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幽霊さん。今日もお話聞かせてください  作者: 栗須帳(くりす・とばり)
第4章 真実を求めて

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042 嘘で固めた告白

 


「真相って言っても、別にそんな大層なものじゃない。ごくシンプルだ」


 そう話す國澤の横顔を見つめる。


「罰ゲームってのは本当だよ」


 その言葉にまた、胸が痛んだ。


「ある放課後、男子たちがカードゲームをしてたんだ。俺はそういうのにうとくて、あまり関心がなかった。だからさっさと掃除を済ませ、帰ろうとした。その時あるやつから、『國澤もやってみないか』って声を掛けられたんだ。

 乗り気じゃなかったし断ったんだけど、そいつ、妙にしつこく絡んできたんだ。クラスに特別親しいやつもいないし、どちらかと言えば浮いてる。そんな俺になんでこいつ、こんなに絡んでくるんだと思った。でもまあ、後で考えてみたら分かったんだけどな。あの時のあいつら、やけにニヤニヤしてたから。

 で、付き合いだと諦めて何度かやったんだけど、結果は惨敗。そこでそいつが言ったんだ。『じゃあ罰ゲーム、國澤で決まりだな』って」


 淡々と語る國澤。対照的に夕子は、動悸を抑えられなかった。


「あいつらが提示した罰ゲーム、それがあの告白だったんだ。相手はお前に任せる、誰でもいいぞって盛り上がってた。

 厄介なことになっちまった、そう思ってため息をついた時だった。俺の頭に一人の女子が浮かんだんだ。

 それが朝霧だった」


「……」


「あの時朝霧のことをどう思っていたか、俺にもよく分からない。でもなぜか、誰かに告白しなくちゃいけないって言われた時、朝霧以外の顔が浮かばなかったんだ」


「……それで私に」


「ごめん。正直言うと、あの頃の俺は女子に特別な感情を持ったことがなかったんだ。ただ……朝霧のことは少し気になってた」


「……」


「それがどういう感情だったのか、今も分からない。でもあの時の俺は、どうせ振られるんだったら朝霧に振られたい、そう思えたんだ」


「どうして」


「なんでだろうな、ははっ。でも、どうして朝霧のことを気になっていたのかは分かる。朝霧、俺と少し似てるなって思ってたんだ」


「……」


「誰に対しても好意的で、しかも周囲の空気を決して壊そうとしない。常にバランスを考えて、自分は一歩引いたところから俯瞰してる」


「そうなの……かな……」


「まあでも、そういうやつは他にもいた。でも俺は、そんな朝霧の笑顔がいつも嘘くさい、そう思ってたんだ」


 そう言われ、心臓を鷲掴みされたような気がした。


「ごめんな、酷いこと言って。でもあの時の俺は、朝霧にそんな印象を持ってた。それからかな、朝霧の様子が気になりだしたのは。

 それで思ったんだ。朝霧ってひょっとして、何か秘密めいたものを抱えてるんじゃないかって」


「……ごめんなさい。もう少し開けるね」


 そう言って窓を全開にし、大きく息を吸い込んだ。


「……思春期の俺たちだ、秘密ぐらいみんな抱えてたと思う。でも朝霧のそれは、そんな言葉で片づけてはいけないような、触れてはいけないようなもののように感じてたんだ」


「それがどうして、國澤くんと似てるの?」


「似てるって言うか、共感できるって言った方が正しいかな。なぜだか分からないけどあの時、俺は朝霧に親近感を覚えたんだ。でもまさか、こんなすごい秘密だったとは思いもしなかったけどな」


 今日の出来事を思い出し、小さく微笑む。


「こんな秘密を抱えてたんだ。朝霧はこれまでずっと、誰にも言えずに苦しんできたんだと思う。そういう意味では、俺なんかが気軽に共感できるなんて言ったら怒られるのかもしれないな」


 ははっ、と乾いた笑い声をあげる。


「それでまあ、朝霧に告白した訳なんだけど……断られる以外の選択肢があっただなんて、思いもしなかったよ。朝霧がとう思ってるかは分からないけど、俺は自分自身に対する評価が低いから」


「……」


 なんて不器用な人なんだろう。そして、なんて自虐的な人なんだろう。

 この人は、自分のことをかなり過小評価している。傲慢で過大に評価する人間は論外だけど、それにしてもそこまで自分を卑下しなくてもいいのに、そう思った。


「俺は自分のことが嫌いなんだ」


 そう言った彼の瞳は、少し(よど)んでいた。


「何がって訳じゃない。ただ、とにかく自分のことが好きになれないんだ。容姿も声も、考え方も。だからこんな男、誰にも好かれる訳がないと思ってた。それなのに朝霧は、友達からでよければ、そう言って受け入れてくれたんだ」


 そう言って微笑む彼の表情は、少し寂しげだった。


「で、友達としての交際が始まって。どう言ったらいいのかな、俺は浮かれてる自分に気づいたんだ。これまでずっと、灰色だと思っていた世界。それに少しずつ、色が重ねられていくような気がしたんだ。正直驚いたよ。こんなに世界は綺麗だったんだ、そんな風にさえ思えたんだから。

 そしてそれが、朝霧のおかげなんだと気づいた」


 先程までとは違った感情で、夕子は息苦しくなっていた。

 今すぐここから逃げ出したい。

 それが羞恥によるものだったということに、後で気づいた。


「朝霧と一緒に下校して、寄り道してお茶を飲んで、図書館で勉強して……多分あれが、俺の学生時代で一番輝いていた時だったと思う」


「私だって……うまく言えないけど、あの頃は本当に楽しかったよ」


「そして気づいた。俺は朝霧のことを、一人の女子として好きになってるんだと」


 顔から火が出る思いがした。


「唯一気になっていた女子。だから罰ゲームの告白に朝霧を選んだ。

 嘘で固めた告白だった。でもその関係がいつの間にか、俺にとってたまらなく大切なものになっていたんだ。

 だから俺はやつらに言った。『罰ゲームのつもりだったけど、俺は本当に朝霧のこと、好きになってしまった。だから朝霧にこのことを正直に打ち明けて、その上で改めて告白したい』って。でもその時」


 そう言って三本目の煙草をくわえ、火をつけた。




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