3/10
第三話「出会った」
出会ったのは、二十三の春だった。
場所は、川沿いだった。
桜が散っていた。
川に、花びらが落ちていた。
流れていた。
男は、川を見ていた。
なぜ川を見ていたか、分からなかった。
体が、そこへ来ていた。
女が来た。
川の上流の方から、歩いてきた。
目が合った。
止まった。
二人とも、止まった。
知っている、と思った。
初めて会う人のはずだった。
しかし、知っていた。
体が知っていた。
女も、止まっていた。
女の目が、男を見ていた。
その目に、同じものがあった。
知っている、という感覚が。
「すみません」と女は言った。「どこかで会いましたか」
「会っていません」と男は言った。「しかし」
「しかし?」
「知っている気がします」と男は言った。
女は少しの間、男を見た。
「私も」とやがて言った。
桜の花びらが、川を流れた。
(第三話 了)




