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Time:Eater  作者: タングステン
第四話 『Sn』
96/223

第30部

【2023年09月21日17時12分18秒】


 ・・・・・俺と湖晴は11年前の『過去』から、この『現在』へと帰って来た。


 そうだ。俺は珠洲の過去改変をやり終えたのだ。俺は『過去』の珠洲を事故から回避させ、『過去』の蒲生と栄長との間に生まれていた誤解や勘違いを解消させる事にも成功した。


 過去改変が成功したと言う事は、珠洲はもう俺の妹ではない。本来通り、蒲生黒矛の妹の蒲生珠洲になっているはずだ。そして、それと同時に、皆の事を襲撃した上垣外珠洲は消滅したのだ。


 俺はもう何も悔いたりはしない。俺はもう過去なんて振り返らない。いや、この世界ではそもそも、珠洲は俺の妹ではないはずなのでその様な過去さえ存在しないのだがな。


 さて、話を戻そう。俺と湖晴が時空転移した場所に戻って来た所からだっただろうか。


 雨は止んでいた。雲1つ無い快晴だった。それはまるで今の俺の心情、つまり、珠洲の事を忘れようとしている俺の心を表しているかの様だった。


 家に帰る途中、傘が1つ落ちていた。時空転移前に湖晴が落として行った物だとは思うが、過去改変が完了したはずなのに、何故まだ残っているのかは分からない。おそらく、この世界を管理する神的な何者かが、今の俺への慰めに残したのかもしれない。


 湖晴がその傘を拾い、日傘代わりにはなっていないが差している時、俺はこれからについてを考える為に湖晴に話し掛けた。


「湖晴」

「はい?」


 快晴の下雨傘を差していると言う、ややシュールな光景の一部となっている湖晴は後ろにいる俺の方を向いて聞き返した。


「これからどうしようか」

「そうですね。珠洲さんが次元さんの妹ではないこの世界が、過去改変前とどの位違うのかを調べる必要はありますね」

「あー、いや。そっちじゃなくて」


 確かに過去改変前と過去改変後の世界の変化を調査する必要はあるのだが、俺が言いたいのはそっちではない。もっと、家庭的な家事的な問題だ。


「俺は今まで家事をほとんどした事がない。そして、湖晴も皿洗いくらいしか出来ないだろ?」

「はい」

「金については両親から送られて来るから問題無いとして、家事とかをどうしようかって事だ」

「まあ、何とかなるのでは?」

「・・・・・取り合えず、家に帰ったら役割分担を決める会議な」


 やけに楽観的に考える湖晴と、少し不安な俺。今まで(過去改変前)は家事の99%を珠洲が行っていた。湖晴が居候をし始めた事により、98%くらいにはなったかもしれないが、それでもやはり俺と湖晴は家事が得意ではない人種なのだ。


 そんな2人が暮らしていると、生活面でかなり不備が生じる可能性がある。と言うか、問題だらけだろうな。食事は外食かコンビニ弁当となり、洗濯物や家中の掃除の仕方など全く知らないので、ゴミ屋敷になるかもしれない。


 やはり珠洲の存在は大きかった、と俺は思うのであった。だが、そんな風に俺が珠洲に何でも全部無意識に押し付けてしまったからこんな結末になったのだ。こうなる事が分かっていれば、もっと早くから珠洲の手伝いをしておくべきだったな。


 ・・・・・ん?ちょっと、待て。よく考えてみれば、もしかして俺は『湖晴と2人だけで同じ家に住む』事になるのでは?


 今まで(過去改変前)は珠洲がいた為、言う程意識はしていなかったが、俺は照沼湖晴と言う白衣の美少女と1つ屋根の下で一緒に暮らしているのだ。


 これって、喜んで良い事なのか?それとも、不味い状況だと考えるべきなのか?・・・・・常識的に考えて普通に不味いよな。年頃の男子高校生と女子高校生(年齢的な意味で)が2人きりで住むと言うのは。・・・・・後で音穏に相談してみるか。何か良い案を出してくれるかもしれない。


 すると、前方から何やら見覚えのある顔と聞き覚えのある声が聞こえて来た。


「よォ。こんな所で何してんだァ?・・・・・って、あー。そう言う事かァ」


 そこに立っていた人物は白髪で語尾がおかしな男の蒲生だった。珠洲の実の兄であり、この過去改変後の世界では、ずっと珠洲の兄貴であったはずの人物だ。


「何だよ。蒲生こそ何してるんだ?」

「何ってェ?いやいや、お前が呼んだから来てやったんじゃねぇかァ。記憶喪失かァ?」

「俺が?何時?」

「えっとなァ・・・・・昨日の晩だったけかァ?『1回皆で集まりたいから、今週の土曜日以外で来れる日を教えてくれ』って、電話掛けて来たじゃねぇかァ」

「・・・・・は?」


 何だ?この世界の俺は蒲生を家に呼んだのか?と言うか、俺は蒲生の電話番号を知らないのだが。いや、もしかすると、栄長に聞いたのかもしれない。しかし、そこまでして何の用だったんだろうか。


「それで、俺は基本的に何時でも暇だから今日来てやったんだァ。それで、今さっきまで知り合い数人で集まってたんじゃねぇかァ。そしたら、急にオマエ等が何処かに行っちまったんじゃねぇかァ」

「そうなのか」

「でもまぁ、俺が心配する様な事でもなかったかァ。いや、悪い悪い。お2人さんの間を邪魔をするつもりは無かったんだぜェ?」

「「お2人さんの間?」」


 蒲生の台詞の直後、俺とその隣に立っていた湖晴は顔を見合わせた。


「「・・・・・・・」」


 数秒間互いに見つめ合っていると、次第に湖晴の顔がほんのりと赤く染まって行き、目を逸らされてしまった。その湖晴の様子を見ていた俺も徐々に、何かに対して恥ずかしくなって行き、蒲生の持つ誤解を解く事にした。


「・・・・・はぁぁぁぁぁ!?ちょっと待て!俺と湖晴は別にそんな関係じゃ・・・」

「ハハハハハ!まさか、真に受けるとは思わなかったぜェ」

「何だ・・・・・からかっただけか・・・・・」

「それじゃあなァ。俺はもう帰らねぇと不味いからなァ」

「あ、ああ。・・・・・・そうだ、知り合いって誰が来ていたんだ?栄長達か?」

「あァ?やっぱりオマエ記憶が飛んでるんじゃねぇかァ?まぁ、良いけどなァ」


 俺は別に蒲生の事を呼んだ記憶は無いが、せっかく来たのならもう少しゆっくりして行けば良いものを。やはり、蒲生は他人との付き合いが苦手なのだろうか。それともただ単純に1人が好きなのか。流石に家の門限がこんなに早い訳じゃないよな。受験があるとは言え、高校3年生だろ。


「オレと、オマエ等2人と、リンとオマエの幼馴染の何とかさんと・・・・・」

「音穏もいたのか」

「あとは、『珠洲』だなァ」

「珠洲!?何で珠洲の事を蒲生が知っている!?」

「ハ?知っているも何も、珠洲はオレの妹だぜェ?忘れる訳ねェだろォ?」

「い、いや、それはそうか・・・・・」


 蒲生は珠洲の実の兄だ。この過去改変後の世界では蒲生は珠洲と離れ離れになる事なく、ずっと一緒に暮らして来たはず。つまり、俺は珠洲と知り合う訳がないのだ。それに『蒲生の妹として』俺の家に来たのなら、今ここに蒲生と一緒に珠洲がいない事がそもそも不自然だ。


「だが、ちょっと待て!だとしたら、何で珠洲と一緒に帰らないんだ?珠洲は蒲生の妹だろ?」

「何熱くなってんだァ?確かに珠洲はオレの妹だが、別にオレと一緒に住んではいないぜェ?と言うか、オマエと一緒に住んでるじゃねぇかァ」

「はあああああ!!!???」

「な、何だァ!?」

「え!?それってどう言う事だ!?説明しろ!」

「どうしちまったんだァ?オマエ」


 俺は蒲生に1つ1つ問い掛けると同時に、嫌な考えが脳裏を過ぎった。


 ・・・・・まさか、『過去改変は成功していない』?珠洲が俺の妹になっていると言う事はつまりそう言う事ではないのか?


 珠洲が俺の妹になっているのなら、その思いに気付く事が無かった俺にその思いを伝える為に、珠洲は皆を襲撃するはず。だが、今の蒲生の話を聞いているとそんな事は感じ取れなかった。珠洲と音穏と栄長が一緒にいて、何も起きないはずが無い。


「珠洲はオレの実の妹だが、今はオマエの家に引き取って貰ってんじゃねぇかァ」

「何時だ!?それは何時の事だ!?」

「8年くらい前だったかなァ」


 8年前だと・・・・・?過去改変前では、珠洲が事故に遭って記憶喪失になって入院したのが11年前のはず。そして、その時の担当医師であった俺の両親に珠洲は引き取られるのだが・・・・・そもそもその事故が発生していないのに、何で珠洲が俺の妹になっているんだ?


 今蒲生が言った事を元に考えると、8年前に珠洲は再び事故に遭い、過去改変前と同じ末路を辿ったと言う事なのか?それで、3年間のずれがあるから珠洲が俺に過度な執着心を抱く事も無かった・・・・・?


 いや、それだと蒲生が珠洲の事を覚えている訳がない。この世界の俺が何かを説明したのかもしれないが、だとしてもどうやってだ?どうやってこの世界の俺はその事を蒲生に話したんだ?


 俺は蒲生に何度も大声を張り上げて、この信じられない状況についての説明を求めた。


「何で俺の家に珠洲を引き取らせた!?何があったんだ!」

「オレは詳しい事はよく知らねぇが、取り合えず分かる事は1つだけだァ。8年と少しくらい前に珠洲が謎の病気に掛かってなぁ、入院したんだァ」

「珠洲が病気に・・・・・?」

「その時の担当の医師がオマエの親父さんとお袋さんで、今も療養と言う意味合いでオマエの家に住まわせて貰っているんじゃねぇかァ。まぁ、オマエの両親は今は海外に出張してるみたいだから大して意味は無さそうだがなァ」

「そう・・・だったのか・・・・・」

「何だ?まさか、初耳だったなんて事はねぇよなァ?」


 珠洲が病気に掛かったなんて事、初めて聞いたぞ?俺が過去改変をしたから、珠洲は事故を回避した。しかし、それによってこの世界の何かがずれ、珠洲が病気に掛かった?


 つまり、何がどう転んだとしても、結局『珠洲は俺の義妹になるのではないのか』?過去改変が成功しようと失敗しようと、そんな事は全く関係無く。バタフライエフェクトなのかは分からないが、この世界はそうなる様に出来ているのかもしれない。


「オ、オイ!何処行くんだァ!?」

「湖晴!急いで家に戻るぞ!」

「え?あ、はい!」


 俺は1つの希望を自身の胸に込めて、湖晴と共に全力疾走で家へと帰った。そんな俺の様子を心配する蒲生の声など気にも留めず。


 数10秒後、俺は家に着いた。俺は鍵をされていない玄関の扉を勢い良く開け、乱雑に靴を脱ぎ捨て、そのまま1階リビングに入り、大声で俺の大事な、大切な義理の妹の名前を呼んだ。


「珠洲!」

「あ、お帰りー。お兄ちゃん」

「もー、次元ってば、何処に行ってたの?さっき、蒲生君帰っちゃったよー?」

「そうよ、次元君。クロはどうでも良いけど、せっかく皆で集まったんだから一緒にいないと」

「音穏、栄長・・・・・」


 リビングには珠洲と音穏と栄長が1つのテーブルを囲んで座っていた。テーブルの上には様々な種類のお菓子やジュースが並んでいた。見た所、お菓子を食べながら適当に話していただけだと思われる。


 すると、この光景に色んな意味で唖然としていた俺に、珠洲が心配そうに話しかけて来た。


「お兄ちゃん?」


 珠洲は俺の事を『お兄ちゃん』と呼んでいる。つまり、珠洲は俺の義妹である事には間違いないだろう。だが、過去改変前と少しだけ発音が違う気がする。やはり、過去改変前とは何かが違うのだろう。


 俺はこの謎の状況を整理する為に、まずは音穏に話し掛ける事にした。


「えっと、まず音穏だ。何で蒲生の事を知ってる?」

「え?いや、今日知り合ったばかりだけど。次元が皆で集まるって言うから。それで、話を聞いてみると燐ちゃんの幼馴染さんらしいから問題無いかなーって」


 音穏が蒲生と話している所は想像も付かないが、そう言う事らしい。と言うか、この世界の俺は、よく音穏とあんな語尾のおかしな二次オタを同じ部屋に入れようなんて考えたよな。もしかすると、この世界の俺は黙っていても、栄長が音穏を誘っただけなのかもしれないが。


「そ、そうか。次は栄長と珠洲だ。2人は仲が悪かったんじゃなかったか?」

「私達が?」

「10何年か前はそうだったかもしれないけど、今は別に仲は悪くないよ?お兄ちゃん」

「・・・・・そうか・・・・・」

「お兄ちゃん!?大丈夫!?」


 取り合えず、過去改変は成功していた。そして、過去改変の影響で珠洲は俺の義妹ではなくなるはずだった。だが、実際にはそうなってはいない。珠洲は俺の義妹のままで、誰の事も襲撃したりしなかった。


 信じられないが、これ程までに嬉しい事がこれまでにあっただろうか。そこまで考えた俺は安堵の溜め息と共に全身から力が抜け、そのまま壁にもたれたまま床に座り込んでしまった。


 音穏と栄長は何が起きたのかをよく認識していないみたいで頭の上に『?』が浮いていたが、珠洲はそんな俺を心配してくれたらしく、壁にもたれたまま力無く座り込んだ俺に声を掛けてくれた。


「珠洲・・・・・」

「お、お兄ちゃん!?え、えっと、こんな皆の前で・・・・・」


 俺は珠洲の事を優しく抱き締めた。この嬉し過ぎる状況を確かめる為に。


 そして、俺は珠洲に聞いた。


「珠洲。珠洲は俺の事、好きか?」

「へ?・・・・・って、えええええ!?突然何を聞いて来るの!?お兄ちゃんどうかしたの!?」

「どうなんだ?」

「え、えーっと・・・・・好きだよ?あ!勿論兄妹としてね!でも、それ以上でもそれ以下でもないからね!」

「それなら・・・良かった・・・・・」


 そうか。この過去改変後の世界の珠洲は俺に『好き』と言う気持ちを伝えなかったのか。それで、その気持ちを心の奥底に封印しておく事で、皆を襲う気持ちを無意識ながら押さえ込んでいた、と。


 それはそれで、何だか寂しいが。こう言う結末も良いものだな。案外、この世界は優しく出来ているのかしれない。誰も怪我をする事無く、誰も仲間外れになる事が無い世界。こんなに素晴らしい事は他には無いだろう。


 そして、俺は珠洲を抱き締めながら思った。


 『案外、この世界も捨てた物じゃないな』って。


『Time:Eater』 第4話 完

 『Time:Eater』第4話を最後まで読んで頂いてありがとうございます。作者のタングステンです。

 第4話全30部をご覧頂きありがとうございました、そして、お疲れ様です。やけに長かったでしょう?

 今回は本編で次元達が時空転移をした所で、丁度作者の現実で少し厄介な問題が発生致しまして1週間投稿を中止させて頂きました。ご迷惑をお掛け致しましたと同時に、ご心配をお掛け致しまして大変申し訳ありませんでした。

 それでは、今回の話について少しだけになりますが解説させて頂こうと思います。

 実は第1話の時からそれぞれの話にあるテーマを設けて、作者はストーリーを構成していました。今回の第4話のテーマは3つとなります。『兄妹』『嫉妬』『自己嫌悪』ですね。この3つのテーマが、何となくでも構いませんので読者の方々に伝わっていれば幸いです。

 あと、伏線に関してですが、話が進むにつれて分かりにくい仕様になってしまっています。実はどの部にも少しずつ伏線が潜んでいるのですが、さらっと呼んでいる限りでは全く気付けない、と言った感じですね。

 その辺を含めて、『Time:Eater』と言うSFっぽくないSF小説の最後の最後の結末を推測しつつご覧頂ければ、少し楽しみ方が変わるのではと思います。

 さて、今回は途中に予期せぬ投稿中止が発生し、1週間も休ませて頂きました。なので、本来休むはずだった第5話に入る直前の1週間の休憩を取っ払う事にします。何時になったら、本来の計画通りに1週間を休む事が出来るのやら・・・・・。

 次は毎回恒例の設定まとめとなっておりますが、なんと、まとめる事がありません!登場人物なら1人増えましたが、今回のストーリーには大きな影響を及ぼしませんでしたし、次元達が『過去』で一時避難の為に使用したマンションの説明なんていらないでしょう?

 なので、今回限りとなると思いますが、新コーナーを設立致しました。内容はまた明日のお楽しみですが、超茶番ですので、苦手な方はご覧にならない事をお勧め致します。

 それでは、かなり長くなりましたがこの辺で第4話後書きを終わらせて頂こうと思います。

 あと、時折活動報告も書いていますので、時間に余裕のある方はご覧になってみて下さい。

 では、これから後半戦に入る『Time:Eater』をよろしくお願いします!


 次回は忘れられていると思われがちの、阿燕や『SFADV』等が久々に登場する・・・・・はずです!

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