表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幽霊さん。今日もお話聞かせてください  作者: 栗須帳(くりす・とばり)
第5章 生者と死者の存在意義

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/62

044 女子会

挿絵(By みてみん)

 


「こんにちは奈緒ちゃん、百合子さん」


 12月31日。

 近所の堤防で、夕子が奈緒と百合子に声を掛けた。


「こんにちは夕子さん。今日もお疲れ様です」


「夕子さん、こんにちは」





 あの日。

 出勤前に奈緒に待ち伏せされ、ここで話し合った。

 それがいつの間にか習慣となり、出勤前の一時間、こうして会うようになっていた。

 職場ではいつも、男の幽霊たちが夕子に会うのを楽しみにしている。一緒に楽しめればいいのだが、残念ながら異性同士、認識することができない。

 そうなれば間を取り持つ夕子に負担がかかってしまう。そう思い、この場所が女子会の場になっていたのだった。

 雨天の時は、近くの公園のベンチで過ごす。

 おかげでこれまでより早く家を出ることになったのだが、こうして女同士、周囲を気にせず語り合える時間は楽しかった。


「でも夕子さん、こんな日まで仕事だなんて、ほんと大変ですよね」


「こんな日って、大晦日のこと?」


「はい。本当なら大掃除をして、夜はコタツでのんびり過ごす筈なのに」


「ふふっ。奈緒ちゃんの言い方、昭和っぽいよ」


「ええーっ、そうですかー? 生きてる頃は、それが当たり前だと思っていたんですけど」


「まあ確かに、そういう過ごし方もあるのかもね。でも私のような仕事をしてると、暦に執着がなくなっていくんだよね」


「そういうものなんでしょうか」


「それに私、一人暮らしだし。大晦日だからって特別なこともしないし、これでいいかなって思ってるよ」


「でもでも、夕子さんにだってご両親がいるじゃないですか」


「実家には明日、夜勤明けで行くつもりだよ。でもまあ眠いだろうし、ご飯食べたら帰ると思うけどね」


「國澤さんとは?」


 奈緒があえてその名を口にする。夕子が反応し視線を送ると、奈緒は意地悪そうな笑みを浮かべていた。


「奈緒ちゃん、その……かなり勘違いしてるみたいだけど、私たちは別にそういう関係じゃ」


「でも会うんですよね。いつ会うんですか?」


「……2日の休み、初詣に誘われてる」


「やっぱりー! あははっ、なんだかんだで夕子さん、いい年を迎えるんじゃないですかー」


「奈緒ちゃん……恥ずかしいからそのぐらいで」


 そんな二人のやり取りを見つめながら、もう一人の幽霊、百合子も微笑んでいた。





 國澤とはあれ以来、連絡を取りあうことが増えていた。國澤は事あるごとに電話やメッセージを送り、近況を伝えてきた。

 こうして特定の異性と連絡を取りあうことがなかったので、最初のうちはかなり戸惑った。しかし國澤のいつも変わらぬ穏やかな様子に、少しずつ緊張が解けていくような気がした。

 國澤はそんな夕子を気遣い、強引な手を使ってくることもなかった。たまに「時間があれば、どこかで食事でもどうかな」そう誘ってくるぐらいだった。

 あの頃に感じた、少し心が躍っているような感覚。これまでと違う休日の過ごし方。

 最初の頃はその変化に困惑したが、それが少しずつ彼女の日常になっていき、気がつけば今の状況を楽しむようになっていた。

 國澤は夕子に対し、異性としての関係を望んでいるようにも思えた。夕子もまた、この胸の高鳴りはそうなのではないかと感じ、戸惑った。だが、國澤は夕子を一人の友人として尊重し、無理強いしてくることはなかった。それが嬉しくもあった。


「それで? 奈緒ちゃんと百合子さんは、これからどこで年越しするの?」


 話題を変え、夕子が二人に尋ねる。奈緒と百合子は顔を見あわせ、にっこりと微笑んだ。


「この辺りで一番高い丘に登って、初日の出を見るつもりです」


「そうなんだ。天気もいいみたいだし、いい年越しになりそうだね」


「はい。何より私には、百合子さんが一緒にいてくれてますから」


 そう言って百合子の腕にしがみつく。そんな奈緒に微笑みながら、百合子が頭を撫でた。


「奈緒ちゃんって本当、百合子さんのことが好きだよね」


「勿論です。だって幽霊になってから、初めてできたお友達なんですから」


 友達って言うより、仲良し姉妹って感じなんだよね。そんなことを思いながらうなずく。


「今年は本当、色んなことがありました。彼とぎくしゃくして、自殺未遂をして。でもそれが本当になってしまって、後悔して幽霊になって戻ってきて。

 この姿になって、最初の頃は本当に寂しかったです。でもそんな私に、百合子さんが声を掛けてくれて。そして夕子さんにも声を掛けてもらえて。この姿でいることも、そんなに悪くないかなって思えるようになりました」


 その純粋な笑顔に、夕子の胸が少し痛んだ。

 奈緒にはこれから、120年にも及ぶ長い日常が待っている。決して逃げることのできない現実。その間に、私もこの世界から消えていく。百合子とも、いつか別れがくるのかもしれない。

 まだ事情を聞けていないが、百合子に関しては、奈緒に比べたら成仏の可能性がある筈だ。そしていつか、彼女がそれを望んだ時。それは奈緒との別れを意味することになる。

 私はその時、喜んで協力することができるのだろうか。


 そんな夕子を察したのか、奈緒が屈託のない笑みを浮かべて言った。


「初日の出で私、ひとつ願いをかけるつもりなんです」


「そうなんだ。どんなこと? 聞いてもいいのかな」


「勿論です。私の願い、それは百合子さんの成仏です」


「え……」


 どこまでも純粋に瞳を輝かせ、奈緒がそう言った。

 百合子は少し瞳に陰りを宿しながら、奈緒の頭を少し乱暴に撫でた。


「ありがとう、奈緒ちゃん。でもね、折角新年のお願いなんだから、自分のことをお願いした方がいいと思うよ」


「これでいいんです」


「……」


「だって私、百合子さんには本当に感謝してるから。勿論そうなれば、私は百合子さんとお別れすることになる訳で、そうなったら寂しくて後悔すると思います。でも、それでも私は百合子さんに成仏してほしいんです」


 奈緒の熱い視線に微笑み、百合子が奈緒を抱きしめた。


「ありがとう、奈緒ちゃん。その気持ちだけで十分だよ。それにほら、私の未練は」


「夕子さんにお願いしてみたら? 勿論、私も協力するし」


「……」


 奈緒の追撃に、百合子が困惑の表情を浮かべる。

 その時、スマホのアラームがなった。


「ごめんね奈緒ちゃん、百合子さん。私、そろそろ行かないと」


 そう言って慌てて立ち上がる。

 そこまで慌てる必要はないのだが、なぜか今日はこれ以上、この話を聞くべきではないと感じたのだった。


「ごめんなさい夕子さん。せっかくの出勤前なのに、私ばっかり話してしまって」


「ううん、いいんだよ奈緒ちゃん。それに私も、奈緒ちゃんとお話しするの楽しいし」


 そう言って微笑むと、奈緒は照れくさそうに頬を掻いた。


「じゃあ私、そろそろ行くね」


「夕子さん。今年一年、本当にありがとうございました。どうか来年も、よろしくお願いします」


「こちらこそ。百合子さんも、ありがとうございました」


「夕子さん。その……紅茶、ありがとうございました。お仕事、頑張ってくださいね」


「ありがとうございます。今年最後の勤務、頑張ってきますね」


 そう言って手を振り、その場を後にする。

 背後から奈緒の、「頑張ってくださいねー!」との声が何度も聞こえる。





 奈緒の百合子への思い。

 百合子の未練は何なのか。

 そういったことを巡らせながら、夕子はグループホーム「ゆめ」へと向かった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ