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幽霊さん。今日もお話聞かせてください  作者: 栗須帳(くりす・とばり)
第5章 生者と死者の存在意義

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052 にゃーちゃん

 


 翌日の夜勤明け。

 百合子の依頼をどう進めるか考えていた夕子は、國澤に相談した。


 本当、私は國澤くんのこと、便利に使いすぎだよね。そう思ったが、今回の件も自分だけでどうにかなるとは思えなかった。

 まずは隣町に住む百合子の妹、敦子(あつこ)に連絡。そしてことの詳細を説明しなければいけない。初対面の自分が出ていったところで、とても信用してもらえるとは思えなかった。


 國澤にそのことを話すと、彼は二つ返事で了承した。


「でも、その……自分で頼んでおいて何なんだけど、本当にいいの? 弁護士って立場もあるし、これが原因で評判が落ちるようなことがあったら」


 夕子の言葉に國澤が笑う。


「いやいや、この程度で評判が落ちるような仕事、してないから。それに言っただろ? 俺は朝霧の力になりたいんだ」


 電話口から聞こえるその言葉に、安堵の笑みを浮かべる。


「ありがとう、國澤くん」


「それで? 今回はどんな依頼なんだ?」


 夕子はできる限り詳細に、百合子の件を説明した。


「……なるほどな。色々ややこしそうだけど、まあでも、幽霊からの依頼なんだ。簡単なやつはないだろうな」


「いい方法、あるかな」


「変に誤魔化して話しても、警戒されるだけだと思う。前回同様、今回も正直に伝えた方がいいと思うよ」


「それってつまり、百合子さんがこの世界で迷ってる、そのことを話すってこと?」


「ああ、その方が手っ取り早い。それに色々策を考えるのって、苦手なんだよな」


「何それ、ふふっ」


「ははっ。でもまあ、話したからと言って、はいそうですかと納得する人なんていないと思う。朝霧、その敦子さんに信じてもらう為に、百合子さんのことで何か情報はないか?」


「情報……あ、そうだ。ひとつあるよ」


「どんなことだ?」


「敦子さんの呼び名。百合子さんしかそう呼んでなかったそうなの」


「興味深い情報だな。ちなみに何て呼んでたんだ?」


「にゃーちゃん」


「……」


「にゃーちゃん。敦子って名前からは、絶対たどり着けない呼び名だよね」


「……なんでそんな呼び名なんだ」


「なんでも敦子さん、子供の頃から猫が大好きだったらしいの。それで小学生ぐらいまで、いつも語尾に『にゃー』ってつけてたらしいの。まあ、敦子さんにしてみれば黒歴史だろうけど」


「だよな。で、それが彼女の呼び名に?」


「うん、そう。敦子さん、最初は嫌がってたみたいなんだけど、人前でなければ構わない、そんな条件で受け入れたらしいの。だからその呼び名で彼女を呼ぶのは、百合子さんだけなんだって」


「分かった。それとあと、敦子さんのご主人、と言うか百合子さんの元婚約者、中川さんにも声をかけるんだよな」


「うん。そうでないと、依頼は達成できないから」


「婚約者が妹と結婚。百合子さん、複雑だろうな」


「だと思う。でもそういう複雑な状況だからこそ、百合子さんは今、あの姿で存在してるんだと思う」


「でも、それっておかしくないか? 百合子さんが死んだ時、中川さんは彼女の婚約者だったんだろ? 敦子さんとそういう関係になったのはずっと先だろうし、百合子さんが迷って戻ってくる理由にはならないと思うんだけど」


「それが今回の複雑なところなんだ。百合子さんがこの世界に戻ってきた理由。それは、中川さんの幸せを見守りたいってことなんだから」


「……」


「だからそういう意味では、百合子さんの望みは今現在、無事に進行中なの。だって中川さん、百合子さんが亡くなってから三年後に、敦子さんと結婚したんだから」


「すると、今回の依頼はどういうことになるんだ? まさか元婚約者を奪われたことに対する、妹への復讐なのか?」


「そんな物騒なことじゃないよ。それに百合子さん、敦子さんが中川さんを好きだったって知ってたみたいだし。むしろ応援してると思う」


「すまん朝霧。依頼の件、やっぱりよく分からない」


「百合子さん自身もそうだと思う」


「どういうことだ?」


「今回の件は百合子さんの友達、奈緒ちゃんって幽霊さんの思いから始まったことなの。百合子さん自身は、今の状況を変えたいとは思ってない。それに大体、百合子さんの未練が中川さんを見守りたいってことだから、何をしても何も変わらない。ただ百合子さんの成仏を願う奈緒ちゃんの気持ちに応えたくて、私に依頼してきたの。それに」


「それに?」


「もしも今回、百合子さんが二人に会うことができて、二人も百合子さんの存在を信じることができたなら。そして、二人が結婚するに至った理由を百合子さんが知れば、もしかしたら百合子さん、成仏できるかもしれない」


「そんなにうまいこと、いくのかな」


「分からない。でも、わずかでも可能性があるのなら、それに賭けてみたいの」


 その言葉に微笑み、國澤はうなずいた。


「分かった。朝霧に覚悟ができているのなら、俺は構わない。なら早速、敦子さんに連絡してみるよ。それで朝霧、いつなら都合がいいんだ?」


 夕子が自分のシフトを伝えると、國澤は「分かった。じゃあまた連絡する」そう言って電話を切った。





 一時間後、國澤から電話がかかってきた。

 会うのは次の休日、場所は夕子の自宅に決まった。


「それで、なんだけどな」


 少し口ごもる國澤に、夕子が少し不安な気持ちになる。


「敦子さんと中川さん、半年前に子供が生まれてるみたいなんだ」


「……」


 この事実を百合子がどう受け止めるか、正直分からなかった。

 愛した婚約者がいた。しかしある日不幸な事故にあい、自分は命を落としてしまった。

 しかし死んでからも、その婚約者の幸せを見守りたいと強烈に願い、彼女は戻ってきた。幽霊として。

 だが。時間が過ぎていく中で。

 その婚約者は妹と結ばれ、そして今、二人の間には子供がいる。

 その現実を目の当たりにした時、百合子は何を思うのだろうか。

 何より、幽霊になってまでして戻ってきたのに、彼女ではなく、よりによって自分の妹と結婚したことに、どんな感情を持っているのだろう。

 そして。

 百合子の成仏の鍵はあるのだろうか。

 そんなことを考えていた夕子に、國澤が話を続けた。


「ちなみに敦子さん、泣いてたよ」


「どういうこと?」


「亡くなったお姉さんからの依頼ということで、最初は無茶苦茶警戒してた」


「だと思う」


「でも俺が弁護士だということを伝えて、とにかく聞いてほしいって頼み込んだんだ。でもな、かなり引いてる感じだった。頭のおかしいやつ、みたいに。でも……

 俺が彼女のことを『にゃーちゃん』って言ったら、突然泣き出してさ。『私のことをそう呼ぶのは、この世界に一人しかいません。そしてそのことは、主人も知りません。恥ずかしいから、二人きり以外の時には絶対呼ばないでって言ってましたから。両親ですら知らないんですよ? それをどうしてあなたが……本当に、姉はこの世界にいるんですか?』そう言って泣き出したんだ」


「そうなんだ……」


「勿論、全て信じてくれたとは思ってない。でも、朝霧の家に来ることは了承してくれた。後は朝霧次第だ」


 そう言われ、ことの重要さに身震いするのを感じた。

 そして表情を引き締め、うなずいた。


「分かった。頑張るよ」




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