表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幽霊さん。今日もお話聞かせてください  作者: 栗須帳(くりす・とばり)
第4章 真実を求めて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/62

036 力になりたい

 


「ここ、なんだね……」


 家から車で二時間。高層マンションを見上げ、夕子がつぶやいた。


「じゃあ行こうか。ちょうど約束の時間だし」


 そう言って、國澤が車のエンジンを止めた。





 あれからすぐ、夕子は國澤の事務所に向かった。

 ビルの3階。入る時、かなり緊張した。

 受付の女性は夕子を見て微笑み、応接室へと通してくれた。中はこじんまりとしていたが、清潔感があり好感が持てた。


「お待たせしました」


 國澤が入ってくると、緊張がさらに大きくなった。口の中がからからに乾くのが分かった。

 慌てて立ち上がり、


「あ、その……急にごめんなさい」


 そう言って頭を下げた。

 そんな夕子に苦笑しながら、國澤が座るよう促す。

 震える手でコーヒーを飲み、小さく息を吐く。口の中に苦みと甘味が同時に広がった。


「じゃあとりあえず、依頼内容から聞いてもいいかな」


 國澤の言葉に、夕子は小さくうなずいた。


「依頼というか、その、相談なんだけど……でも私、こういうところ初めてだし、どれだけお金がかかるのかも分からなくて……だからまず、話を聞いてもらえないかと思って」


「はははっ」


 強張った表情の夕子に、國澤が思わず笑い声を上げた。


「わ、笑うことないじゃない……」


「ごめんごめん。なんて言うか、俺の知ってる朝霧って感じじゃなくて、ちょっとおかしくなったから」


「何よそれ……」


「悪かったって。でも本当、そんなに緊張しなくていいからさ。朝霧は弁護士の俺に会いに来たって言ったけど、俺は同窓生の朝霧に会ってるって思ってるから。

 とにかくほら、一度深呼吸して。肩の力抜いてみなよ」


 視線を向けると、爽やかな笑顔が目に入った。

 あの頃と同じ、優しい瞳だ。そう思い、口元が緩んだ。


「そうそう、そんな感じ。俺の知ってる朝霧ってそれだから」


「何言ってるのよ、バカ」


 赤面し、もう一度うつむく。


「ははははっ、ごめんごめん。でも本当、懐かしいよな。朝霧とまたこうして話せるなんて、思いもしなかったよ」


「私だって……」


「弁護士と話してるからって、いつも料金がかかる訳じゃない。それに俺たち、クラスメイトじゃないか。たとえ仕事として請け負ったとしても、法外な金額を要求したりしないから安心してくれ」


 その言葉にまた、夕子の口元がほころんだ。

 ほんと、変わってないんだな。どんなことにも真摯に向き合う。だからこの人のこと、嫌いになれないのかもね。そう思った。


「実は人探しで行き詰まってて。自分だけではどうしようもなくて、助言してもらえたらと思って連絡したの」


「人探しか。分かった、いいよ。そういうのって、一般の人には難しいだろうからね。でも俺たちには、それを可能にする色んな伝手(つて)があるから」


「探偵さんとか?」


「勿論、興信所を使うこともあるよ。仕事柄、そっちの方にも顔が利くから」


「そうなんだ。なんだかほんと、弁護士って感じだね」


「おいおい、ちゃんとした弁護士だって。こう見えても俺、同期の中でも出世頭なんだぞ? この年で独立してるやつなんて、そうそういないんだからな」


 そう言って爽やかに笑う。自慢なのに嫌味がない、そう思い微笑み、依頼内容を話し出した。





 それから数日後、國澤から連絡が入った。


「山中ひとみさんの住所、分かったよ」


「え? こんなに早く?」


「ああ。別に失踪してた訳でもないし、結構簡単に分かったよ」


「探偵さんを使ったの?」


 夕子の脳裏に、いくらかかったんだろうと不安がよぎる。


「いやいや、それに頼るまでもなかったよ。俺一人で難なく見つけられた」


「ほんとに? 弁護士さんって、そんなに優秀なの?」


「これぐらい普通だって。役所に申請して辿っていくだけだったからな」


「でも、私ならこんな簡単に」


「まあそうだな。今の時代、個人情報とかの問題もあるし、一般の人には難しいと思う。でも仕事柄、役所の人たちとの付き合いもあるし、問題なかったよ」


「そうなんだ……國澤くん、ほんとにすごい人なんだね」


「いやいや、この程度で感心されても困るから。それでどうする? 先方にアポイントメント、取っておこうか?」


 そう言われ、夕子は躊躇した。

 ここから先は私の仕事。先方に連絡を取り、会って話をする。逃げる訳にはいかない。

 一人で行くのは怖い。でも、これ以上彼に頼る訳にはいかない。それに説明するのも怖かった。

 幽霊から依頼されたという、荒唐無稽な事実を。


「……なあ、朝霧」


 そんな夕子の思いを察し、國澤が口を開いた。


「朝霧が何を考えてるか、なんとなく分かるよ。これ以上頼りたくないってのも理解できる」


「そんなこと」


「いや、あんなことがあったんだ。本当なら二度と関わりたくない筈だ」


「……」


「あの時のこと、言い訳するつもりはないよ。理由はどうあれ、俺は朝霧を傷つけた。そしてその……謝罪もせず逃げたんだからな。

 だから正直、連絡してくれるなんて思ってもなかった。頼みごとがあるとしても、別の弁護士を頼ることだってできた訳だからな。それなのに俺に連絡してくれた。だから……

 朝霧。俺に手伝わせてくれないか?」


 その言葉に嘘はない、そう思った。

 そして。

 その誠実さに私は惹かれたんだと、過去の感情を嚙みしめた。


「……ありがとう、國澤くん。それから、その……お願い、聞いてくれるかな」


「ああ。なんでも言ってくれ」


「その山中ひとみさんに、なんだけど」


「朝霧。その人なんだけど、今は杉山ひとみさんになってるんだ」


「……」


 再婚、したのかな。一瞬、胸が締めつけられる思いがした。

 山中さんが幽霊になってもなお、想いを募らせている人。もしかしたら、旧姓に戻っただけなのかもしれない。でもそれでも、山中さんにとっては辛い事実だろう。

 このことは伏せておこう、そう思った。


「その杉山ひとみさんになんだけど、かつてのご主人、山中敏明さんからのメッセージをお伝えしたい、そう言ってほしいの」


「分かった、伝えるよ。朝霧の言い方だと、直接会うってことだよな」


「う、うん。そのつもり」


「いつなら都合がいい? 何日か候補を教えてもらえるかな」


 シフト表を見て、都合を伝える。


「……分かった。じゃあ一度連絡してみるよ。それから当日、俺も同伴するから」


「そんな、悪いよ」


「さっきも言っただろ、俺が手伝いたいんだ。それに今回の依頼、よく分からないけど朝霧の優しさを感じるんだ。だから付き合うよ」


「……ありがとう。じゃあ、お願います」


「ああ、任せとけ」


 電話を切り、夕子は小さく息を吐いた。

 事態が大きく動いた。そしてそれは、決して自分だけでは成し遂げられなかった。

 その上、この先も協力してもらうことになった。

 本当にこれでよかったのだろうか。

 そう思う気持ちと同時に、妙な安心感が全身を包んだ。


「國澤くん、か……ほんと、変わらないな……」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ