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幽霊さん。今日もお話聞かせてください  作者: 栗須帳(くりす・とばり)
第6章 過去を乗り越えて

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064 双方の哀しみ

 


「では改めまして。夕子さんが今日こちらに来られた理由、聞かせていただけますか」


 夕子が表情を引き締める。そして静かに宮田に視線を向けた。


「……宮田さんは石川さんのことで全ての罪を背負い、命を絶たれました。当然それは石川さんも、石川さんの奥様も望まれていませんでした」


 宮田が力なくうなだれる。


「ですが当事者でない私に、その時の絶望を理解することはできません。本当にお辛かったと思います」


「この人、本当にお人よしですから。それに生真面目で。だからあの時の行動も、この人ならしそうだなって妙に納得してしまったんです。まあ、バカなんですけど」


「おいおい、そんな言い方しなくても」


「何言ってるんですか。命をもって償うだなんて、今時流行りませんよ。それに私を残してこの世から逃げたこと、私は今でも怒ってるんですからね」


 詰め寄られた宮田はうなだれ、


「……ごめん」


 そう力なくつぶやいた。

 これがこの人たちにとっての日常なんだろうな。そしてそれは、互いに信頼しあってるからこそできることなんだ。そう思い、少し羨ましく思った。


「宮田さんがこの世界にとどまった理由。それはやはり、石川さんへの贖罪の為なんでしょうか」


「……勿論それもあります。人一人の命を奪ってしまった訳ですから。ですがそれ以上に、その……働き盛りのご主人を亡くしてしまった、石川さんの奥様のことが心配で」


 やはりこの人、真面目で誠実だ。そう思った。

 そして夕子の脳裏に、ひとつの疑問がよぎった。


「あの……和江さんは勿論、宮田さんの未練を聞かれてますよね」


「ええ。再会して、真っ先に問い詰めましたから」


 そう言い放ち、笑った。


「でしたらその……石川さんの奥様に、和江さんの方から接触されたりしなかったのですか」


 夕子の言葉に笑みを浮かべ、和江が少し視線を落とした。


「あの方……美香(みか)さんとは、ご主人が亡くなる前日以来、お会いしていません。あの時の私は、ただただ申し訳ない思いを伝えたくて、美香さんに何度も何度も謝りました。謝ったところで取り返しがつかない、それは分かってました。ですがあの時の私には、それしかできなかったんです。ですが……

 美香さん、私にこう言ったんです。もうすぐ主人の命が尽きようとしているんです。せめてその瞬間まで、私は彼の傍に寄り添っていたいんです。あなたはそんなささやかな望みまで、私から奪いたいのですか? お願いですから帰ってくださいって」


「……」


 きっと言葉のひとつひとつが、刃となって和江さんの胸に深く突き刺さったことだろう。そう思った。


「私は前日、この人が死んでいる現場を目にしました。だから伴侶を失う辛さを、あの時は誰よりも理解できたと思ってます。でも……いいえ、だからこそ、私は美香さんに分かってもらいたかったんです。

 この気持ちが傲慢で自分勝手だということ、今は勿論分かってます。でもあの時は、それを理解することができませんでした」


「……」


 主人が死んでいる現場に直面し、混乱し狼狽(ろうばい)した和江さん。そして自分の思いが理解されないことへの憤り。和江さんの言う通り、自分勝手な理屈だと思う。

 でも、その時の和江さんはいっぱいいっぱいで、正常な判断ができずパニックになっていたに違いない。

 もう少し、お互いに冷静になる時間を作ることができればよかったのに。そう強く思った。


「私は強制的に病院から出されました。夫が自責の念から命を絶ったことを伝えても、『だから私にどうしろと言うんですか!』そう言われ、何も返すことができませんでした。

 その後石川さんが亡くなったということを、警察経由で知ることとなりました。葬儀に顔を出したいと申し出たのですが、美香さんの憔悴されてる様子からして、参列しない方がいいだろうと言われました。

 それから長い年月が過ぎましたが、結局あれ以来、私は美香さんとお会いできずにいます。石川さんの御命日に、お供え物を送るぐらいで」


 そう言って、自虐的な笑みを浮かべた。


「ですので私は、美香さんの心の平穏を優先したいと思ったんです。主人の未練をどうにかしたい、その気持ちはあります。ですがそれ以上に私は、これ以上美香さんを苦しめたくないんです」


 どこまでも美香さんのことを思い、行動を思いとどまっている。その姿勢に彼女の強さと優しさを見たような気がした。


「それに……幽霊になった夫があなたに謝りたいと言ってます、なんて戯言、ふふっ……頭がおかしいと思われるだけですからね」


 その言葉に、夕子が意を決したように顔を上げた。


「和江さん、そして宮田さん。お二人にお伝えしたいことがあります」


 そう言って息を吐く。


「その石川さんですが……実は宮田さん同様、幽霊さんとしてこの世界にとどまっているんです」


「え……」


「な……」


 その言葉に、二人が声を漏らし呆然とする。


「私が今日、こちらに伺った理由。それは石川さんからのご依頼があったからなんです」


「まさか……石川さんまで、こちらに戻ってたんですか……」


「そ、そんな……僕は石川さんを殺しただけでなく、迷わせるほどの未練を作っていたんですか……」


 二人が肩を落とし、困惑する。

 夕子は拳を握りしめ、続けた。


「石川さんからのご依頼内容、お伝えします」




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