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幽霊さん。今日もお話聞かせてください  作者: 栗須帳(くりす・とばり)
第6章 過去を乗り越えて

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062 宮田和江

 


 半月後。

 夕子は國澤と宮田家に向かった。





 今回の依頼。それは事故で石川の命を奪ってしまい、その罪の重さに耐え切れず自ら命を絶った宮田誠人(みやた・まこと)の墓に線香をあげること。そして宮田の妻、和江(かずえ)に罪を感じる必要はないと伝えることだった。


 話をした時、國澤は笑顔でうなずいた。


「夕子と付き合うことになってからの、初めての依頼だな。勿論協力するよ」


「あ、ありがとう博幸(ひろゆき)くん。いつもこんな話を持ってきて、本当に悪いと思ってる。ごめんなさい」


「何言ってるんだよ。前にも言っただろ? 付き合うってことは、夕子の全てを受け入れるってことなんだ。何より俺は、死者の為に心を砕く、そんな夕子だから好きになったんだ。だからこれは、俺からの頼みでもあるんだ。夕子、力にならせてくれ」


 そう言って笑った國澤に、心から感謝した。


 石川からの情報で、宮田家がどこにあるのかはつかめていた。問題は、和江にどう話すかということだった。

 國澤が聞くと、夕子は迷いのない瞳で言った。


「正攻法でいこうと思ってる。でも、いきなり石川さんが今もこの世界にいるって言っても、信じてもらえるとは思えない。だから石川さんの奥さん、美香(みか)さんにも協力してもらいたい、そう思ってるの。このことは石川さんの了承ももらってるから」


「分かった。じゃあそういう方向でアポとってみるよ。また何かあったら連絡する」


 國澤の言葉に微笑み、夕子は来たるべきその日を待ったのだった。





「はじめまして、朝霧夕子と申します。本日は急なお願いにも関わらず、こうしてお迎えいただきありがとうございます」


「奥様はじめまして。電話で一度お話させていただきました、弁護士の國澤博幸と申します。今日は私の友人であり依頼人の、朝霧さんの協力者としてまいりました。どうかよろしくお願いいたします」


 二人が頭を下げる。宮田の妻和江は微笑み、静かに口を開いた。


「これはこれはご丁寧に……遠いところありがとうございます。こちらこそ、亡き主人の為にこうしてお越しいただき、感謝しております」


 温かみのある丁寧な口調。年の頃60程の彼女は、突然訪れた夕子たちを警戒することもなく、家に迎え入れたのだった。

 和室に通されると、小さな仏壇が目に入った。そこに祀られている写真立てには、男性が笑顔で映っていた。


「主人の仏壇なんです」


 お茶を持って入ってきた和江が、そう言って微笑む。和江の振舞い、そして写真の中の宮田の笑顔を見て、きっと二人は仲睦まじく、温かい家庭の中で過ごしていたんだろう、そう思った。


「それで朝霧さん。今日はどういうお話があって、こちらに来てくださったのでしょうか」


 そう聞かれ、夕子は小さく息を吐いた。


 ここからは正攻法だ。そう思い、自らを奮い立たせる。

 石川の誠実さ、そして自分の行いを悔い、自ら命を絶った宮田のことを思うと、下手な小細工は失礼だと思った。

 何より夕子は、石川が幽霊になってまでして晴らしたいと願った未練が、自らの命を奪った宮田の為だったということに衝撃を受けていた。

 どんな理由であれ、自分を死に追いやった、ある意味加害者。その人に対し、あなたは悪くない、あなたも被害者なんだと伝えたい、ただそれだけの為に彼は戻ってきたのだ。

 これまで出会った、どんな人よりも優しく誠実な人。そんな石川の思いを余すことなく伝えるには、正直に話した方がいいと思っていた。


 ただ、この世界には幽霊が実在してて、自分にはそれが見えるんです。そのことを話すというのは、何度経験しても怖いことだった。

 過去、自分を嘘つきだと断じ、奇異な視線を注いでいた者たちの顔が浮かぶ。

 その時。

 國澤が夕子の手をそっと握った。顔を上げると、そこには自分の全てを信じ、受け入れてくれる優しい笑顔があった。

 夕子は微笑みうなずくと、和江を見つめた。


「奥様、その……今日私たちがこちらに伺ったのには、少し複雑な事情がございまして」


「複雑な事情、ですか。そうですよね、数年前に主人によってお亡くなりになった、石川さんに関係することなんです。当然だと思います」


 そう言って微笑み、夕子にお茶を勧める。

 夕子は恐縮しながら湯呑を手にし、ひと口飲んだ。




 そして。

 意を決し顔を上げた時。

 我が目を疑った。




「え……ど、どういうこと……」


 思わず口にした言葉に、國澤が夕子の視線の先を見つめる。

 夕子は和江の後ろを見つめ、目を見開いていた。


「夕子、どうかしたのか」


 國澤がそう耳打ちする。

 夕子は肩を小刻みに震わせ、ゆっくりと仏壇の写真立てに視線を移した。


「嘘……そんな……」


 声を絞り出すようにそうつぶやく。國澤は夕子の様子に困惑した。

 そんな中、和江は何かを察したように微笑むと、小さくうなずき夕子を見つめた。


「朝霧さん、でしたね。あなたにも見えているんですね、うちの主人が」


「え……」


 和江の言葉に、國澤がますます混乱する。言葉の意味が理解できなかった。

 夕子が慌てて和江を見る。和江はどこまでも穏やかに微笑み、静かにうなずいた。


「まさか……奥様にも見えているのですか、その……幽霊さんが……」


「ど、どういうことだ、夕子」


 夕子の言葉に。そして困惑した表情を浮かべる國澤に微笑み、和江がもう一度うなずいた。


「死者が見える方に出会ったのは初めてですね。はい、私には見えるんです。この世界を彷徨(さまよ)う死者たちが」


「あ……あ……」


 夕子の両眼から、とめどなく涙があふれてきた。

 國澤が戸惑いながら、夕子と和江を交互に見つめる。





 夕子が見たもの。

 それは和江の傍にたたずみ、穏やかな視線を注いでいる宮田誠人。

 幽霊だったのだ。




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