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1秒ストライカー 〜1秒先の未来が見えるおっさん、サッカーで人生やり直す〜  作者: そきおこ
第6章 青空市の未来

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第65話 なつみかんの秋

 コンコンコン


「美香さん、大丈夫?」


 わさびは、美香の部屋のドアをノックして声をかけた。


 ……。


 返事はない。

すでに10:00を回っているため、周囲の部屋の宿泊客はチェックアウトし清掃が始まっている。


「何度もアリスちゃんが呼びに来てるんだけど、美香ちゃん返事がないのさ。大丈夫かね〜。」


 パートに来ている遠藤のおばちゃんが、心配そうにわさびに近づいてきた。


「今日は、一度も顔を見てないんですか?」


 わさびは内心の焦りを抑えながら、おばちゃんにたずねる。


「朝食の時に、血相変えてアリスちゃんと話してたんだけどねぇ。慌てて部屋に戻ってそれっきりだよ。」


 それを聞いてから、わさびはふたたびドアをノックする。もう周囲の部屋に気を使う必要もない。

少し激しめにノックを続けた。


「美香さん、開けてください。バズって混乱してるんですよね?私たちも動画上げるの一緒にやったんだから、美香さん一人のせいじゃないですよ。一緒に解決しましょ。ね?」


 わさびは、ドアをノックし続けながら語りかけたが、一向に返事がない。


 どうしよう……。

とにかく美香さんと話をしないと。あと、アリスちゃんが「あおい庭園に行くための宿泊予約で満室」って言ってたな。ユミちゃん大丈夫かな。

 あおい庭園は、イレさんがいるから大丈夫か。

もう、ヨウ、なんでいないのよ。


 本当に、内心では自分の方が泣きたい気分だと、わさびは思う。


 ドンドン……。


 まだ返事はない。

 さすがに、これは警察沙汰か?わさびがそう思った瞬間。


「まぁ、もう少し待つんじゃ。」


 わさびの思考の隙間に、聞き覚えのある声が入り込んできた。

 わさびがこの町にくるきっかけになった神じいさんの声だ。周囲を見渡すとアリスの姿が見えた。

彼女にも同じ声が聞こえているのかもしれない。

何かを分かっているような顔でわさびを見つめている。


 その時だった。


 ガチャっ。

一瞬、部屋の奥から湿った空気が流れ出た。

そして、その中から……、なぜか夏海が現れた。


「え?夏海?」


「さ、中に入るっす。」


 夏海がわさびとアリスを部屋の中に招き入れた。


****


「夏海、どういうこと?」


 わさびには理由が分からないこの状況。


「自分だってよく分からないっす。さっき、アリスちゃんから電話をもらって、飛んで来たんす。事情を聞いたら心配になったから、2階のベランダによじ登って部屋に入ってしまったっす。」


 たしかに、ホテルアリスとお好み焼き「てっぱん」は目と鼻の先だ。夏海の運動能力を持ってすれば、ものの5分でベランダから侵入も可能なのだろう。


「……。とにかく、美香さんは?」


「あ〜、美香さんっすか。ベッドで放心状態で布団にくるまってるっす。ま、美香さんは大丈夫っすよ。そのうち落ち着きますから。」


 夏海は、やけに分かった感じで語りつつ、わさびに小さく耳打ちする。


「それよりもヤバいのは、あおい庭園っす。これから人が殺到するっすよ……。」


「やっぱり……。」


 動揺するわさびに夏海が続ける。


「でも、チャンスっす。やっちゃいましょ〜。

 さてと……。」


 夏海は、すたすたとベッドの前に行き、美香の布団を剥ぎ取って元気に告げる。


「さぁ、美香さん。これからが楽しい時間っす!!張り切っていきましょ〜。」


 布団を剥ぎ取られた美香は、スマホを抱えた指先だけが、止まらずに震えていた。

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