第70話 我が家が一番
「わさび、なっちゃん、ただいま。」
「ヨウ、お帰り。」
わさびが、何事もなかったかのようにヨウを迎える。 玄関に満ちるいつもの空気に、ヨウの肩からすっと力が抜けた。
「ところでさ。あおい庭園に美香さんっていう人が、スタジオを作ったの。イラストを描いたりするスタジオね。その人が、今日起きたトラブルを私に教えてくれなかったんだよ。信頼されてないのかな〜。」
「すごいじゃん。もうテナント入ってるんだね!
その美香さんがオーナーなんだ。
わさびとの関係性が分からないから何とも言えないけど、報告するほどのことでもないって判断したのかもね。」
ヨウが着替えをする間もないうちに、いつものおうちミーティングが始まった。
思えば、8月半ばに夢中競馬場へテン探しに行かされ、気づけば11月も終わろうとしている。
約3カ月ぶりの我が家だった。
やっぱり我が家ってのはいいもんだなぁ。
つくづく思う。
どこにいるかじゃない。
どこに住むかでもない。
誰といるか。
俺にとっては、
わさびがいるところが我が家なんだ。
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「なるほどなぁ。人が増えるとさ、その分いろんなことが起きるよな。こういうとき、まとめ役が必要なんだよ。まさに『まね〜じゃ』のチカラの使いどころだ。」
「なんすか?『まね〜じゃ』って。」
夏海が不思議そうに聞いた。
「わさびは、みんなのマネージャーってことだよ。」
ヨウが適当に答える。
「雑な回答っす。」
夏海が即座にダメ出しをする。
3カ月前と同じ我が家の空気が、すっかり出来上がっている。
「まぁ、なんていうかさ……。俺がこの町に来たのは、わさびのマネジメントに従っただけだからね。」
「ヨウさん、いい齢して主体性ってものはないっすか?」
「ないない。むしろ齢取ってなくなったよ。
経営者とか、そういう人たちには必要なんだろうけどさ。
いい歳したおっさんの役目はさ、
前に出ることじゃなくて、世代交代だよ。
俺は、イレさんとわさび様についてくだけですよ。」
「よく分かんないっす。」
わさびは2人のやり取りを聞いていたが、すっと立ち上がり、慣れた足取りで寝室の方へ向かっていった。
「ヨウ〜、お風呂に入っちゃって。パジャマはお風呂場に置いといたから。」
その一言で、なんとなくおうちミーティングは終了した。
いつの間にかヨウさんの秋用パジャマが用意されている……。めちゃくちゃラブラブっす。
夏海は何も言わなかったが、わさびの準備の良さに内心驚愕していた。




