表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幽霊さん。今日もお話聞かせてください  作者: 栗須帳(くりす・とばり)
第4章 真実を求めて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/63

038 初めての理解者

 


 それから夕子は時間をかけて、自身の異能について説明した。

 そして現在、懇意にしてくれている幽霊たちがいること。彼らがどうしてこの世界を彷徨(さまよ)っているのか、どうすれば成仏できるのか。そして実際、これまでに二人が未練を晴らして旅立っていったことを話した。


 國澤は終始無言で、夕子の話に耳を傾けていた。


「それで今回も、山中さんって幽霊さんから、ひとみさんに感謝の言葉を伝えてほしい、そう頼まれたの」


「朝霧は、その……幽霊たちの依頼の為に、これまで動いていたって言うのか」


「うん、そう。でもね、そんな大層なことじゃないんだよ? できないことだってあるし、その時はごめんなさいって謝ってるし」


「……具体的にはどんなことが」


「例えば以前、頼みって訳じゃなくて、話の流れで聞いたことがあるんだけど。その人、奥さんの不倫が原因で喧嘩になったの。そこに不倫相手も参戦して、すごい修羅場になったんだって。その時その人、咄嗟に包丁を手にしてしまって」


「……」


「そのまま不倫相手ともみ合いになって、気が付けば包丁が自分の胸に刺さって、そのまま亡くなってしまったの。

 その人、奥さんと結婚して本当に幸せだった、そう言ってたわ。その幸せを壊し、そして故意でないとはいえ、自分の命を奪ったあの男を許せない。彼にも報いを受けさせる、それまで成仏なんかするもんか、そう言って現世に戻ってきたの。

 その人の未練、望みはひとつ。不倫相手の命を奪うということ」


「……」


 淡々と語る夕子。國澤はどう反応すればいいのか分からず、困惑した。


「勿論そんなこと、夕子さんにお願いしたりしません。それに彼は刑務所の中ですし、手出しなんてできませんから。そう言って笑ってたんだ」


「と言うことは、朝霧はそのことで何も頼まれてないんだな」


「勿論だよ。それに頼まれたとしても、そんなことできないし。大体その人だって、私にそんなことを頼むような人じゃないから。本当、穏やかでいい人なんだよ」


 彼女は幽霊のことを「その人」と言った。彼女にとって幽霊たちは、ある意味生者よりも近しい存在なんだ、そう思った。

 彼女は彼らを死者と蔑み、見下したりしていない。むしろ秘密を隠す必要のない存在として、心から受け入れている。

 そんな夕子に國澤は思った。

 朝霧。君は俺のこと、相変わらずだねって言った。

 君こそ何も変わっていない。

 心に深い傷を宿しているにも関わらず、自己を顧みず、他者を尊重し、慈しんでいる。

 そして今、君は自身が苦悩する原因となった彼らの為、無償で動いている。

 そんな君だからこそ、俺は心を奪われたんだ。

 それなのに。

 そんな君のことを、誰よりも俺が傷つけてしまったんだ。

 そう思い、彼の中にまた、過去の後悔が重く()し掛かっていった。


「……」


 再び煙草をくわえると、夕子が火をつけた。


「あ、ありがとう」


「運転中だからね。気を付けないと駄目だよ」


 そう言って微笑む夕子に動揺した。


「そういう訳で、今回私はひとみさんに会って、山中さんのメッセージを伝えるつもりなの。信じてもらえるかは分からない。でも精一杯説得してみせるつもり。そしてできれば彼女から、山中さんへのメッセージを受け取りたいの」


 幽霊たちは、自分が死んだ街から動くことができない。だから彼女が来てくれない限り、永遠に会うことができない。

 死者の世界の(ことわり)が頭をよぎった。


「……分かった。じゃあ俺、その時に彼女のメッセージを録画するよ。朝霧のスマホで撮れば、その山中さんって人にも見せられるんだよな」


「いいの? というか國澤くん、今の話信じてくれるの?」


「朝霧に嘘をつく動機がないからな。赤の他人に会う為に、休みの日にこんな場所まで足を向けるんだ。しかもそれは、朝霧にとって何の利益にもならないことだ。それにその話をすることで、家から叩き出されるかもしれない。そんなリスクを負ってまでして、朝霧に嘘をつく理由がないだろう。

 それに俺は知ってる。朝霧は自分の為に嘘をつくような人じゃないって」


 その言葉に胸が熱くなった。


「勿論、全部鵜呑みにすることはできない。俺にはそういう霊感もないし、これまでそういった経験をしたこともないからな。朝霧にいくら言われたとしても、幽霊の存在自体、簡単に信じることは難しい」


「分かってるよ」


「でも」


 そう言って小さく息を吐き、口元を引き締めた。


「朝霧が嘘をついている、そんなことは思ってない。と言うか、朝霧がそう言ってるんだ。俺は信じるよ」


 そう言って駐車場に車を止め、エンジンをきった。


「到着だよ、朝霧」


 夕子が動揺するほどの笑顔を向けて、國澤がそう囁いた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ