第73話 ヨウは中間管理職
「テンリーグができたら、青空市はどうなるっすか?」
社長室に来てから初めて、夏海が口を開いた。
「テンさんは、かなり投資する予定みたいだから、めちゃくちゃ人が来ると思うよ。」
ヨウが答える。
「う〜ん、『まちカフェ』は生き延びられるかなぁ。」
「わさびさん、チャンスっす。」
わさびは不安そうだが、相変わらず夏海はイケイケだ。
「『まちカフェ』だけの問題じゃないよ。町がひっくり返る話だもんね。」
もんちゃんが、冷静に情報を整理し始める。
「そうなんだよ。だから、やめてもらった。」
――!!
「なんてことするっすか!! せっかくのチャンスなのに。」
夏海が前のめりに抗議の声を上げる。
「まぁ、待て……。それで、ヨウ、どういうことだ?」
先ほどまで天井を見ながら考え込むように聞いていたイレが、場に入ってきた。
「テンリーグは、坂本造園が設立することになりました。」
はぁ〜〜〜??
そんな声が聞こえてきそうな勢いで、全員が口を大きく開いたままヨウを見つめてくる。
「だから、テンリーグは坂本造園の事業として設立することになりました。」
ヨウがあらためて宣言すると、画面のプレゼン資料を次のページへ移した。
持続可能な制度設計の重要性について
【テンリーグの目的】
夢破れた者、人生を外れた者の再起は容易ではない。
そんな世の中で、サッカーを通じて再起する場を提供したい。
提唱者・高崎登氏の理念を実現するために設立する、バトルコロシアムである。
【ベネフィット】
テンリーグが活気づくことで、そのホームタウンの人的流動性を活性化し、住民の精神的・経済的満足度を高めることに寄与することが期待できる。
また、オーナーとなる予定の高崎登氏の資金力を背景に、リーグ自体は一定度の成功を見込むことができる。
【課題】
リーグ運営費はオーナーである高崎登氏からの資金提供のみで賄われるため、他の収入源を持たない現状の構想は、経済的リスクを常にはらんだ事業体であり、極めて不健全と言える。
また、本事業は公益性の高い性格を持つ反面、経済的事由により高崎登氏の私物と化すリスクも否定できない。
ヨウが、プレゼン資料としてはあまりにも読みにくい長文をモニターに映し出す。
研究職が長かったせいか、どう見ても論文のようなスライドである。
「よくわかんないっす。」
夏海が頭の上に「?」を浮かべながら、脊髄反応で質問する。
「ヨウさん……よく分かったもんね。で、何やるの?」
「それを考えなきゃいけないんだよ。さて、ここからが本題です。」
「もう頭がパンクするっす。こういうのは美香のほうが得意っす。美香を呼ぶっす。」
夏海が音を上げたので、ヨウは次のページにスライドを移すのをやめた。
「分かりにくくてごめんね。つまりさ、テンリーグは勝った選手に賞金を出す。でも、この賞金はテンさんが出す。ここまでは分かる?」
ヨウが夏海に問いかける。
「それは分かったっす。」
「もしテンさんが飽きたり、テンさんの会社が傾いたらどうなる?」
「賞金出なくなるっす。」
「みんないなくなっちゃうね。」
「そう。テンさんの熱い想いで、この青空市にものすごいお金をかけて建物を建てたり、人を集めたりしても、テンさんがやらなくなったら、大変なことになる。」
夏海も分かってきたようだ。
「で、なんでウチがリーグ設立すんだ?」
イレが、最大の疑問を投げかけてきた。
「すいません。つい、やるって言っちゃいました。ウチでテンリーグを持続可能なリーグに仕上げて、それをテンさんに買ってもらう。
そこからの投資なら、資金源の何かに集中投資して、その何かを成長させていく形になるでしょ? それなら青空市も、それほど大変なことにはならないはずです。」
「バカヤロー。その“何か”が難しいじゃねぇか。
なに勝手に決めて来てんだ。」
イレがヨウを一喝する。
「いや、テンさんとしては、俺が止めなかったら、もう今月には始めてたらしいんですよ……。
いちおう、この町を救った形にはなったのかなと。」
「そりゃ確かに仕方ねぇのかもしれないが……。
そもそも町の連中には、テンがリーグ作った方が喜ばれたんじゃねえか?
いや、それは分からんか……。」
社長室に、何とも言えない空気が漂う。
とにかく急ぎ、何かをしてテンリーグの収入源を作らなければならない。




