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第九話「春が来た」
春が来た。
桜が咲いた。
女は、窓から桜を見た。
外へ出られない日だった。
しかし、窓から見た。
「きれいですね」と女は言った。
「きれいですね」と男は言った。
「去年も、見ましたね」
「見ました」と男は言った。「川沿いで、花びらが流れていた」
「あの日、初めて会いました」と女は言った。
「あの日、会いました」
「運が良かった」と女は言った。
「運が良かった」と男は言った。
桜が、窓の外で揺れていた。
風が吹いていた。
「一つだけ、お願いがあります」と女は言った。
「何ですか」
「次の巡りで、また川の傍へ来てください」と女は言った。「私も、行きます。川の傍へ」
「行きます」と男は言った。
「約束できますか」
「約束します」と男は言った。「どんな形で生まれても、川の傍へ行きます」
女は、窓の外を見た。
桜が、また揺れた。
「川が好きです」と女は言った。
「俺も」と男は言った。
「なぜ好きか、分かりません」
「分かりません」と男は言った。「でも、好きです。ずっと前から」
「ずっと前から」と女は言った。「そうですね。ずっと前から、好きでした」
春の光が、部屋に入ってきた。
温かかった。
(第九話 了)




