第68話 とにかくやるしかない
「さて、何からやるっすか?」
スタジオみかんの中央で夏海が手を叩いた。
昨日オープンしたばかりで、作業机以外はがらんとしている。
立ったまま、美香、夏海、わさび、未来の4人による即席作戦会議が始まった。
勇気にはカフェの手伝いを頼んだのだが、女子高生2人も勇気の方へ行ってしまった。
「さぁ、じゃんじゃんイラスト印刷して、壁一面に飾りますよ!!」
未来を前にした美香は、完全にエンジン全開だ。
少し暴走気味にも見えるが……。
「待つっす。壁全部使うのは早いっす。
どう転ぶか分かんないんだから、余白は残すべきっす。それより動画量産っす。昨日の反応、まだ伸びてるっすよ。」
一瞬、場が止まる。
「……夏海、ちゃんと考えてるんだね。」
わさびがつぶやいた。
「と、もんちゃんさんが言ってたっす。」
「前言撤回、はい、やり直し。」
くだらないやり取りに、場の空気が緩んだ。
皆で笑いあった後、未来が静かに口を開いた。
「でも、量を作るのは正解だと思います。
知られなければ、なかったのと同じですから。」
その一言で、美香の目がさらに鋭くなった。
「さぁ、すぐやりますよ。とにかく動こう!」
プリンターが唸る。
額に入れる。
動画を撮る。
アップする。
4人の動きは次第に噛み合い始め、空っぽだった空間に少しずつ色が生まれていった。
スタジオみかんが、呼吸を始めた。
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「ここじゃない?」
その日の午後3時頃、まちカフェの駐車スペースに珍しくレンタカーが滑り込んできた。
降りてきたのは20代前半の女性3人組。
「いらっしゃいませ〜。」
ユミが声をかけると、3人は楽しそうに花を選び、カフェで写真を撮り始めた。
わさびが小さくつぶやく。
「……来たね。」
ユミが自然に聞く。
「どちらから来られたんですか?」
少し照れながら、1人が答えてくれた。
「東京からです。昨日の動画、流れてきて気になって……。あの絵は飾ってあるんですか?」
その瞬間。
スタジオみかんのプリンター音と、まちカフェの笑い声が、一本の線で、つながった気がした。




