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幽霊さん。今日もお話聞かせてください  作者: 栗須帳(くりす・とばり)
第6章 過去を乗り越えて

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067 旅立ち

 


「そして奥様。あの時の非礼、本当に申し訳ありませんでした」


 もう一度、深々と頭を下げる。


「ずっと後悔してました。勇気が出ずこんなに時間がかかってしまったこと、心からお詫びいたします」


 和江が微笑み、目を伏せた。


「辛かったのも、非礼もお互い様なんです。でも……ありがとうございます、奥様」


「どうか奥様、これ以上主人のことで罪を感じないでください。ある意味あれが石川の運命、運命だったんです。

 ふふっ……ようやくこの言葉、口にすることができました。頭では分かっていても、言葉にすることを無意識に避けてました。でも……これで私も、前に進める気がします。

 奥様。いつかどこかでご一緒できることがあれば、たくさんお話がしたいです。そしていつか、私たちは今、こんなに幸せなんだと笑いあえる日が来ること、楽しみにしています」


 微笑む。

 涙がこぼれ落ちる。


「ありがとうございました。このメッセージで奥様が背負われているものが少しでも軽くなること、祈ってます。そして遅くなりましたが、ご主人様のご冥福、心からお祈りいたします。ご主人様の墓前に私のメッセージ、伝えていただければ幸いです。

 ご主人様、奥様。本当に今まで申し訳ありませんでした。そして……ありがとうございました」


 そう言って動画が終わった。





「……」


 和江が涙を拭う。

 夕子は静かに目を伏せた。

 そして。


 和江の隣に、光の粒が現れた。


「宮田さん……」


 夕子が顔を上げる。

 これまで何度か見てきた光景。

 宮田の未練が晴れ、成仏の時が来たのだった。


「和江……今まで本当にありがとう。君はうだつの上がらない、こんな情けない僕をずっと支えてくれて、そして死んでからも寄り添ってくれた。そんな君に出会えて、僕は幸せでした」


 和江は微笑み、静かに首を振った。


「あなた、それは私の方ですよ。あなたはこんな能力を持つ私を受け入れて、共に生きていくことを選んでくれました。それは決して、誰にでもできることじゃありません。私はあなたのおかげで救われたんです」


「ありがとう、ありがとう……」


「じゃあこれで……本当にお別れなんですね」


 和江がそう言って肩を震わせた。宮田は拭いきれない涙で頬を濡らしていた。


「朝霧さん、國澤さん。本当にありがとうございました。正直僕は、自分の未練が晴れることはないと思ってました。僕はこの後悔を胸に、消えるその日まで存在し続けるんだと覚悟してました。そんな僕の未練を、あなたたちは晴らしてくれました。

 今、心にあった(もや)が消えたような、とても晴れやかな気持ちです。こんな幸せな時がくるなんて、思ってもみませんでした。

 ありがとうございました。どうかお二人、これからも仲睦まじくお過ごしください」


 深々と頭を下げる。そして再び、和江に向き直った。


「和江。今日まで本当にありがとう。君に出会えてよかった。君と夫婦になれてよかった……君を愛して、本当によかった」


 少しずつ、宮田の体が光に包まれていく。

 和江は涙を拭い、何度も何度もうなずいた。


「あなた……愛しています」


「僕も……僕も愛してる。これからも向こうの世界から、君の幸せを見守ってます。どうか幸せに、幸せになってください」


 そう言って微笑むと、また涙が伝った。


 そして。


 柔らかな光に包まれて。

 宮田は消えていった。





「……」


 國澤が静かに目を伏せる。

 何が起こったのか、自分には分からない。

 でも確かに今、この部屋からひとつの気配が消えた。そんな気がした。

 何より和江の背後で、何かが光ったような気がしていた。

 以前夕子から聞いていた、幽霊の成仏の瞬間。

 それに今、俺は立ち会ったのだろうか。そう思い、身が震えるような感覚を覚えた。

 そして同時に。

 とんでもない大仕事だった、しかし無事やり遂げることができたんだ、その達成感に胸を熱くした。


 夕子に視線を送る。夕子もまた、大役を果たせた安堵からか、何度も息を吐き、微笑んでいた。

 やはり夕子はすごい。こんな現場に立ち会うことができて、そして彼女を手伝うことができて。俺は本当に幸せだ、そう思った。


 和江は涙を拭うと立ち上がり、仏壇の前に座ると線香を手向(たむ)け、手を合わせた。


「どうか向こうでも……お元気でいてくださいね」


 そうつぶやき、微笑んだ。

 そして席に戻り、夕子を見つめ頭を下げた。


「夕子さん、本当にありがとうございました。あなたの勇気のおかげで、主人は輪廻の世界に旅立つことができました。そしてあなたの行動が、私の心に巣食っていた闇をも消し去ってくれました」


 そう言って夕子の手を握る。夕子は照れくさそうにうなずき、微笑んだ。


「このご恩、決して忘れません。そして……次は私の番です」


 握る手に力を込める。


「石川さんの成仏、私にもお手伝いさせてください」




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