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幽霊さん。今日もお話聞かせてください  作者: 栗須帳(くりす・とばり)
第4章 真実を求めて

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037 告白

 


 國澤から連絡を受けた山中の元妻ひとみは、驚くほどあっさり会うことを承諾した。

 俺が弁護士だということで、信用してくれたんじゃないかな。國澤にそう言われ、夕子は安堵の息を吐いた。

 確かにそうだ。いきなり見ず知らずの私が連絡しても、素直に会ってくれるとは思えない。それが前の夫に関することであれば、なおのこと警戒されていた筈だ。

 國澤くんに頼んでよかった、心からそう思った。


 しかし次に夕子の中に、ひとつの不安が生まれた。

 今回の件を、どう説明していくのかということだ。

 高坂(こうさか)さんの時のように父が友人で、頼まれていたメッセージを伝えることにする?

 しかしそれは前回、奥さんに見破られている。何より私は、山中さんのことを深く知らない。どのような夫婦関係だったのかも知らない。迂闊なことを口にすれば、すくに嘘だと見抜かれてしまうだろう。

 そう思うと、正直に話す方がいいのではないだろうか、そんな気持ちになってきた。

 しかしそれは、かつての忌まわしき過去と同じ結果を生むことになるかもしれない。そう思うと身震いがした。

 奇異の目で見られる、その現実に恐怖した。

 そして。

 もし正攻法で臨むのであれば、國澤にも事前に話しておかなければいけない。

 誰にも言えない真実を、彼に打ち明ける。そう思うと、息ができなくなっていった。

 しかし自分は、何としても山中の未練を晴らしてあげたい。それにこれからも、彼らの為に力になると誓ったのだ。


 彼女は苦悩した。

 そして。

 結論が出ないままに、約束の日を迎えることになった。





 当日、國澤が車で夕子を迎えに来た。

 胸に光る弁護士バッチがまぶしかった。

 しかしそれ以上に、彼の凛々しい表情に動揺した。

 これから彼は、弁護士國澤博幸として自分に協力してくれる。

 しかも報酬はいらない、そう言ってきたのだ。


「正直、俺には朝霧が何をしようとしてるのか分からない。でも今回の件、俺は朝霧の依頼だから受けることにした。こう言うと朝霧は怒るかもしれないけど、これは俺の自己満足の為でもあるんだ。

 朝霧にあんな酷いことをした。多分あの一件は、俺が思ってる以上に朝霧を傷つけた筈だ。だから許されるとは思ってない。でもせめて、朝霧の力になりたいんだ」


「でもそんな、料金がいらないなんて。國澤くんの方だって今回、色々と出費があった筈でしょ? それに今日まで、私は全部國澤くんに任せてしまってる。せめて必要経費ぐらい」


「今回だけは俺の我儘、聞いてくれないか」


 そう言った國澤の瞳を見て、夕子はこれ以上拒めないと感じた。


「全く……頑固なところ、相変わらずだね」


「ははっ、ありがとう」


 夕子の言葉に照れくさそうに笑い、國澤が車を動かした。


「目的地まで2時間ぐらいだから、ゆっくりしてるといいよ。寝ても怒らないから」


 ほんと、何も変わってない。いつもこの人は、自分より相手のことを気遣っている。

 そう思い、夕子は決意した。


「ありがとう。でも折角2時間もある訳だし、その間に今回のことについて、少し聞いてもらってもいいかな」


「それは勿論、構わないんだけど……でもいいのか? 言いたくないなら無理に言わなくてもいいんだぞ」


「ううん、いいの。と言うか聞いてほしい。どちらにしても先方に着いたら、話の流れで分かることだからね。今日國澤くんに会って、ひとみさんにどう話すか決めることができた。だから……聞いてくれないかな」


「……分かった。でも、あんまり無理するなよ」


 國澤の言葉に微笑み、夕子はポーチから煙草を取り出した。


「この車、禁煙?」


 夕子が喫煙者だということに、國澤が少し驚いた表情を浮かべた。しかしすぐに微笑むと、自分もポケットから煙草を取り出し、窓を少し開けた。


「仕事中は吸わないようにしてるんだけどな。依頼人がいいのなら、お付き合いさせてもらうよ」


 夕子も意外そうな表情で國澤を見つめる。彼は絶対、煙草とは無縁だと思っていたからだ。


「そっかぁ、國澤くんも喫煙者なんだね……私たち、いつの間にか汚れた大人になっちゃったんだね」


 そう言って火をつけ、微笑んだ。





「私には、誰にも言ってない秘密があるの」


 白い息を吐き、夕子が流れる景色を見つめる。

 國澤は何も言わず、静かにうなずいた。


「どうして秘密にしてるのかって言えば、それが原因で一度、辛い思いをしたから。だからその時思ったの。このことは誰にも言わないでおこう。そうしないと、私はこの世界で生きていけなくなるって」


 灰皿に煙草を捨て、ペットボトルのお茶を口にする。

 そして小さく息を吐き、つぶやいた。


「私ね、子供の頃から幽霊が見えるの」


「……」


「勘違いしないでほしいんだけど、これを話したからといって、信じてほしいとか思ってる訳じゃないからね。だから安心してほしい。大体、真面目な顔でそんなこと言われても、反応に困ることぐらい分かってるから。

 でもこれから向かう先で私がすることは、その幽霊さんから頼まれたことなの。だから事前に、そのことを知っておいた方がいいと思ったの」


「朝霧は……」


 煙草をくわえたまま、國澤がつぶやくように語りかける。


「そのことをこれまで、誰にも言わずに生きてきたのか」


 その問いに驚いた。彼の誠実さは知っているが、この告白で彼が怒ってしまうことも覚悟していたからだ。


「う、うん……一度だけ子供の頃、その話をしてね。友達や先生、親からも嘘つきって言われたから。その時思ったんだ。このことは誰にも言わない方がいいんだって」


 國澤の煙草の灰が落ちそうになっていた。夕子が口元に手をやると、灰が音もなく静かに落ちた。


「あ……ご、ごめん」


「ふふっ。こういうおまぬけさんなところも、変わってないんだね」


 慌てて煙草を灰皿に放り投げる。そして缶コーヒーをひと口飲むと、もう一度「ごめん」そうつぶやき、夕子に続きを促した。




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