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幽霊さん。今日もお話聞かせてください  作者: 栗須帳(くりす・とばり)
第7章 幸不幸の分水嶺

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068 生者と死者の顔合わせ

挿絵(By みてみん)

 


 次の休日。

 夕子の家に、役者が勢ぞろいした。


 夕子と和江。そしてテーブルを挟み石川の妻、美香(みか)が不安そうに座っている。

 國澤は進行役として、双方の間に座っていた。

 美香の隣、そして國澤の正面にはカップが置かれている。それは石川と、この場を見届けたいと願い出た品沢の席だった。


 生者4名と死者2名が顔を合わせたリビングには、異様な緊張感が漂っていた。


「では……」


 夕子の促しにうなずき、國澤が口を開く。


「皆さんお揃いになられたようですので、始めたいと思います。よろしくお願いします」


 國澤の言葉に、美香が慌てて頭を下げた。





 数日前、亡き夫が未練を持ち、現世を彷徨(さまよ)っていると告げられた。荒唐無稽な話に困惑したが、未練の内容を聞き、夫ならありそうだと変に納得してしまった。

 そして夕子の提案を受け入れ、宮田和江にメッセージを送った。

 それで終わりだと思っていた。夫の未練も晴れて、無事成仏できるんだと信じていた。

 しかし再び國澤から連絡を受け、和江から面会の申し出があったことを伝えられた。正直心の準備が整っていなかったが、これで長年の後悔に決着がつくのであれば、そう思い了承したのだった。

 だが今のこの状況は、想像していたものとかなり違っていた。

 どうして自分の隣の席に、カップが置かれているのだろう。そして國澤の正面にも。

 そんな美香に納得の表情を浮かべ、國澤が続けた。


「奥様は今、この異様な状況に困惑されていると思います。ですが安心してください。私自身、何度かこういう場に同席してますが、混乱してるという点では同じですので」


「は、はい……」


「奥様はこう思われてます。どうして隣の席に、カップが置かれているのだろうと」


「そ、そうですね。何かのおまじないなんでしょうか」


「夕子」


 國澤が夕子に促す。夕子はうなずき美香の隣、そして國澤の正面に向かい、手を合わせた。


「……どうぞお納めください」


「……」


 その様子を、美香が怪訝そうに見つめる。しかし次の瞬間、それが驚愕へと変わった。


 宙に浮いたカップに、目を見開く。


「……あ、あのその……朝霧さん、これは手品なんですか」


 そう言って困惑の視線を夕子に送る。

 夕子は静かに首を振り、告げた。


「奥様。実はそこに、幽霊さんが座っているんです」


 予想してなかった言葉に美香が立ち上がり、反射的に遠ざかろうとした。

 質の悪い冗談に、不快感をあらわにしてるようにも見える。

 ある意味当然であり、正常な反応。でも、このままだと先に進めない。

 そんなことを思っていると、隣の和江が微笑み、口を開いた。


「奥様、お久しぶりです。この度は私共の無理を聞いてくださり、感謝しております。そして……改めまして、主人が起こした事故のこと、お詫びいたします」


 そう言って頭を下げた。

 和江の行動に我に返り、美香は恐縮気味に座りなおすと、同じく頭を下げた。


「いえ、その……お久しぶりです、奥様。私の方こそ、あの日以来連絡することもなく、奥様を避けるようなことをしてしまい、申し訳なかったと後悔しております」


「……」


「警察から事故の詳細も聞きましたが、あれは不幸な事故だったんです。状況から私共が被害者、宮田さんが加害者という風になってしまいましたが、言ってみればあの事故で、私たちは共に被害者になったんです。それに」


 そう言って和江をまっすぐに見つめ、声を震わせた。


「あの事故が原因で、ご主人様が命を絶たれてしまって……そんな状況にも関わらず、奥様はこちらに何度も足を運んでくださいました。それなのに私は自分の感情を優先し、不誠実な態度を取り続けてしまいました。

 あの日以来、奥様がどれだけ後悔の念に憑りつかれていたのかを考えると、謝罪のしようもありません。

 ですので正直、奥様にお会いするのは怖かったです。私の言動は、同じ被害者である奥様を更に苦しめるものでした。そんな私を奥様がお許しになる筈がない、そう思ってましたので」


「奥様……いえ、美香さん」


 和江が微笑み、静かに美香の手を取った。


「もう全て、過去のことなんです。そしてそれは、決して変えられないことなんです。あの事故のことも、互いの伴侶が亡くなったことも。そして、私たちの心がすれ違っていたことも」


 その言葉に、美香が肩を震わせた。


「ですので……もうそろそろ、私たちも前を向いていきませんか? 私が今日伺ったのは、過去ではなく未来を造っていきたいと思ったからなんです。そう思えるぐらいの年月は過ぎていった、そうは思いませんか」


 美香は瞼を濡らし、小さくうなずいた。


「私たち、きっといい関係を築けると思います。私との関係を受け入れることで、美香さんの心の平穏が壊される、そういうことなら勿論拒否してくださって結構です。でも……あのメッセージを拝見して、私たちはきっとこれから、未来を見据えて共に笑いあえる、そう思いました」


「和江さん……」


 何度もうなずき、美香が和江の手を握る。


「これまで本当に申し訳ありませんでした。そしてどうか、これからよろしくお願いします」


 二人が顔を見合わせ、微笑みあう。そんな二人を見つめ、夕子が安堵の息を吐いた。


 その時だった。


 美香の隣のカップが音を立て、テーブルの上に転がった。

 夕子が立ち上がり、こぼれたコーヒーを拭く。

 その光景に、美香の疑念が蘇った。


「それでその、朝霧さん。さっきから気になっていたのですが、その……私の隣にあるカップ、そしてあちらのカップなんですが、どういう意味があるんでしょうか」


 その言葉に。

 今日の本題がついにやってきた、そう思い、夕子が表情を引き締めた。


「私も奥様のこと、美香さんとお呼びしてもよろしいでしょうか」


「勿論です。私も朝霧さんのこと、夕子さんと呼ばせていただきますね」


「ありがとうございます」


 頭を下げ、息を吐く。


「美香さん。実は美香さんの隣には今、石川さんが座っておられるんです」


「え……」


 何を言われたのか理解できず、そう声を漏らす。


「そしてあちらの席には石川さんのご友人、品沢さんという幽霊さんが座っています。カップが倒れたのは、その……美香さんと和江さんが和解されたことに感激し、石川さんの手からカップが落ちたからなんです」


 慌てて隣の席に視線を送る。

 そしてこう、つぶやいた。


「あなた……本当にあなたが今、そこにいるんですか……」




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― 新着の感想 ―
今回のサブタイってまさに本作を表しているサブタイなんだよなぁ……。 なんかバナーもついていますし。重要な話なのかな?とちょっぴり考察もしたりした訳ですがまぁそんなことを感想で書いてもね(笑)でも、不…
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