表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1秒ストライカー 〜1秒先の未来が見えるおっさん、サッカーで人生やり直す〜  作者: そきおこ
やっと本題、テンリーグ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

82/96

第82話 ヨウがいなかったわけ②

 話は少し遡る。


 ヨウがペイと共に高校生の勧誘で各地を回っていた10月初旬、彼らは沖縄にいた。

 10月とはいえ、沖縄はまだ夏の名残を色濃く残している。快晴の空はどこまでも高く、湿った風がゆるく頬を撫でていた。


 昼を少し過ぎた頃、3人は県中部の小高い丘の上にある小さな沖縄そば屋にいた。

目の前では、どこか不釣り合いなかりゆしウェア姿のテンが、そばに山のような紅生姜を乗せ、さらに迷いなくコーレーグースを回しかけている。


「でね。その時の僕は、本山造園の社員だったんだよ?」


 調味料を入れすぎたことにようやく気づいたのか、テンは手を止め、ゆっくりと顔を上げた。


「母さんは工場の話にどっぷり浸かってるし。

町は割れてるし……いたたまれないじゃない?

だからさ、本山造園を辞めて、町を出た。」


 ずるずるとそばをすすり、満足げにうなずく。


「うん、うまい。さすがペイ君が選んだ店だね。」


 ペイは苦笑しながら、静かに箸を進めている。

珍しく無口だった。

店内は地元客でほどよく賑わい、重い話題さえ沖縄の空気に溶けていくようだった。


「それでね。僕としても、先代に負い目があるし。恩返しのつもりでテンリーグをやろうと思ったわけ。」


 テンは水をひと口飲み、続けた。


「夏の花火大会の少し前さ。イレ君が来客対応で不在にした日、覚えてる?」


「ああ……AO大とのアウェイ戦の日ですね。」


 ヨウはスマホの予定表をスクロールしながら記憶を辿る。


「もんちゃんがマイクロバスを運転してたな。」


「そうそう。試合の日だよ。その日に話したんだ。テンリーグのこと。」


 ヨウの指が止まる。


「え? イレさん、知ってるんですか?」


「知ってるどころか、真っ先に相談したよ。」


 テンは少し笑い、窓の外に広がる青い海へと視線を向けた。


「でもね、断られた。」


 店のざわめきが、ふと遠くなる。


「僕も強行しようかと思ったよ。でもさ、強行したら、昔と同じになるでしょ。」


 母の影を振り払うように、テンは静かに息を吐く。


「だから言ったんだ。イレ君がやるなら出資するって。」


「……それで?」


「ヨウにやらせるから、金は頼むってさ。」


 ヨウは天井を仰いだ。


「……結局、俺なんですね。」


「そう。中心にいるのは、いつもヨウ君だよ。」


 軽く笑うテン。その目だけが真剣だった。


「それと、もう一つ。」


 声色が変わる。


「ヨウ君に、わさびちゃんへの連絡をやめてもらってるでしょ。これは、イレ君の頼みなんだ。」


 ヨウの眉がわずかに動く。


「もしヨウに会うことがあったら、しばらく会社から離してくれってさ。わさびちゃんの成長のために。」


 ヨウは、箸を持つ手を止めたまま動かなかった。


「……言ってくれればいいのに。」


 少しだけ、視線を落とした。


「競馬場の時なんて、完全に脅しでしたよ。」


 テンは肩をすくめる。


「イレ君と約束しちゃったからね。」


 少しだけ間が落ちる。


「さて、本題。」


 テンはまっすぐヨウを見る。


「テンリーグで町を活性化する時は、母さんも加えてほしい。」


「ピッチさんですか……」


 ヨウは苦く笑う。


「だいぶお願いしましたけど、難しいですよ。」


「母さんはさ、過去の負の象徴みたいになっちゃってる。でも僕は、気持ちよく里帰りしたいんだ。」


 その言葉だけは、どこか少年のままだった。


 ヨウは静かにうなずく。


「……分かりました。」


 沖縄の光が店の奥まで差し込む。


 テンリーグという未来と、町に残された過去。


ヨウは、その二つを同時に背負うことになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ