第75話 動き出している理想
「ヨウさん、プレゼンはもういいよ。せっかくみんなで集まってるんだから話し合おうよ。」
まだまだプレゼンを続けようとするヨウに対して、もんちゃんが静止する。
「あ、ごめん。……確かにそうだね。
……で、どんなアイデアを思いついたの?」
ここでヨウも気づき、ディスプレイをオフにした。かばんからメモを取り出して話を聞く姿勢に変えた。
「手伝いしてて分かったんだけど、みかんに来るお客さんってリアルを感じに来てるんだよ。ここに来てイラストを飾ればさ、AIで描いた作品でも“体験”になるもんね。」
「えっと……、どういう意味?」
ヨウは、最近のあおい庭園の様子を知らない。
当然、スタジオみかんの様子もわからない。
「いま、飲食の流行りってさ、SNSの影響がめちゃくちゃ大きいんだよ。行列ができてる店って、ほとんどSNSだもんね。」
「さすが、もんちゃんさんっす。」
夏海が合いの手を入れる。
「それでさ。美香さんのスタジオみかんをさ、絵師の委託販売の場にしようって話てたんだ。
美香さんのイラストも買いたいって人がいっぱい来てるけど、他の絵師にも門を広げてさ。
いまこそ、SNSの力でもっと人を集めるチャンスだもんね。」
「面白そうね。イラストに映える庭を維持しなきゃ。ごみを出さない『あおい庭園』にぴったりね。」
「素晴らしい……けど、それでテンリーグを持続していくことはできるのかなぁ。
……夢だけじゃ、リーグは回らないからなぁ。」
「ヨウはいっつもそんな調子ね。ブレストで批判厳禁忘れたの?」
「相変わらず、うだつの上がらないサラリーマンっす。」
ヨウは、昔の上司を思い出して、いかんいかんと首を振った。あの、ブレスト中に批判ばかりしていたダメ上司だ。
「まぁ、やってみろよ。とりあえず、収益になるならいいだろ。ただし、その仕事、スタジオみかんが儲かるだけだろ?うちに1円も入らねぇじゃねえか。どうすんだよ。」
「ウキ……。考えてなかったもんね。」
一同が、笑いに包まれる。
「美香だけじゃなく、うちも稼ぐ。考えるっす!!めちゃくちゃ燃えてくるっす。」
「そうね。いまのままだと、『まちカフェ』にもお金は入らないもんね。先月は、1日1000人くらい来たけど、売り上げはユミちゃんのお花だけだから、100万円くらいだよ。1日4万円いかないくらい。店舗の電気代とか水道代とか、全部うち持ちだから……。ユミちゃんのお給料もあるし、ほとんど残らないよ。むしろ赤字ね。」
「まぁ、最初はそれでいいって俺が言ってあるからな。心配すんな。」
イレが発言して、みんなを安心させた。
『あおい庭園』は坂本造園が運営する私設公園で、組合員になれば出店や委託販売ができる仕組みになっている。
組合費は月3万円、店の家賃や委託販売手数料は取らない。よって、組合員がどれだけ儲かっても『あおい庭園』の収入にはならない。
唯一の収入源は『まちカフェあおい』の売り上げなのだが、基本的に飲食は商店街にある組合員の商品を委託販売するので、お金はもらえない。
例外は、ユミが手掛けるお花の販売のみである。
そもそも、ヨウとわさびが決めた、町と共存する庭園としては完成していて、この場の収益をテンリーグの持続可能性と結びつけるのは非常に難しい。
「収益化検討は続けていくとして、まずは成長の可能性があることにはどんどん挑戦しよう!!」
ヨウが力強く宣言し、スタジオみかん成長チャレンジに坂本造園が全面協力することで、ミーティングは終了した。
坂本造園の挑戦は、まだ始まったばかりだった。




