空市に、小さな国家が生まれようとしていた。




