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幽霊さん。今日もお話聞かせてください  作者: 栗須帳(くりす・とばり)
第5章 生者と死者の存在意義

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051 友情

 


 兼本の騒動以降、夕子は比較的平穏な日常を送っていた。

 あの時に負った心の傷は深い。しかし彼は報いを受けた。

 兼本のことを思うと心が痛む。理由はどうであれ、これから100年以上、彼は孤独に存在していくしかないからだ。

 そんな夕子を察し、品沢は言った。「自業自得、ただそれだけのことなんだ。お嬢ちゃんが気に病むことはないよ」と。

 品沢の気遣いに感謝し、彼女は今回の一件、これ以上考えるのをやめようと思ったのだった。





 季節は巡り、初夏の日差しが強くなってきたある日。

 いつものように職場に向かう道中で、夕子は幽霊、緒方百合子と会った。


「こんにちは百合子さん。今日はお一人なんですね。奈緒ちゃんは?」


 夕子の問いに微笑み、百合子が答える。


「夕子さん。今日は少しお願いがあってきました」


「お願い、ですか。勿論構いませんけど」


 相変わらず魅力的な笑顔だな。そう思いながら、いつもの堤防に向かった。


「それでお話というのは」


「……今日のこと、実は奈緒ちゃんからの要望なんです。正直言って、私にその気はありませんでした。でも奈緒ちゃん、本当に私のことを考えてくれてまして。彼女の気持ちに応えるべきじゃないのだろうか、そう思ったんです」


 その物言いから、これは彼女の未練に関する話なんだと理解した。


「奈緒ちゃん、いつも私のことを心配してくれるんです。ことあるごとに私の過去を聞いてきて、どうしたら私が成仏できるのか、真剣に考えてくれるんです」


「奈緒ちゃん、百合子さんのことが本当に大好きですからね。お正月の時も、百合子さんの成仏を祈るんだって言ってましたし」


「正直、ずっと戸惑ってました。どうしてそこまで、私のことを考えてくれるのかなって」


「奈緒ちゃん、幽霊さんになってから、ずっと一人で寂しかったって言ってました。そんな時百合子さんに声をかけてもらって、本当に救われたんだって」


「普通のこと、なんですけどね。私たちはこの姿で戻ってきてから、ずっと困惑し続けています。未練を晴らす為に戻ってきた筈なのに、その手段が一切ない。あるのは空虚に満ちた日常だけ。私も戻ってから、ずっと不安でした。

 だから奈緒ちゃんを見かけた時、体が勝手に動いたんです。ああ、きっとこの子も今、不安でいっぱいなんだろうなって。自分にできることは何もない、でも寄り添ってあげることはできる、そう思っただけなんです」


「その百合子さんの行動が、今も奈緒ちゃんの中で幸せな記憶として残っているんです。それに奈緒ちゃんが百合子さんを見る目って、なんだかお姉さんを見てるみたいで可愛いです」


「ふふっ、そうですね。私も奈緒ちゃんを妹のように見てるところ、ありますから」


「百合子さんにご兄弟は」


「妹が一人います。敦子(あつこ)と言って、奈緒ちゃんより少し年上です」


 流れる雲を見上げ、目を細める。


「奈緒ちゃん、いつも私に言うんです。百合子さんが成仏できるよう、私はずっと応援してます。何なら私、夕子さんにお願いしてみますって。

 勿論拒みましたし、夕子さんに無駄な時間を使わせたくない、だから言わないでほしいって言ってました。でも」


「……」


「昨日、奈緒ちゃんと少し言い合いになってしまったんです。どうしてそんな頑なに拒むんですか? 百合子さんの幸せの為なら、どんなことでもするって覚悟してるのにって」


「それで言い合いに」


「ええ。でも、それが奈緒ちゃんの優しさから来てることは理解してました。だから私、言ったんです。私の未練が晴れることはない、成仏することもできないんだって」


「……」


「それを言ったら奈緒ちゃん、泣いちゃって。私のように生きることが望みなら、叶わないことも分かります。でも百合子さんは違いますよね? 百合子さん、教えてください。百合子さんはどんな未練を持って、この世界に戻ってきたんですかって」


「それで百合子さんは」


「全て話しました。そうしたら奈緒ちゃん、かなりショックを受けたみたいです。でも……しばらくして言ったんです。それでも私より、可能性はあると思います。だから夕子さんに相談してくださいって」


 どんな未練なのかは分からない。でもそれを聞いた時、奈緒ちゃんがどんな思いをしたのかは理解できる。それでも、例え僅かな望みであったとしても諦めたくない、そう思い、自分に依頼することを望んだのだろう。

 そして今日一緒に来なかったのは、奈緒ちゃんなりの配慮だったんだろう、そう思った。


「分かりました。お話を聞いてる限り、かなり込みいったことのようですね。でも……もし協力できることがあるのでしたら、お手伝いしたいです」


 そう言った夕子の真摯な瞳に、百合子は小さく息を吐き微笑んだ。


「本当、奈緒ちゃんも夕子さんも、どうしてそんなにお節介なんでしょうね。自分にとって、何の益にもならないことなのに」


「そんなことないですよ」


 百合子を見つめ、微笑む。


「奈緒ちゃんほどじゃないですけど、私も百合子さんのことが大好きです。その百合子さんが、少しでも幸せな気持ちになれる。その為だったら私、頑張れます」


 百合子は苦笑し、うなずいた。


「分かりました。それから……ありがとうございます、夕子さん」


 そう言って再び、初夏の空を見上げた。




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