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幽霊さん。今日もお話聞かせてください  作者: 栗須帳(くりす・とばり)
第3章 生者の闇、死者の闇

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019 望んでなかった再会

挿絵(By みてみん)

 


「はぁ……」


 喫煙所で夕子が、煙と一緒に深いため息を吐いた。


「おいおいお嬢ちゃん、随分でかいため息だね」


 そう言って品沢が笑う。


「あ……すいません、空気悪くしてますよね」


 品沢の言葉に、夕子が慌てて頭を下げる。


「いやいや、気にしてないから安心してくれ。と言うか、むしろ嬉しいよ」


「嬉しい、ですか?」


「ああそうだ。周囲を気にして、いつも本当の自分を隠している。そんなお嬢ちゃんがわしの前で、豪快にため息を吐く。嬉しいじゃないか。安心してる証拠だからね」


「いえその、それは……確かに品沢さんの前だと、普段感じてる緊張とかはないんですけど」


「いいことじゃないか。お嬢ちゃんもそうして、少しは素の自分を出していくべきだ。そうでないと疲れてしまうからね。

 それで? 何かトラブルでもあったのかな」


「……」


 夕子が自問する。

 確かに私は、品沢さんに対して警戒心を持っていない。品沢さんは私を尊重し、いつも見守ってくれている。

 でも、これまで他人と距離を取って生きてきた私にとって、相談するということはかなり高いハードルだ。

 それにこれは、気楽にできる話題じゃない。


 でも。


 品沢さんの言う通り、時には心の膿を吐き出したい。

 特に今回の件は、一人で解決するには荷が重い。

 品沢さん。

 いつも自分を見守り、支えてくれる人。

 この人になら話してもいいんじゃないか、そう思った。


「では……あまり楽しい話じゃないんですけど、聞いてもらえますか?」


「構わんよ。それでこそ、他のやつらをねじ伏せて一人で来たかいがあると言うもんだ。

 わしは無力な幽霊だ。恐らく何の力にもなれないだろう。だがそれでも、話すことで楽になることもある筈だ」


「ありがとうございます、品沢さん。実は……」


 そう言って煙草をもみ消し、夕子は話し出した。





「朝霧?」


「え……」


 今日、施設に向かっている時。背後から声をかけられた。

 今の自分に声をかけてくる人なんて、幽霊しかいない。

 地元を離れて数年。この街に知り合いなど、いるはずがなかった。

 夕子が恐る恐る振り返る。


「……」


 そこには自分と同世代の、スーツ姿の男が立っていた。

 少し雰囲気が変わっているが、間違いない。

 でも、どうして彼がこんなところに。

 そしてどうして、声をかけてきたの?

 様々な思いが脳裏を巡り、軽くパニックになった。そして。

 気が付けば、彼の名を口にしていた。


「國澤くん……」


 夕子の言葉に、國澤と呼ばれた男は微笑んだ。


「やっぱり朝霧だった。久しぶり」


 その笑顔に困惑し、うつむく。


「そ、そうだね……」


 國澤博幸(くにざわ・ひろゆき)。高校時代の同級生だった。





「なんだ、地元から離れたこんな場所で、同級生と再会したのか。よかったじゃないか」


 品沢が嬉しそうに微笑む。

 しかし、夕子の表情は冴えなかった。


「……それともそいつと、何か嫌な過去でもあるのかな」


 そう言われ、夕子が諦めの表情でうなずいた。


「品沢さんだって知ってるじゃないですか。今まで私が、どんな人付き合いをしてきたか」


「わしらが見えることを誰にも話せない。だから人と距離を取ってきた」


「そうです。だからその……あの頃の知り合いとは、あまり会いたくないんです」


「だが、表面的にはうまく付き合っていたんだろ? お嬢ちゃんほどの器量だ、好意を持ってる友人もいたと思うが」


「確かに余計なトラブルを起こさないよう、誰に対しても普通に接してたと思います。おかげで今でも、たまに連絡してくれる人はいます。でも……あの人とは、できれば会いたくなかったんです」


「どうしてだい? と言うか、それは聞いてもいいのかな」


「はい。過去のことですし、今更どうこう思ってもいませんから。ただ、品沢さんが不快にならないか心配で」


「わしのことなら気にしなくていいさ。と言うかお嬢ちゃん、こんな時までわしのことを気にかけてくれるんだね。ありがとう」


「いえ、そんな……じゃあ品沢さん、聞いてもらえますか」


「ああ、頼むよ」


 そう言って、品沢が新しい煙草に火をつけた。





「朝霧。ずっとお前のことが気になってたんだ。俺と付き合ってくれないか」


 数年前。

 ある放課後。

 校舎裏というベタな場所に呼び出された夕子は、國澤の言葉に固まった。


「……」


 何も言葉が出てこない。ただ頭の中で、國澤の言葉がこだましていた。


 ……これって何?

 ひょっとして私、男子に告白された?

 そこにたどり着き、混乱した。


 國澤博幸。特に目立たないポジションの、普通の男子生徒。

 どちらかと言えば、影の薄い存在。

 そんな彼から今、突然告白された。

 何かの間違いでしょ、そう思った。

 それに國澤とはこれまで、接点らしい接点もなかった。

 ありえない。どういうこと?

 そう思い。


 狼狽(ろうばい)した。




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