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幽霊さん。今日もお話聞かせてください  作者: 栗須帳(くりす・とばり)
第4章 真実を求めて

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041 どっちが本当のあなた?

 


 山中の妻、ひとみからのメッセージを受け取った帰り道。

 車中で夕子は、混乱する思考を整理しようとしていた。


 依頼を達成することはできた。このメッセージを見せれば、山中は満足してくれるだろう。

 しかし夕子は、ひとみの男に対する考えが理解できずにいた。


 男は自分にとってのアクセサリー。


 確かに人間関係とは、共依存のことでもある。自分の利の為、利用することがあるのは否定しない。

 でもそれを堂々と公言し、自分の生き方の軸にしている彼女のことを、どうしても理解できなかった。むしろ嫌悪に近い感情を持ってしまった。

 そしてそれがあの時、明らかに態度に出てしまった。ひとみもそれを察していた。

 しかしその時、隣にいる國澤が話を打ち切り、本題に進むことを提案してくれた。


 今回の依頼、もし自分一人で行っていたらどうなっていたのだろう。

 そう思うと、感情を優先しそうになった自分を恥じた。


 そして同時に、國澤に対し感謝と敬意が芽生えていた。

 彼はあくまで、第三者として冷静に状況を俯瞰し、最善の行動をとってくれた。

 本当に助かった、そう思った。


「國澤くん、その……今日は本当にありがとう」


 自分でも驚くぐらい、声が震えていた。

 そんな夕子に静かに微笑み、國澤が首を振る。


「いや、俺はあくまでアポイントを取っただけだ。礼を言われるようなことはしてないよ」


「そんなこと……もし私一人だったら、こうしてメッセージも受け取れなかったと思う」


「そうかな。俺は朝霧、よくやってたと思うぞ」


「全然だよ。あの時だって私、ひとみさんに対して不信感が出すぎちゃって」


「はははっ、確かに顔に出てたな。でもそれは、先方も気にしてないって感じだったじゃないか。理解できないならそれでいいって」


「色んな考え方があるんだね……」


「そうだな。そう思うよ」


「國澤くんだってそうだよ。本当は今日だって、私に付き合う必要なんかなかったのに。ほんと、相変わらずお人好しだなって思った。そんなあなただから、私はあの時……」


 そこで慌てて口を閉ざし、ペットボトルのお茶を流し込んだ。


「……」


 ――私今、何を言おうとしたの?


「ごめんなさい。今の忘れて」


「朝霧」


 真顔でそう言った國澤が、煙草に火をつけた。


「俺はあの時のこと、許してもらおうなんて思ってない。言い訳するつもりもない。俺は君を傷つけた。それが事実なんだから」


「……」


 唇を噛み、夕子がうつむく。


「確かにあの時のこと、引きずってないと言えば嘘になる。傷ついたのも本当」


「だよな」


「でもね、それ以上に気になってたことがあるの。どちらかと言えば、そっちの方が大きいぐらい」


「……」


「さっきひとみさんから話を聞いて、こんな恋愛観もあるんだなと驚いた。愛してるのは本当。でもそれは、あくまで彼女を輝かせている時だけのことで、それがなくなれば彼女は去っていくのかもしれない」


「かもしれないな」


「もし、高校時代に私が受けたこと。それがひとみさんのような人からであったなら、私はこんなに悩まなかったと思う。ああ、この人にとって、恋愛もただのゲームなんだなって割り切れたと思う。でも……

 國澤くんはそうじゃない」


「……」


「あなたはいつも誠実で、自分より他人の幸せを優先する。そんな不器用な人だから」


「そうなのかな」


「うん、そう。久しぶりに会って、改めてそう思った。だから混乱したの。あの時、罰ゲームで私に告白してきたあなたと、誠実なあなた。どっちが本当のあなたなんだろうって」


「……」


 信号待ち。車を止め、國澤が煙草を揉み消す。

 夕子は静かに息を吐き、続けた。


「こんなこと、今更蒸し返しても仕方ないのかもしれない。でもね、國澤くん。私は再会したあの日から、ずっとあなたに聞きたかったの。あなたの真意が。もしそれで今より傷つくことになるとしても、私はこの疑問の答えがほしいの。

 こんなこと、言うつもりじゃなかった。でも今日の國澤くんを見て、やっぱり知りたいって思った。それに國澤くん、ひょっとしたらあのことで、私以上に苦しんでる」


「……」


「どうしてあの時、私に告白してきたの?」


 信号が青に変わり、再び車が動き出す。

 國澤は新しい煙草をくわえ、火をつけた。


「……分かった。あの一件、朝霧には知る権利がある。でもな、これは言い訳なんかじゃないし、許してもらおうとも思ってない。このことだけは分かってほしい」


「分かってるよ」


 そう言って自分も煙草に火をつけ、微笑んだ。


「國澤くんがそういう人だって、あの時から私、知ってるから。どんな時でも自分の非を誤魔化さず、黙って背負う。ほんと、不器用を絵に描いたような人なんだから」


 夕子の言葉に國澤も微笑み、うなずいた。




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