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幽霊さん。今日もお話聞かせてください  作者: 栗須帳(くりす・とばり)
第6章 過去を乗り越えて

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056 食事デート

挿絵(By みてみん)

 


 百合子の一件から数日が経った、ある土曜の夜。

 夕子は國澤を食事に誘った。

 いつも協力し動いてくれる國澤に、どうしてもお礼がしたかったからだ。


 お礼と言うからには、それなりの店にする必要がある。そう思い色々と調べていたのだが、國澤から、


「そういうことなら、ありがたくご馳走になるよ。でもどこで食べるかは、俺に決めさせてくれないか」


 そう言われ、了承したのだった。


 彼はどんな店を選ぶのだろう。ある意味楽しみで、そして不安でもあった。

 値段のことは大丈夫だが、高級レストランとかだったらどうしよう。マナーもよく知らないし、何よりそんなところに行ったことがないので、緊張のあまり食事が喉を通らなくなるかもしれない。それに服装はどうしよう。

 そんなことを思い悩んでいると、國澤が笑いながら言った。


「その日、できればいつも通りの格好で来てくれないかな。普段着とまではいかなくても、ラフな感じで」


 その言葉に少し安堵した。そして同時に、一体どんな場所で食べるんだろう、そんな疑問が巡ったのだった。





 当日。

 國澤はタクシーで夕子のマンションにやってきた。

 いつもの車じゃないんだ。でも、どうしてタクシーなんだろう。そんなことを考えていると、察した國澤が耳元で「今日は少し飲むつもりだし、流石に運転できないからな」そう言って笑ったのだった。


 タクシーが止まった場所。それはとある百貨店の前だった。

 國澤に言われた通り、ラフな格好をしてきた夕子は動揺した。本当にこの格好でいいの? そう思いながら、國澤の後に続いた。


 彼が向かった先は地下二階。そこは、様々な店が屋台のような出で立ちで並んでいる、昔ながらのフードコートだった。


「……國澤くん? ひょっとしてここなの?」


 困惑する夕子に微笑み、國澤がうなずく。


「ああ、ここにはよく来てるんだ。日頃のお礼だって言ってたから、朝霧は堅苦しい店を考えてたと思う。勿論そういう店も嫌いじゃない。でも俺は、こういう雰囲気が結構好きなんだ」


 そう言って夕子の手を取り、まずラーメン屋に向かった。


「朝霧、苦手なものとかあるか?」


「ううん、特にないよ。好き嫌いはしない主義なんだ」


「よかった。じゃあまずはしっかり腹に入れて、それから少しずつ、色んなものを楽しもう」


 ラーメンを手に笑う。その笑顔に動揺した。


 それから二人は様々な店を順に巡った。たこ焼き、ところてん、握り寿司、おでん。量はそこまで多くないので、普段は小食の夕子も無理なく食べることができた。





「食った食った」


 ベンチに座り、國澤が満足そうに腹を撫でる。

 そんな國澤に微笑み、夕子が缶ビールを渡した。


「ありがとう。朝霧は満足できたか? 他に食べたいやつ、あるか?」


「さすがに私も限界かな。でも、こんなお店があるなんて知らなかったよ」


「朝霧には経験ないかな。寿司が食べたい、でもお好み焼きも食べたい。どうしようかって悩むこと」


「そう言われれば、確かにあるかな」


「俺って優柔不断だからさ、そういう時は両方食べようとするんだよ。でも結局、先に入った店で腹いっぱいになっちまう。で、同僚からここを教えてもらったんだ」


「確かにここなら、少しずつ頼んでも問題ないし、楽しめるよね」


「だろ? だからここが好きなんだ。最近は有名店の出店とかもあるし、重宝してるんだ」


「ふふっ」


「朝霧?」


「ごめんなさい、でも……ふふっ、なんだか國澤くんのイメージと違うなって思って」


「そうかな」


「そうだよ。弁護士先生とのディナーって言ったら、やっぱり高級レストランになるのかなって思ってたから」


「そういうところにも行くよ。お望みなら今回のお礼ってことで、次の機会に連れていってあげるよ」


「ありがとう。でも私も実は、こういう感じの方が好きなんだ」


「ならよかった。初めて女性に誘われての食事だったから、ドン引きされたらどうしようって不安だったんだ」


「女の人と食事とか、國澤くんなら普通にしてると思ってたけど」


「勿論、仕事の関係でご一緒することはあるよ。で、そういう時はそれなりの店にしてる」


「確かにここだと、落ち着いて仕事の話はできないよね。と言うか、誰ともなかったの?」


「ああ。声をかけられることはあるけど、プライベートな誘いは基本断ってる」


「どうして」


 そこまで言って、夕子は口をつぐんだ。


 もしかして、彼は私との過去をずっと引きずっていたのだろうか。

 取り返しのつかないことをしてしまった。私の心に消えない傷を刻んでしまった。彼はそう言っていた。

 そんな自分に、女性と付き合う資格はない。そんなことを考えていたのだろうか。

 でも、真実はまるで違っていた。どちらかと言えば、彼も被害者なのだ。

 それなのにあの時の十字架を背負い続け、一人で生きてきたのだろうか。

 そう思うと彼に対し、申し訳ない思いが強くなっていった。


 伏し目がちに、夕子が小さく息を吐く。

 そんな夕子を見つめ、國澤は微笑んだ。


「じゃあ腹も膨らんだことだし、場所を変えようか。朝霧と飲んでみたいし」


「あ、その……ごめんなさい、私はお酒、飲まないんだ」


「知ってるよ。飲みたいのは俺で、朝霧はソフトドリンクを頼めばいいさ。色んなものが置いてあるし、最近は飲まないお客さんも結構多いらしいから、気を使わなくていいよ」


 そう言って立ち上がり、手を差し出した。

 一瞬戸惑った夕子だったが、やがて小さくうなずき、その手を取った。


 胸の鼓動が高鳴る。

 そして急に、暑く感じた。




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