第72話 さわんとうわん
「そういえばさ。観光客が増えてるのは分かったけど、ピンクのおじさん見なかった?」
プレゼンテーションの準備を終え、社長室に重たい沈黙が落ちる中、ヨウが思い出したように口を開いた。
「あ〜、あの人、有名だよ。ものすごい早口のおじさんでしょ?毎日、わさびさんに会いに来てるもんね?」
もんちゃんが笑いながら、わさびを見る。
「うん。ペイさんでしょ?毎日来るよ。
……何しに来てるか分かんないけど。」
「お〜、あのピンクの早口か。」
どうやら、悪い印象は持っていないらしい。
……たぶん。
「そう、ペイさん。彼と一緒に2カ月くらい仕事してたんだ。最後1カ月は、青空市に行くって別れてたけどね。」
!?
4人は顔を見合わせた。
……あのピンクの早口おじさんが?
誰も言葉を発せなかった。
「あの人、あれでテンさんの左腕なんだよ。」
「左腕?右腕じゃなくて?」
わさびが変な声で突っ込みを入れる。
「そう。で、俺が右腕らしい。」
「なに!?あの野郎〜。」
イレは天井を見上げ、深くため息をついた。
「ヨウが右腕なんて……『アオソラ』も危ないわね。昨日頼んだ商品、ちゃんと届くかしら。」
わさびさん、普通に失礼だから……。
「とりあえず仕事してたって!
……で、これから本題に入ります。」
ヨウは咳払いをひとつして、画面を切り替えた。
『テンリーグ設立計画書』
2026.11.28
坂本造園 総務部企画課
画面に映し出されたのは、やけに堅苦しいタイトルだった。
「……何を始める気だ?」
そんな顔で、4人は無言のまま画面を見つめた。
「え〜、それでは、『テンリーグ設立計画書』とありますが、これから坂本造園とテンリーグのかかわりについて説明と提案をさせていただきます。」
静まり返った室内に、ヨウの声だけが響く。
相変わらず、ぎこちない話し方だった。
ヨウは説明を続け、スライドを次のページにする。
「では、最初のスライドから説明します。
実は、通販最大手の『アオソラ』は、今年の秋この町にリーグを設立し、日本中から人を集める。
……それが、彼の構想です。
テンリーグとは、『アオソラ』社長・高崎登が提唱するサッカー下剋上のプライベートリーグです。」
4人は、画面に映し出されたピラミッド図を食い入るように見つめている。
さっきと同じ図のはずなのに、今はまるで違って見えているようだった。




