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幽霊さん。今日もお話聞かせてください  作者: 栗須帳(くりす・とばり)
第6章 過去を乗り越えて

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065 似た者同士

 


 石川が幽霊として、この世界にとどまっている。

 その事実に困惑し、宮田が天井を見つめた。


 一体彼は、どんな未練を胸に戻ってきたのだろうか。

 恨み、だろうか。

 そんな考えが脳裏をよぎった。

 一瞬にして命を、幸せを奪った憎むべき男。その加害者が自ら命を絶ったことを知らず、復讐の為に戻ってきたのだろうか。そしてそれは被害者として、当然抱くべき感情だと思った。

 だがすぐ、その考えの矛盾に至った。

 ならどうして彼は、この少女にメッセージを託したのだろうか。

 街からも出られず、復讐を遂げる力もないとはいえ、こんな少女に復讐の片棒を担がせるようなことをするだろうか。

 普通に考えれば、愛する家族が気がかりで戻ってきたのだと思う。だがそうであれば、わざわざこの家に来たことの説明がつかない。

 考えれば考えるほど、宮田は分からなくなった。

 そんな宮田に向かい、夕子が口を開いた。


「石川さんは現在、私の住む街で生活されています。他の幽霊さんたちとの関係も良好で、皆さんが穏やかに生活できるよう、相談を受けたりもしています。私自身、石川さんには色々とお世話になってます。

 正直言いまして、私は幽霊さんが見えるこの能力のことを、ずっと呪いだと思ってました。誰にも理解されず、相談することもできない孤独な能力(ちから)。おかげでこれまで、ずっと一人で生きてきました。

 そんな時、街の相談役である幽霊さん、品沢さんが私に声をかけてくれました。そして他の幽霊さんたちを紹介してくれて……初めは戸惑いました。でもそれが、いつの間にか私の日常になっていたんです」


 夕子が照れくさそうに微笑む。


「石川さんにも、いつも助けられています。悩みなんかも相談して、助言をいただくこともあります。

 私はそんな石川さんのことが大好きです。そして石川さんの為、少しでも力になりたいと思ってます」


 そう語る夕子に微笑み、和江が小さくうなずいた。


「あなたにとって、石川さんたちとの出会いは不幸なものではなかったのですね」


「はい」


 (よど)みない瞳で和江を見つめ、夕子がうなずいた。


「夕子さん。あなたは本当に強いですね」


「そうでしょうか」


「ええ、そう思います。同じ能力を持つ者として、あなたがこれまでどんな生き方をしてきたか、なんとなくですが理解することができます。

 少なくとも私は、死者の方たちとそういう関係を持つ発想には至りませんでした。彼らは世界のノイズであり、私の幸せを脅かす存在なんだと思ってましたから」


 淡々と話す和江に、宮田が自虐的な笑みを浮かべる。


「ですが主人がその存在となったことで、ようやく自分の運命を受け入れることができたのです。私がこの能力を授かったのは、きっとこの時の為だったんだ、そう思えるようになったのです。

 ですが夕子さん、あなたは違います。確かにきっかけは、その品沢さんに話しかけられたからなのかもしれません。でもあなたはそれから、ご自身の運命を受け入れて生きていくことを決断した。そして今、仲間である石川さんの為、ここに来てくださいました。

 私にはとても真似できないことです。それにそちらの弁護士先生も、能力のことをご存知なんですよね。理解されない恐怖に立ち向かい、勇気をもって告白されている。

 あなたのような女性に出会えた今日という日に、私は心から感謝します。そして……夕子さん、今まで寂しかったですね。辛かったですよね」


 その言葉にまた、夕子の目頭が熱くなった。

 和江は微笑み、うなずいた。


「お話を伺っている限り、夕子さんは石川さんの成仏の為、こちらにいらっしゃった。そう受け取らせてもらったのですが、間違いないでしょうか」


 少し表情を引き締めて、和江が夕子に向きなおる。


「はい。私は石川さんの未練を晴らす為、今日こちらにうかがいました」


「……ありがとうございます、夕子さん」


 そう言って頭を下げた。


「私はこれまで、夫の成仏だけを望み生きてきました。そして誰にも認識されない夫が寂しくならないよう、支えることが自分の役目なんだと思ってました。ですが……それは間違いだったんですね。

 夫が命を奪ってしまった石川さんが今、この世界で彷徨(さまよ)っている……夕子さん。私がこれ以上罪を重ねる前に来てくださって、本当に感謝します。もし夕子さんが来てくれなかったら、私はただただ夫のことだけを思い、この生活を享受していたと思います。そしてもしかしたら、夫がこうなってしまった理由でもある石川さん、そして奥様に対しても、嫌な感情を抱いていたかもしれません」


「……」


「夕子さん。石川さんの成仏、私にもお手伝いさせてください」


 そう言って夕子の手を握った。


「こちらこそ、よろしくお願いします。そして、その……ありがとうございます」


 夕子がそう言って涙を拭い、國澤に目配せした。

 國澤はうなずき、スマホの画面を和江に向けた。


「石川さんがこちらの世界に戻ってきた理由、お分かりになりますか」


 弁護士モードになった國澤が、そう言って和江を見つめた。


「それは勿論、奥様に関することだと思いますが」


「そうですね。普通に考えたらそうなると思います。僕も朝霧に付き添う形で、こういう現場に何度かお邪魔させていただいてますが、ほとんどがご家族に関することでしたから」


「と言うことは、そうではないのですか」


「和江さん。そして宮田さん」


 夕子が唇を噛み、二人を見つめた。


「石川さんの未練。それはお二人にこれ以上、罪を感じてほしくないということなんです」


「……」


 その言葉に。

 和江と宮田が絶句した。


「本当、石川さんと宮田さん、お二人はよく似てらっしゃいます。どちらもお互いを気遣っていたんですから」





 やがて。

 宮田の目から、大粒の涙が生まれてはこぼれ落ちた。

 そしてその涙は嗚咽(おえつ)となって、部屋に響いた。


「宮田さんのお墓にお線香をあげ、安らかに眠ってほしいと伝えてほしい。そして和江さんに、あれは不幸な事故だったんです、だからもう苦しまないでください、そう伝えてほしい。これが私が受けた依頼なんです」


 泣き崩れる宮田を見つめ。

 和江の目にも涙が光った。

 そして天を仰ぎ、息を吐いた。


「ありがとうございます……夕子さん、石川さん……」




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