第六話「共にいた」
共にいた。
毎日ではなかった。
しかし、共にいた。
男には、仕事があった。
女には、女の時間があった。
それぞれの場所で、それぞれの時間を生きた。
しかし、会う日があった。
その日を、楽しみにしていた。
川沿いを、よく歩いた。
二人で歩いた。
何を話したか、あまり覚えていなかった。
しかし、並んでいたことは覚えていた。
ある日、女が言った。
「変なことを聞いていいですか」
「どうぞ」と男は言った。
「前の巡り、という言葉を知っていますか」
男は、女を見た。
「知っています」と言った。「どこで覚えたかは、分かりませんが」
「私も」と女は言った。「どこで覚えたか分からない言葉なのに、知っています」
「前の巡り、というのは」
「生まれ変わり、ということだと思います」と女は言った。「前に生きていた時間のことを、そう呼ぶ気がして」
男は川を見た。
「あなたと前の巡りで会っていた気がします」と言った。
「私も」と女は言った。「何度も会っていた気がします」
「何度も」
「何度も」と女は言った。「川の傍で。火の傍で。全然違う場所で」
川が流れていた。
「この巡りでも、会えた」と男は言った。
「会えた」と女は言った。
それだけで、十分だった。
今は、それだけで十分だった。
(第六話 了)




