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幽霊さん。今日もお話聞かせてください  作者: 栗須帳(くりす・とばり)
第3章 生者の闇、死者の闇

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031 晴らせぬ未練

 


「シンプルって、どういう意味かな」


 夕子の問いに、奈緒がきまり悪そうに苦笑した。


「心配してくれる夕子さんには悪いんですけど、ほんとバカみたいな理由なんです。

 私がこの世界に戻ってきた理由。それは『死にたくない』『もっと生きていたい』ってことなんです」





 奈緒の言葉に、夕子が絶句した。

 死にたくない。もっと生きていたい。

 切実な願い、思い。

 死ぬつもりじゃなかった、軽い気持ちでやってしまった狂言自殺。

 しかしそれが本当になってしまい、彼女の人生は幕を閉じた。

 そんな彼女が望むこと。それはリセット。

 あれは嘘なんです。死にたくなんかなかったんです。

 そう思い訴えるのは当然のことだ、そう思った。


 でも。


 その強烈な後悔によって、彼女は袋小路に迷い込んでしまったのだ。

 確かに自分は、成仏の手助けができるのかもしれない。

 でも、彼女の願いは無理だ。

 なぜなら彼女が今、この世界に存在していること。それ自体が彼女の願いであり、思いなのだ。

 これ以上、何もできることはないのだ。

 そう思い、彼女が言った言葉が改めて思い出された。


『無理ですから』


 その言葉はどんな鋭利な刃物よりも鋭く、そして重いものだった。

 自分にはどうすることもできない。夕子の目の前が真っ暗になった。


 じゃあ彼女は。奈緒ちゃんは。

 これから一体どうなるの?

 いつまで今の姿のまま、存在し続けるの?


 そんな疑念に()りつかれた。


「そういう訳ですので夕子さん、私は大丈夫ですから。心配してくださって、ありがとうございます」


 そう言った笑顔が、痛々しく感じられた。


「じゃあ奈緒ちゃんは、これからどうなるの? いつ輪廻の世界に戻れるの?」


 聞いても無駄だと分かっていた。しかし言わずにはいられなかった。

 奈緒は苦笑し、首を振った。


「分からないです。自分のことなのに、ほんと何にも分からないんです。あははははっ」


 夕子はその笑顔を直視できなかった。





 休憩時間。

 いつものように休憩室には、品沢が座って待っていた。

 品沢は複雑な表情を浮かべ、思わず視線をそらして頭を掻いた。


「こんばんは、品沢さん。今日もお会いできて嬉しいです」


 その言葉に顔を上げる。


 昨日、あんなことがあった。

 彼女に紹介する幽霊たち。自分なりに吟味していたつもりだった。

 しかし昨日。彼女にとってある意味、最悪の事件が起こってしまった。

 今日は話したくないと拒絶されるかもしれない。そう覚悟していた。

 それなのに彼女はいつも通りの笑みを浮かべ、コーヒーを作り供えてくれた。


「……正直言うと、今日は休みたかったんです」


 夕子がそう言ってうつむき、自虐的に微笑んだ。


 品沢はその言葉をどう返すべきか迷い、困惑した。

 だが、この街の幽霊を束ねる(おさ)として。あの場を提供してくれた夕子に対し、きちんと謝意を伝え、その上で詫びなければいけない。

 それが自分にできる、彼女への誠意なんだ。

 だから結果がどうなろうとも、この思いを伝えなければいけない。そう思い、答えようとした。

 しかしその時、夕子の口から想定外の言葉が出てきた。


「でも……少し事情が変わりまして。品沢さんに聞いてもらいたいことができたんです。だからまずは私の話、聞いてもらえませんか」


 そう言ってポーチを手にし、喫煙所に向かった。


「あ、ああ……勿論いいさ」


 そう言って、品沢も続いた。





「……なるほどね」


 奈緒とのやり取りを聞き、品沢が静かにうなずいた。


「わしもこれまで、たくさんのやつらと出会ってきた。だが、その子のような未練は初めて聞いたよ」


「やっぱり……そうですよね」


「で、お嬢ちゃんは聞きたい訳だね。その奈緒ちゃんという子が、どうすれば成仏できるのかということを」


「はい」


「残念だけど、ないと思うよ」


「……」


「未練故に現世にとどまる、それがわしら幽霊だ。だが、未練なんてものは誰にだってあるもんだ。人が人生を終える時、未練のないやつなどいないと思うよ」


「じゃあ何故、品沢さんたちは」


「その未練が強烈だからだよ。それこそ、世の(ことわり)を捻じ曲げるぐらいにね」


「……」


 確かにそうだ。そう思った。


「そういう意味では、奈緒ちゃんは生き続けたいという強烈な思いを持ってしまったんだろう。そしてそれは叶えられた。だから……残念だが、彼女が成仏する手段はないと思う」


「じゃあ奈緒ちゃんはこれからずっと、あの姿のままで存在し続けるってことですか? 終わりはあるんですか?」


「終わりはあるよ。それは間違いない。ただ……それは彼女にとって、永劫とも思える長い時間になると思う」


 その言葉に夕子が反応した。


「ひょっとして品沢さん、何かご存知なんですか?」


「こう見えてもわしは、かなりの時間この姿で存在してる。他のやつらが知らないことも、それなりに理解してるつもりだ」


「品沢さん、教えてください。未練を晴らすことのできない奈緒ちゃんは、いつまで存在し続けるんですか」


 品沢は白い息を吐き、微笑んだ。


「幽霊にも寿命はある。未練を晴らすこともできず彷徨(さまよ)っているとはいえ、終わりはあるんだ」


「それはどれぐらいなんですか」


「ざっと120年ほどだよ」




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