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幽霊さん。今日もお話聞かせてください  作者: 栗須帳(くりす・とばり)
第2章 死者と紡ぐ日常

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013 優しい嘘

 


 高坂(こうさか)の息子、卓也の20歳の誕生日。

 その日は日曜で、偶然にも夕子も休日だった。


「すいません夕子さん。せっかくの休日、こんなことに付き合わせてしまって」


 恐縮する高坂に、夕子が微笑む。


「大丈夫ですよ。それからその……状況によっては、高坂さんの存在を無視するような態度をとってしまうと思います。本当にごめんなさい」


「いえいえそんな、気になさらないでください。他の人に私は見えませんし、下手に反応すれば夕子さんが変な目で見られます。当然のことです」


 高坂の言葉にもう一度微笑み、夕子は表情を引き締めた。





 高坂の家。

 そこは、職場から10分ほどのところにある、小さな一軒家だった。


「……」


 玄関前で、小さく息を吐く。

 口の中が乾き、肩が震えた。


「それで、その……息子さん、卓也さんは今日、家にいらっしゃるのですね」


「はい、確認しましたので大丈夫です。出かける予定もないみたいでして」


「若い男の子が誕生日、家でお母さんと一緒に過ごす。いい息子さんですね」


「ははっ、お恥ずかしい。まあ夜に少し、彼女と会うみたいですが」


「お付き合いされてる方、いらっしゃるんですね」


「ええ。どこでつかまえてきたんだって思うぐらい、いい方です」


「ふふっ。高坂さん、お父さんの顔になってますよ」


 そんな話をしている内に気持ちが軽くなった夕子が、インターホンを押した。


「はーい、どちら様で?」


 玄関が開き、女が顔を出す。

 高坂の妻、夏織(かおり)だった。





「わざわざお越しいただいて、ありがとうございます」


 リビングに通された夕子は、テーブルで夏織、卓也と向かい合わせに座った。


「主人のお知り合い、ということなんですね」


「は、はい。正確にはご主人様と、うちの父が友人だったんです」


 と、この一週間で考えたストーリーを口にした。


「私の父とご主人様は、行きつけの飲み屋で知り合ったんだそうです。映画が好きという共通の趣味がきっかけで、懇意にさせていただいていたということです」


「そうなんですね。主人も映画、好きでしたから。私もよく連れて行ってもらってました」


 そう言って微笑む夏織。その表情からも、いい人ということが感じられた。

 隣の卓也も、穏やかな笑みを浮かべている。高坂の言う通り、素直で誠実な好青年に見えた。


「それでその、主人の遺言とはどういうことなんでしょう。主人が亡くなって7年も経った今、友人であるお父様ではなく、朝霧さんが訪ねて来られた。しかも卓也の誕生日に」


 様々な疑問を宿す視線に、夕子の背中に冷や汗が流れる。しかし勇気を振り絞り、話を続けた。


「実はその、私の父もすでに他界してまして」


「そうなんですね……これは失礼しました」


「私は父から、よく高坂さんのお話を伺ってました。誠実な人柄や、映画に対する考察にいつも感心させられていたこととか」


 映画の考察、というワードに夏織が微笑む。


「確かに主人、きっと作り手もそこまで考えていないと思うような深いところまで、色々考えるのが好きでしたね」


 夏織の言葉に、少し部屋の空気が和む。卓也も苦笑していた。


「それでですね、その……父が生前、高坂さんと約束していたことがあったそうなんです」


 その言葉に、夏織の口元が少し引き締まる。


「約束、ですか」


「は、はい。高坂さん、亡くなる前から、少し体調に違和感を感じられていたそうです。それでよく冗談交じりで、父に頼みごとをしていたようなんです。

 万一自分に何かあった時には、どうしても果たしてほしいことがあるんだと。そしてその約束の日が今日、卓也さんの20歳の誕生日なんです」


 卓也の表情に緊張が走る。


「ですので今日、本当ならここに来るのは父の筈でした。ですが父も亡くなってしまって……病床で父から、この約束をお前に託したいと言われたんです。そして私は今日、父との約束を果たす為ここに来たんです」


 小さく息を吐き、卓也を見つめる。


「卓也さん。あなたのお父さんはあなたの為に、あなたが生まれた日から少しずつ、貯金をしていました」


「え……」


「あなたが社会に巣立つ時に、少しでも安心できるように支えたい。そう思って貯めていたお金です」


 夕子の言葉に、卓也が目を見開いた。

 夏織は目を伏せ、寂しげな笑みを浮かべた。


「あの人がしそうなことですね……本当、子煩悩でしたから」


 そう言って、卓也の手をそっと握った。




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