File №011 模型部の非日常
不定期な上に短くて申し訳ないです。
「一任、か」
僕は部室に向かう中、夕暮れに黄昏ながら昨日の会議(と言えるかは疑問である)のことを思い出していた。なぜ、僕に一任したのか。単に信頼されている、というのは可能性としてはありえなくはない。が、少し楽観が過ぎるきがするのだ。『新メンバーの歓迎会も兼ねてるからそのつもりで』と部長は言った。でも、僕は新メンバーが入るなんて聞かされていない。そして、指倉はともかく、吉谷はそれを知っている素振りがあった。吉谷は何かを隠しているとき、手を前で組む癖がある。部長と話している時に、僕はそれを見た。信頼されているのであれば、僕の耳にも届くはずだ。よって、単に信頼されているというわけではなさそうだ。
「サプライズ………流石にないか」
はぁ、と1つため息をついて頭をリセットする。
「試されている、ってのが一番ありえるか」
今回の捜索は特B全員がグルで、
「僕は何かの試験中っていうのもある」
「なんの試験なんでしょうね」
―――それがわからないから苦労をしているんだ
そう言い返そうとして、僕は遅まきに気づいた。
「………」
そのまま少しだけ歩き、足音が二つあることを確認してから、急に立ち止まって振り返る。背後の足音がワンテンポ遅れてが止まったのと、僕が振り返ったのはほぼ同時。
「どうしたの」
そこに、女の子がいた。至極当たり前のように。常闇の髪を校則ギリギリまで伸ばし、背に垂らしている僕よりも少しだけ背の高い女の子が立っていた。
「夜霧……さん」
無意識に口に出ていた。かろうじてさん付けに成功する。
「検定か何かやってるの?」
「あぁ、うん」
僕は完全に動揺していた。捜索対象であると思われる者が急に目の前に出てきた。聞かれてはいけないことを聞かれたかもしれない。
「あの、どこら辺から聞いてました?」
おそるおそる聞いてみた。丁寧語になるのは僕の性根があがりだということ表している。
「サプライズがどうとか言ってたあたり」
「………」
―――なんて言えばいいんだ。いや、まず相手は検定の話と思っているのだから、それに乗っておくのが得策か。
僕は美少女と向き合って、言い訳を考えていた。目線が泳ぎまくりそうになるのを堪えつつ、必死で言葉を紡ごうとする僕を見て、目の前のクラブメイトはお腹を抱えて笑いだした。
「ふふっ……あ、ごめん」
「いや、いいです。取りあえず、部室に行きません?」
馬鹿にされているわけではないので、怒りはしない。だが、苛立っていることは否定できない。こんなところを誰かに見られれば、藤森たちにまたからかわれ、あらぬ疑いをかけられかねない。ましてや夜霧は学校でも噂になり始めている美少女だ。学校中の注目の的になるなんてまっぴらだ。僕には、スポットライトを浴びることが好きな人種を理解できない。
*****
右手で、日に焼けたのであろう少し黄ばんだ白の引き戸にコンコン、と軽快な音を響かせる。「どうぞー」と聞き慣れてきた男の人の声が部屋の中から聞こえた。
「失礼しまーす」
そう言いながらガラガラと戸を開け、会釈をしつつ中へ入る。
「失礼しまーす」
頼りのない僕の背中から、可愛らしさの中にどことなくの気品漂う声が続く。
「お、君たちか。待っていたよ」
まぁ肩の力を抜きなさい、と手招きをする。僕たちは、もう一度軽く会釈をしてからいつものように机が上げられてできたスペースにブルーシートと新聞紙を出す。
それにしても、とあごに手を当て興味深そうにこちらを見る先生。
「二人は仲いいね…付き合ってるとか」
「それはないですよ」
「冗談キツイですよ、先生」
二人してブルーシートに脚を滑らせ、新聞紙を手から滑り落としたことで先生に余計に不審がられたのは蛇足か。
「そう…で今日の活動内容だけど」
「あの、今日は先輩はどうしたんですか」
先生の方を向かずに夜霧は言った。あれ、言ってなかったけと先生は頭をかく。
「プラスチックのについての講演があってね、そっちに行ってるんだ」
「どんな講演ですか?」
決して手際が良いとは言えない動作でブルーシートを敷きながら疑問をぶつける夜霧。先のことを気にしているのだろう。
―――そんな気にしなくてもいいのに。お互いに気なんてないわけだし。
不思議そうに見ていた僕は夜霧と目が合い、二人とも慌てて目をそらしてしまう。これではまるで、本当に気があるみたいではないか。はぁ、と相手に気づかれないようにため息をつく。
「講演、といってもそんなに大したものではないよ」
「と、言うと?」
「3Dスキャナーで使うのはABS樹脂だから、薬品には気をつけるように、とかそんなレベルだよ」
「ABS…」
ABS樹脂とは、Acrylonitrile Butabiene Styrene共重合合成樹脂の総称だ。部活でも先生から説明されたことがある。プラモデルでは、主に可動部等に使われるプラスチックで、熱や衝撃に強く他より硬い。最初の方はニッパーで切り取る時に白いゲート跡が残ったり、パーツを抉ったりして頭を抱えさせられたものだ。デザインナイフが大活躍してくれた。熱や衝撃に強いABS樹脂だが、当然欠点もある。それが、薬剤による侵食である。化学薬品にはめっぽう弱く、ラッカー等を強く吹きすぎると割れてしまう。塗装時、これに苦戦したのは他でもないこの僕だ。初めてのスプレー塗装の時に、下地のラッカーを強く吹きすぎてしまい、左膝の関節がポッキリいってしまったのだ。それ以来、スプレー塗装の時は筆で塗る時よりも慎重に行っている。
「で、今日は何を作るんですか?車ですか?」
「今日は新しいジャンルだ」
「新しいジャンル、ですか」
「今回作るのは……コレだ!」
正しく新ジャンルだった。先生が突き出した手に持っていたのは、日に焼けて黄色く変色し始めている少し古ぼけたパッケージ。家電量販店、カワダ電気で見かけたことはある、が買おうと思ったことなど一度もなかった代物。外国人観光客向けに売ればそこそこ売上が伸びそうな。
「日本の名城シリーズ、名古屋城…って」
「「城?!」」
夜霧と僕は声を揃えて驚愕した。
「そう、城だ。しかも名古屋城」
「城のプラモって作るのめちゃくちゃ大変なんじゃないですか?」
私もそう思います、と言うように夜霧がこくこくと頷く。
城のプラモというのは、扱っている企業が少ない。さらに、種類がどうしても限られてしまう。故に、新しい金型を作る余裕などあるはずもなく、場合によってはガレージキット(パーツがちゃんと合わなかったりする)並みのものもあるらしい。
「大丈夫、君たちの技量なら立派に築城できるさ」
「夕涼くん頑張って、応援してるから」
わざとらしい笑顔の夜霧。そう言って先生から城のパッケージを回してきた。
「僕一人で築城ですか」
苦笑いしながら僕は手渡された箱を慎重に開けた。そこには、外箱の様子からは考えられないほどに綺麗に蛍光灯を反射する、真新しいパーツたちが鎮座していた。
「意外と少ない……」
パーツ数も、色も。当然のことながら、石垣は単色である。接着剤もいる。パーツとパーツの合わせもバンバン出る創り。作りがいがありそうだった。
「やるか」
「言い忘れたけど、一人一つあるからね」
「で、ですよねー」
こうしていつもと変わりのない、楽しい楽しい部活動が始まるのだった。
話がだんだんそれている感じがしますが、大丈夫です。繋げます。




