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幽霊さん。今日もお話聞かせてください  作者: 栗須帳(くりす・とばり)
第3章 生者の闇、死者の闇

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020 初めての告白

 


 夕子が困惑し、足元を見つめる。

 そんな夕子に向かい、國澤が続けた。


「その……朝霧のこと、前からずっと気になってたんだ。朝霧って、人が嫌がる仕事とか、いつも進んで引き受けてるだろ? 掃除だって、頼まれたら代わってあげてるし。優しい人だなって思ってたんだ。そんな朝霧を見てたら、その……いつの間にか気になるようになってた。

 それに朝霧、すごく可愛いし」


 その言葉に、肩がビクリとする。

 自分のことをここまでストレートに肯定されたことなど、一度もなかった。

 夕子は正直、自分のことが嫌いだった。

 隠しごとを秘めている自分を、醜い存在のように思っていた。

 しかし國澤は、そんな自分のことを優しいと言ってくれた。可愛いと言ってくれた。

 混乱と同時に、羞恥で体が熱くなるのを感じた。


「だから、その……朝霧と付き合いたいって思って、今日声をかけたんだ。

 朝霧、君のことが好きです。俺と……付き合ってください!」


 そう言って頭を下げ、手を差し出す。

 その姿に、夕子はますます混乱した。

 今すぐこの場から逃げ出したい、そう思った。


 なんで? どうして私なの?

 もっといい子、いっぱいいるじゃない。

 嫌がる仕事を進んでやってる?

 それは余計なトラブルが面倒だから。断った時のリスクが怖いから。

 ただでさえ、自分には後ろめたいことがある。

 人に見えないものが見えているのだ。

 そのせいで過去、孤立しかけた。

 だから私は、トラブルを避ける生き方をしてきた。ただそれだけのことなの。

 私が望むのは穏やかな日常。それだけなの。

 だから……そんな私を見て、そういう感情を持つのは間違ってる。


 これは思春期特有の、一時の気の迷い。錯覚なんだ。

 私が断れば、すぐにその熱も冷める。

 そう思い。

 断ろうと思った。


「あ、あの……」


 意を決し、顔を上げる。そして気づいた。

 國澤の手が、どうしようもなく震えていることに。


「……」


 その手を見て。

 夕子の中に、別の感情が芽生えてきた。


 目の前の彼は今、例え錯覚とは言え、必死にその想いを伝えてくれた。

 理由はどうあれ、勇気をもって告白してくれた。

 それを気の迷い、勘違いなんだと断ち切ってもいいのだろうか。

 正直、恋愛というものに興味はない。彼のこともよく知らない。

 こんな私が彼と付き合っても、いい未来が訪れるとは思えない。


 でも。


 目の前で震えている國澤を見て、夕子は思った。

 もう一度だけ、信じてもいいんじゃないかと。

 彼は勇気を振り絞ってくれた。

 その想いに報いる為にも。

 私も一歩、踏み込んでもいいんじゃないかと。


 そして。


 その瞬間、肩の力が抜けていくような気がした。

 ああ、そうなんだ。

 本当は私も、望んでいたんだ。

 誰かを信じたいと。

 人と関わる生き方がしたいんだと。

 そう思い。

 夕子は微笑んだ。


「……國澤くん」


「は……はい」


「私、お付き合いってどういうことなのか、よく分かってないの。こういう風に告白されたのも初めてだし、正直かなり混乱してる」


「そう、だよな……朝霧、無意識に人と距離を取ってるところがあるし、そんな気はしてたよ」


 その言葉に、夕子の決意が定まった。

 彼は本当に私を見てる。

 私の本当を知ろうとしてる。

 そう思った。


「でも……ありがとう。私のこと、そういう風に見てくれて、とても嬉しい」


 夕子がそっと、國澤の手を握った。


「……」


 國澤が顔を上げる。今にも泣きだしそうな顔で。

 しかし、夕子はその顔を無様だと思わなかった。

 むしろ、全ての虚勢をかなぐり捨てて体当たりしてきた、男らしい顔だと思った。


「私は國澤くんのこと、よく知りません。國澤くんだって私のこと、まだまだ知らないと思う。だから……お友達から始めてくれませんか」


 友達。


 その言葉を発してすぐ、夕子の胸が熱くなった。


 これまでずっと、意図的に避けてきた言葉。

 自分は誰とも友達になれない、そう思っていたから。

 その言葉を今、目の前の男子に告げている。

 彼のことを何も知らない癖に、彼を信じようとしている。

 そう思える自分が嬉しかった。


「朝霧……」


 見ると、國澤も笑顔になっていた。


「その言葉、告白を断る常套句なんだけど、知ってた?」


「え? そうなの?」


「ははっ、やっぱり知らなかったか」


「ご、ごめんなさい。私、その……」


「分かってる。気にしないで」


 そう言って、握られた手に力を込める。


「朝霧にとって、友達って言葉が軽いものじゃないんだと分かってる。ある意味、相手に対する最大の敬意なんじゃないかな」


「國澤くん……」


「そんな朝霧から、友達になろうって言ってもらえた。嬉しいよ、ありがとう」


「私こそ……ありがとう」


「じゃあこれから、友達として。よろしくお願いします」


 そう言ってもう一度、國澤が笑顔を向けた。

 その笑顔に、夕子の胸が熱くなった。




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