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幽霊さん。今日もお話聞かせてください  作者: 栗須帳(くりす・とばり)
第6章 過去を乗り越えて

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060 石川の思い

 


「先に言っておこうと思う。話というのは、こいつの成仏に関することだ。つまりお嬢ちゃんへの依頼、ということになる」


 喫煙所で白い息を吐き、品沢がそう言った。


「こいつの依頼というのも勿論、複雑で難しい案件だ。だからこれまで、こいつはお嬢ちゃんに話すことを躊躇(ためら)っていた」


 そういうところにも、石川さんの誠実さがにじみ出てるんだな。そう夕子が思った。


「そしてもうひとつ、こいつが躊躇(ためら)っていたのには理由があった」


「し、品沢さん、そのことは」


「いいじゃないか、今更隠しても仕方ないことだ。それにお前の真意を話すこともまた、成仏に必要なことだと思うぞ」


「いや、それは関係ないような気が」


「何を言ってるんだ。お前だってこれまでずっと、お嬢ちゃんを見てきた筈だ。お嬢ちゃんは何より、真実を尊いものだと思ってる。山中の時にそう感じなかったか?

 確かに山中は成仏した。だがその過程でお嬢ちゃんは悩み、苦しみ、それでもやつの成仏の為、真実を隠したんだ。だがその結果、お嬢ちゃんがどれだけ傷ついたかは知っているだろう」


「それは……そうなのですが……」


「だからな、石川。お前の気持ちも含め、全て話しておいた方がいいんだよ。なによりお前は、わしの次にお嬢ちゃんと深く付き合ってる死者なんだ。成仏するということは、そのお嬢ちゃんと永遠に別れることを意味する。成仏してから後悔しない為にも、お前の気持ちは伝えておくべきなんだ」


 よく分からないが、とんでもなく重い話をしている。そんなことを思う夕子の中に、確かな現実が突き付けられた。

 その通りだ。この依頼を引き受け、無事達成できたなら、石川さんは成仏できる。

 そしてそれは品沢さんの言う通り、別れを意味するんだ。

 石川さんとの付き合いは長い。いつも私を気遣い、守ろうとしてくれていた。

 品沢さんが初めて連れてきた仲間の幽霊さん。街の(おさ)である品沢さんが、誰よりも信頼してる腹心の友。

 私が落ち込めば励ましてくれ、あの兼本さんの時も、真っ先にかばってくれた。怒ってくれた。

 そう。私は品沢さんと同じくらい、石川さんのことが大好きだ。

 その石川さんと、もう二度と会えなくなる。その事実に動揺した。


 だが。

 次の品沢の言葉で、夕子はその迷いを断ち切った。


「お嬢ちゃん。こいつはね、お嬢ちゃんが幸せになれると確信できるまで、何があっても成仏しないって言ってたんだよ」


「……」


 石川は赤くなった顔を悟らせないよう、うつむき鼻を掻いていた。


「お嬢ちゃんこそ幸せになるべき人、ずっとそう言ってたんだ。お嬢ちゃんはこれまでずっと、死者が見えることで苦しんできた。心を閉ざし、誰とも深く関わろうとしなかった。それなのにお嬢ちゃんは、その原因たるわしらを受け入れ、大切にしてくれた。そしてこれまで、誰もが諦めていた成仏の手助けをしてくれた。

 それがどれだけ大変で、勇気のいることか。ある意味誰にも認められず、お嬢ちゃんにとって何の利益にもならないことだ。それなのにお嬢ちゃんはわしらの為、その困難に立ち向かってくれる。

 だからこいつは思っていた。そんなお嬢ちゃんこそ、幸せになるべきなんだと」


 自分のことを肯定されて。そしてこれまでの労苦を理解してもらって。

 夕子の心は温かい何かで満たされていった。


「そして今、お嬢ちゃんは幸せに一歩近づいた。國澤くんと出会ったことでね」


 そう言って微笑んだ。


「勿論、これからの方が大変だ。今はお互い熱くなってるだろうが、男と女の関係なんてもんは、時間が経つにつれて冷めていくものだ。結婚なんてしちまったら最後、待っているのは退屈と我慢の日々だけだ。初めに感じていた熱なんて、どこにも残っちゃいない」


「品沢さん。付き合いだした夕子さんに、そんな身も蓋もないことを」


「そうか? はっはっは、すまないねお嬢ちゃん。歳を取ると、どうしても説教くさくなってしまうんだ。許してくれ。

 だが今、お嬢ちゃんと國澤くんは、同じ方向を見つめて歩き出した。しかも彼はお嬢ちゃんの全てを受け入れて、その上で共に生きていくことを望んでいる。だから……少し厳しいことも言ったが、わしも安心してるよ」


 品沢が微笑む。夕子はどう返せばいいのか分からず困惑し、小さくうなずいた。


「彼と一緒になったお嬢ちゃんはもう大丈夫、石川はそう確信したんだよ」


 その言葉に顔を上げると、石川は照れくさそうに微笑み、うなずいた。


「だから……お嬢ちゃん。これはこいつ、石川英正の友人としてのわしの頼みでもある。どうかこいつの未練、晴らしてもらいたい」


 そう言って頭を下げた。

 予想外の行動に戸惑いながら、石川も慌てて頭を下げた。

 そんな二人を見て。

 夕子の気持ちを定まった。


「……分かりました。大好きな石川さんのお手伝いができるなら、私にとってこんなに嬉しいことはありません。どこまでできるか分かりませんが、精一杯頑張らせていただきます」


 そう言って、再び表情を引き締めた。





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