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幽霊さん。今日もお話聞かせてください  作者: 栗須帳(くりす・とばり)
第4章 真実を求めて

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035 優先すべきこと

 


 山中の依頼に、夕子は頭を悩ませた。


 見ず知らずの人に会い、亡き夫の言葉を伝える。それだけでも大変なことだった。

 以前高坂(こうさか)の家を訪れた時も、幽霊が見えることを隠す為、必死になって嘘を考えた。その嘘自体、妻に見破られてしまったのだが。

 だがそんな自分のことを、高坂の妻は色眼鏡で見なかった。それが嬉しくて、家に帰ってから一人で泣いた。

 しかし、高坂の妻のような例は珍しいだろう。ほとんどの人はそんな能力を持つ自分のことを、奇異の眼差しでしか見ない筈だ。

 それでも山中の未練を晴らす為、その怖さに立ち向かいたいと思った。しかし今回の依頼は、相手の居場所を探すところから始めなければいけないのだ。


 大変なことを頼まれてしまった。そう思い顔を強張らせたが、あの時の山中を思い出すと、簡単に断れるようなことではないと思った。

 何より自分も、山中の力になりたいと思った。異性と付き合った経験もないが、彼の純粋な想いは理解できたからだ。

 そう思い、とにかく行動することにした。まず山中と共に、5年前に彼女が住んでいた家を訪れた。

 当然そこには別の住人が住んでいる。夕子は震える手でマンションの管理人に電話し、何とか足取りをつかもうとした。

 しかし帰ってきた答えは、分からないというものだった。


「まあ、当然だよね……それにもし分かっていたとしても、簡単に個人情報を教える訳もないし……」


 そうつぶやき肩を落とした夕子の脳裏に、あの同級生、國澤の顔が浮かんだ。


「そうだ……國澤くんなら、もしかしたら」


 そう思い、財布に入れておいた名刺を取り出す。


『俺、今弁護士をやってるんだ。何か困ったことがあったら、いつでも連絡してくれ』


 彼の言葉を思い出す。

 弁護士なら、この状況に何らかの手が打てるかもしれない。それに彼、離婚問題を扱うことが多いと言っていた。となると、探偵と言われるような人との付き合いもあるかもしれない。

 ある意味、人探しのプロ。そんな人を紹介してもらえたら、この袋小路から抜け出せるかもしれない。そう思い、スマホを手にした。

 しかしすぐ、躊躇した。


 彼に頼るつもり?

 あんなことがあって、あんな辛い気持ちにさせた彼に頼みごと?


 私から連絡しない限り、これ以上彼と関わることはないだろう。

 それなのに私の方から連絡したら、関係を修復したいというアピールと解釈されるかもしれない。

 あの忌まわしき過去を許した、そう思われるかもしれない。

 自分は彼に対し、特に憤りの感情を持っていない。なぜだか分からないが、あの時の彼の顔を思い浮かべると、どうしても責める気持ちにならなかったからだ。

 だが、過去を清算するとなれば話は別だ。

 できれば関わりたくない。それがお互いの為なんだ。彼と再会してから、ずっと思ってきたことだ。

 しかし今、手にした名刺を見て。夕子は思った。

 だったらどうして、私は後生大事にこの名刺を持っていたの?

 弁護士だから? 過去のことを口実に、彼を利用しようと思ったから?

 違う、そうじゃない。そんなこと、考えたこともない。

 でも今、私はこの状況に陥り、彼のことを思い出した。

 他に弁護士の知り合いなんていない。探偵も知らない。

 もしかしたら今、こういう状況に陥ったこと。これに何か意味があるの?

 そんな迷いが脳裏を巡り、混乱した。

 だが、しばらくして。

 夕子は息を吐き、番号を押していた。


 色んな葛藤がある。しかし今、自分にとって優先すべきことは何なのか。

 それは山中の未練を晴らすこと。そう思ったからだった。

 その為なら自分の過去や後悔、苦悩を犠牲にできる。


 呼び出し音がなる。

 夕子はもう一度息を吐き、静かに目を閉じた。


「はい、國澤法律事務所です」


 女の声。夕子は震える声で尋ねた。


「すいません。そちらに弁護士の、國澤先生はいらっしゃるでしょうか」


「はい、おりますが……ご相談でしょうか。それならまず、私の方でお伺いいたしますが」


「朝霧からだとお伝えいただけませんか。そう言えば分かってくださると思いますので」


「朝霧様、ですね。かしこまりました。少々お待ちください」


 しばらく保留音がなった後、男の声がした。


「朝霧なのか?」


 國澤だった。声から動揺と混乱が感じられた。


「國澤くん、だよね。ごめんなさい、突然連絡して」


「いや、それはいいんだけど……何かあったのか?」


 小さく息を吐き、夕子が意を決した。


「國澤くん。今日電話したのはね、弁護士の國澤先生に相談したいことがあるからなの。話、聞いてもらえないかな」


 夕子の言葉に、國澤が一瞬言葉を詰まらせた。しかしすぐ、


「仕事の依頼、ということだな。分かった、聞くよ」


 凛とした口調でそう言った。




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