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幽霊さん。今日もお話聞かせてください  作者: 栗須帳(くりす・とばり)
第3章 生者の闇、死者の闇

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021 天から地へ

 


 その日から、夕子と國澤は友達として付き合うようになった。

 放課後、いつも一緒に帰宅した。

 公園のベンチに並んで座り、その日あった出来事を語り合った。

 試験が近付くと図書館に通い、一緒に勉強した。

 そして気が付けば。

 いつの間にか自然に、どちらからとなく手を握り合っていた。


 家に帰ってからも、國澤のことを考える時間が多くなっていった。

 そしてそんな自分が気恥ずかしくて、枕を抱きしめた。

 そんな夕子に両親も、「最近よく笑うようになったな。学校で楽しいことでもあったのかい?」そう言って微笑んだ。

 國澤との日々は、夕子にとって正に夢のような時間だった。





 ある日。

 教室に入った夕子は、いつもと違う空気を感じた。


 皆の視線を感じる。

 嘲笑。

 憐憫。

 息が止まりそうになった。


 教壇の周りに、男子生徒が数人固まっている。

 國澤もいた。

 國澤は怒りに満ちた表情で、一人の男子の胸倉をつかんでいた。

 そしてそんな國澤を見て、他の男子たちが笑っている。

 夕子に気づくと男子の一人が唇を歪め、声を上げた。


「ほらほら、愛しの彼女さんのご登校だぞ」


 その言葉に、國澤が青ざめた表情で夕子を見る。


「え……なんの騒ぎなの、これ……」


 状況がつかめず混乱する夕子の目に、黒板に貼られた何枚もの写真が飛び込んできた。

 それは。

 公園で。図書館で。カフェで。

 國澤と二人、笑い合っている写真だった。

 そして。

 手をつないで歩いている写真だった。


「なんで……」


 全身の血が逆流していく。

 呼吸が乱れ、手が冷たくなっていった。

 そんな夕子の肩を抱き、女子の一人が声を荒げた。


「あんたら、なんでこんなことするのよ! 夕子になんの恨みがあるのよ!」


 女子の言葉に男子生徒は悪びれる様子もなく、青ざめた國澤の肩を抱いて笑った。


「恨みはない、けどな。と言うか、それはこいつに言ったらどうだ?」


 勝ち誇ったような、下品な笑みを夕子に向ける。


「なあ朝霧。お前、こいつに告られたんだよな」


「お前! ふざけんな、やめろ!」


 國澤が激昂し、再び胸倉をつかもうとする。しかし他の男子に遮られた。


「告白されて嬉しかったか? 舞い上がったか? 自分も捨てたもんじゃない、そう思って浮かれたか?」


「やめろおおおおおっ!」


「残念だったな、朝霧。こいつの告白はな、ただの罰ゲームなんだよ」





「……」


 膝が震えた。

 瞼が濡れる。


 夕子の脳裏に、楽しかった日々が蘇る。

 その全てが嘘だった。幻だった。

 そう思うと、立っていられなくなった。

 膝から崩れ落ちる。

 その夕子を、周りの女子が支えて抱き寄せた。


「あんたら……女子に相手にされないからって、なんでこんなことするのよ! それに、なんで夕子なのよ!」


「だからさ、文句は俺じゃなくこいつに言えって。なあ朝霧、お前もそう思うだろ? よくも私の純情を弄んだわね、そう言って一発殴ってやったらどうだ?」


 その言葉に、他の男子たちも嘲笑う。

 國澤はその場に跪き、肩を震わせた。


「……」


 現実を受け入れることができず。

 理解できず。

 夕子が國澤を見つめる。


 國澤くん、本当なの?

 楽しかった毎日。あれは幻だったの?

 あの笑顔は嘘だったの?

 私のことを知りたいって言ってくれた、あの言葉も嘘だったの?


 そんな夕子の視線に気づき、國澤が顔を上げる。

 そして。

 夕子と目が合った瞬間、目を閉じて一気に立ち上がり、教室から走り去っていった。

 男子たちが手を叩いて盛り上がる。

 そして夕子に、「ほらほら彼女さん、彼氏さんを追いかけなくていいんですか」そう言って笑った。

 そんな男子に女子たちが、怒りの形相でつかみかかっていく。

 辺りが騒然となった。





 教室が、罵声と怒声に支配される。

 そんな中。

 夕子の感情は急速に冷めていった。


 まあ……そうだよね。

 だって、私なんだもん。

 人並みの幸せなんて、来るはずがない。

 やっぱりそうだ。

 誰も信じちゃいけないんだ。

 何も求めてはいけなかったんだ。

 彼がそのことを、こういう形で教えてくれたんだ。

 これから先、これ以上の絶望に出会わない為に。

 だから……感謝しなくちゃ。

 ありがとう、國澤くん。

 でも……ははっ。

 なんだろう。少しだけ、心が痛いな。


 教室では相変わらず、男子と女子たちが騒いでいる。

 その喧騒の中。

 夕子が唇を歪め、肩を震わせた。


「ふっ……ふふっ……」


 その声に。

 皆が夕子に視線を注ぎ。

 動きを止めた。


「ふふふふっ……あははははっ」


 頬に涙が伝う。

 夕子は目を見開いたまま、声を上げて笑った。

 そんな夕子を見て。

 男子たちは息を飲み、後退(あとずさ)った。

 女子たちは夕子を案じ、抱きしめた。


 静まり返った教室に。

 夕子の笑い声が冷たく響いた。




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