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幽霊さん。今日もお話聞かせてください  作者: 栗須帳(くりす・とばり)
第5章 生者と死者の存在意義

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053 姉妹

 


 次の休日。

 夕子の家に関係者が集った。


 テーブルを囲み、右隣に國澤。今回も色々動いてくれて、本当に感謝している。

 そして向かいの席には、男女が並んで座っていた。

 男の名は中川幸治(なかがわ・ゆきはる)。隣の女性は百合子の妹、敦子(あつこ)。敦子の腕には、生後半年の赤ちゃんが抱かれていた。

 二人とも、顔が強張っている。そして夕子は、彼ら以上に緊張していた。

 これからどう話を進めるべきか。そう思いながら息を吐き、カップに紅茶を注ぎ振舞った。

 そして。

 自分の左隣の空席にもカップを置き、手を合わせた。


「……どうぞお納めください」


 そんな夕子に、二人が怪訝な表情を浮かべる。しかし次の瞬間、それは驚きに変わった。


「え、嘘……」


「なっ……」


 誰も座っていない席。そこに置かれたティーカップが、皿ごと静かに浮かび上がったのだ。

 まるで、透明人間が紅茶を飲んでいるようだった。


 そしてその光景に、國澤も驚愕の表情を浮かべた。

 宙に浮かぶティーカップに、当たり前だと思っていた常識が崩れていくのを感じた。

 しかししばらくして我を取り戻すと、首を振り囁くようにこうつぶやいた。


「……朝霧から話を聞いて、疑ってなかったし、信じていたつもりだった。でも……こうしてその現象を目の当たりにすると、やっぱり驚いてしまうな。

 朝霧、すまなかった。朝霧が今まで言ってたこと、全部本当だったんだな」


 國澤の言葉に微笑み、静かに首を振る。


「國澤くんが信じてくれていたこと、それが嘘じゃないって分かってた。でもこんなこと、最初から鵜呑みにできる人なんていないって理解してた。謝らなくていいんだよ」


「いや、しかし……正直驚いたよ。なんかこう、自分の信じていた世界が壊れたって言うか」


「ふふっ、そうだよね。私にとっては普通のことなんだけど、こんな現実認められる人なんていないと思うよ」


「どうして誰にも相談できなかったのか、今なら分かる気がするよ」


「ありがとう」


「あ、あの……朝霧さん」


 二人の会話を聞いていた敦子が、困惑気味にそう囁く。


「つまり、その……そこに今、お姉ちゃんがいるってことですか」


 受け入れたい気持ちと、拒絶したい気持ち。その二つに挟まれ、パニックになっているようだった。


「はい。今ここに座っている人。それは敦子さんのお姉さん、百合子さんです」


「そんな……本当に……」


 口に手をやり、声を震わせる。

 そして。しばらくして。

 大きな瞳に涙を浮かべた。


「お姉ちゃんがそこに……」


 そんな敦子の肩に手をやり、中川も困惑の表情を浮かべた。


「あの……朝霧さん。百合子はその……朝霧さんからはどういう風に見えているんですか」


「服装ですか? ジーンズ姿で、わりとラフな感じですよ。でも着こなされているからか、物静かで上品な感じがします」


 夕子の言葉に百合子が苦笑する。


「顔は、顔はどうですか? 本当に百合子なんですか?」


 そう言ってポケットから一枚の写真を取り出す。中川に肩を抱かれ、幸せそうに微笑む百合子だった。


「ええ、この写真のままですよ。本当、お綺麗な人ですよね」


 そう言って微笑むと、中川は脱力したようにうなだれた。


「こんな日が来るなんて……信じられません」


「当たり前の反応ですよ。それでいいと思います」


 そこまで言って、夕子が初めてカップに口をつけた。





「それで、その……朝霧さんの言われる通り、ここに百合子がいることは分かりました。混乱はしてます。でも……信じたいと思います」


「ありがとうございます、中川さん」


「私も、私もです。朝霧さん、お姉ちゃんに会わせてくれて、本当にありがとうございます」


 そう言って敦子が頭を下げた。


「私の方こそ、こんな話を信じてくれて感謝してます。これからお話しすることは、お二人が百合子さんの存在を認めてくれないと進められないことですから」


 そう言って百合子に視線を送ると、百合子がうなずいた。


「それで、早速なんですけど敦子さん、中川さん。お二人は今、ご結婚されてるんですよね」


 夕子の問いに、二人が表情を曇らせた。

 そして小さく息を吐くとうなずき、「はい……」そうつぶやいた。


「中川さんは、お二人の幼馴染だったと伺ってます」


「……そうです。二人とは子供の頃から、仲良くさせてもらってました」


「いつも三人、どこに行くのも一緒だったと」


 穏やかに話しているつもりだった。しかし夕子が話せば話すほど、二人は目を伏せうつむいた。


「時が流れ、いつしか百合子さんと敦子さんは、中川さんのことを一人の男性として意識するようになっていった。中川さん自身も、お二人に対してそういう感情を持つようになった」


「……」


「でも、恋人の席はひとつ。どちらを選んだとしても、これまでの関係じゃなくなってしまう。それに仲良し姉妹のお二人が、そのことで仲違いすることを中川さんは恐れていた」


「……その通りです。情けないですが、僕にはどちらかを選ぶなんてこと、できませんでした」


「そんな時、敦子さんが行動を起こした。百合子さんと向き合い、気持ちを確かめようとした」


「私は……夫のことも好きですが、お姉ちゃんのことも大切でした。こんなことでお姉ちゃんとの関係が壊れるなんて、絶対に嫌だったんです」


「だから敦子さんは自分の想いを捨て、百合子さんと中川さんが付き合うことを応援しようとした」


「はい……」


「敦子さん。実はその時、百合子さんも同じことを考えていたそうですよ」


「え……」


 顔を上げ。そして今、そこにいるであろう空席を見つめる。


「百合子さんもあの日、敦子さんの気持ちを確かめようとしてました。でも敦子さんに先を取られて、かなり動揺したようです。

 本当はあの時、二人とも中川さんのこと、諦めようって言おうとしてたんです」


「お姉ちゃん……」


「でも敦子さんの強い思いを感じて、その言葉を飲み込んだそうです。それに何より、百合子さんが中川さんを好きだというのは本当のこと。だから申し訳ないと思いながらも、敦子さんの気持ちを受け入れることにしたそうです」


 敦子が肩を震わせる。

 あの時の自分の気持ち、全部お姉ちゃんに見透かされていたんだ。そう思うと恥ずかしく、そして情けなく思った。


「それから敦子さんは中川さんへの未練を断ち切り、二人の恋の応援に徹していった。その甲斐あって二人は婚約、後は挙式を待つだけとなった。でも……

 百合子さんが事故で命を落とした」




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