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1秒ストライカー 〜1秒先の未来が見えるおっさん、サッカーで人生やり直す〜  作者: そきおこ
第6章 青空市の未来

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第69話 いいことばかりじゃないよね

 スタジオみかんバズり事件以来、青空商店街には観光客が絶えなくなっている。

 とはいえ、往来が人で溢れ、交通渋滞が起き、バスが来ず、ゴミ問題に頭を悩ませる……そんなオーバーツーリズムが起きているわけではない。


 ただ一つ、キャパの小さなホテルアリスは大変そうだが、農家のおばちゃんたちがパートに来てくれているおかげで、なんとか回っている。


 確実に人は来ている。


 客足の中心はあおい庭園だが、それぞれの店はまちカフェに飲食を提供しているし、最近は「ブンチン堂」などからの委託販売も始まった。


 町は、確実に潤い始めている。

そして、活気という熱が、じわじわと充満し始めていた。


「ここからが勝負どころよね。」


 わさびは今日の売り上げの計算を終えると、ビーズクッションに身をうずめ、天井を見上げながら夏海に話しかけた。


「そうっすね。でも……難しいっす。」


 バズり事件の日、爆速スタートダッシュを決めた娘も、今は同じようにビーズクッションに沈み込んで減速気味だ。


「なんていうか、一捻り足りない気がするっす。

なんか、もうちょっと、“どかーん”っていうのが。」


「夏海はいつも、何言ってるか分かんないよ。

でも、いつも一生懸命働いてくれてありがとね。」


「へへへ。夢中で楽しんでるだけっすよ。」


 バズり事件を受け、イレは夏海を即座にまちカフェ担当に任命した。

 てっぱんは、親父さん一人では回らないため、ホテルアリスと同様に農家のおばちゃんたちにパートとして応援を頼んでいる。


 親父さんは「早く帰って来い」と、珍しく泣き言を言っていた。

 確かに、この2人ほどの働き者は中々いないだろう。てっぱんにも観光客が訪れ、大忙しなのだ。


「わさびさん、今日の騒ぎのこと聞いたっすか?」


「え?なに?なにかあったの?」


「やっぱり知らなかったっすか……。

実は、今日、変なやつが来て美香のイラストを持ち出して行ったっす。」


「え!?泥棒?」


「いや、泥棒よりひどいっす。

そいつ動画配信者らしいっすけど、美香の絵を勝手に庭に飾って、『俺もやってみた〜〜〜』って……

動画撮影が始まったっすよ。しかも生配信っすよ。

で、イラストに葉っぱをかけたり、土をのせたり……。ひどいもんだったっす。」


「そんなこと、なんで私知らないんだろう。」


「ちょうどわさびさんは、ぶどう用の冷蔵庫の返品とかやって業者対応してた時間っすよ。」


「あ〜、あの時か。確かに庭にはいなかったね。でも、美香さんも教えてくれたら良かったのに。」


 わさびがぼんやりとつぶやく。 


「美香はあれで、わさびさんに恩義を感じてるっすよ。だから、心配させたくなかったと思うっす。

……。あいつ、最後には、『どうせプリントした絵だから汚れたっていいっしょ、いくら?』っすよ。

ぶん殴りそうになったっす。

美香は笑ってたけど、指先が震えていたっす。」


「殴ってもいいのよ、そんなやつ。」


「うえ〜!?わさびさんもパンチ効いてるっす。

ヨウさん、早く帰ってきてくれっす。」


 ……。


 わさびと夏海は、冗談を言い合いながらも、どこかしら不安感が漂う室内で寝そべっていた。


 その時……、


 ガチャガチャ、ガチャ。


 玄関の扉が開く音がした。


 わさびと夏海は目を合わせた。緊張が走る。

反射的に夏海が起き上がり、フライパンを取りに行こうと足を踏み出したあたりで、玄関から声が聞こえた。


「ただいま〜。」


 ヨウの声が夜の社宅の室内に響く。

わさびは何も言わなかったが、彼女の緊張が解けているのが夏海には分かった。

家の中の空気が、一気に柔らかくなった。

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