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第五話「好きになった」
好きになった。
ゆっくりと、好きになった。
何度も会った。
川沿いで会った。
食事をした。
歩いた。
話した。
話すほどに、知っていく感じがした。
初めて知ることのはずなのに、思い出していく感じがした。
「あなたと話していると」と男は言った。「初めてではない気がします」
「初めてではない」と女は言った。「そう、いつも思います」
「前に会ったことがあるような」
「前、というのが、いつなのか分からないけれど」と女は言った。「でも、前に会った」
男は女を見た。
「好きです」と言った。
女は少しの間、男を見た。
「私も」とやがて言った。
川が流れていた。
夜の川が、月を映していた。
男は思った。
何度も、この人に会ってきた気がする。
違う形で、違う時代に、しかし何度も。
そして何度も、好きになってきた気がする。
それが正しいかどうか、分からなかった。
しかし、そう感じた。
女も、同じことを感じていた。
それは、二人とも知っていた。
言わなくても、知っていた。
(第五話 了)




