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Time:Eater  作者: タングステン
第四話 『Sn』
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第29部

【2012年06月15日16時05分48秒】


 取り合えず、湖晴の調子は少し良くなったらしいので、俺と湖晴とロリ珠洲は『過去』の蒲生と『過去』の栄長を探す為に、一時的に避難させて貰っていたマンション1階ホールを後にした。


 『過去』の2人を探す目的とは、ロリ珠洲を『過去』の2人と合流させ、仲直りをさせる事。それによって、今回の珠洲の過去改変は終了となる。また、それと同時に『現在』では、珠洲は俺の義妹では無くなる事だろう。


 『過去』の蒲生と『過去』の栄長を探す為に、湖晴が所持するタイム・イーターの時空間座標特定機能を使用すれば少しは時間短縮に繋がるのだが、ロリ珠洲が自分の家(つまりは蒲生家)に連れて行ってくれると言うので使用しない事になった。


 ちなみに、先程湖晴が持病のせいで吐血していた件だが、流石にその非現実的な光景をロリ珠洲に見せる訳にもいかないので、ロリ珠洲を起こす前に処理しておいた。


 具体的には、俺が初めて湖晴に会った時の様にタイム・イーターの機能を使用して、別の時間の自分達の服を借りたのだ。別の時間の俺には申し訳ないが、新しい服を頂いておいた。


 よくよく思い出してみれば、高校に入って丁度くらいに1回、私服が1着行方不明になった気がする。もしかすれば、その時の原因はこれだったのかもしれない。


 ちなみに、湖晴は相変わらず白衣である。良い加減、湖晴の私服姿も見てみたいものだが、『現在』の次の土曜日まで待つ事にする。『現在』の次の土曜日には、音穏達が湖晴の服選びを手伝ってくれると言うのだ。


 一応、俺が2人に借りていた弁当箱を返せなかった事に対しての謝罪の気持ちで行く事になったのだが、少し楽しみだったりもした。


 あと、マンション1階部分に盛大に正面から突っ込んでいた乗用車だが、そのまま放置する他なかった。念の為、運転席を確認したが、やはり誰も乗ってはいなかった。


 それはさておき、今俺達がいるここは『過去』である。俺達はロリ珠洲の指示通りに道を進んで行った。念の為、車道に出ない様に周囲に気を付けながら。


 そして、蒲生家に着く途中で俺達はようやく『過去』の蒲生と『過去』の栄長(以下、ロリ栄長)を見付ける事に成功した。やはり2人共、ここでは年齢が年齢なので背が低くて幼い。


 ロリ栄長は『現在』とはやや髪型が違っていた(多分髪の長さの違いからの問題だろう)が、それでもやはり、あの高貴で可憐な容姿の面影がある。俺は別にロリコンなどではないが、それでも1つだけはっきりと言わしてもらおう。『是非とも抱き枕にしたい』。


 『過去』の蒲生は・・・・・最初見た時は『本当に同一人物か!?』と自分の目を疑ったものだ。それくらいに、『現在』の蒲生と『過去』の蒲生はその風貌が変わっていた。いやはや、年月とはこんなにも人を変えてしまうとはな。


 蒲生もこのまま純粋に育てば、『現在』の蒲生みたいな変な語尾の人間にはならず、2次オタにもならなかっただろうに。何か決定的な台詞をこの『過去』の蒲生に言う事が出来れば、そんな未来から避けさせる事も出来るだろうが、今回の過去改変の目的は珠洲の過去改変だけだ。それ以外の行動は極力自重すべきなのだ。


 さて、俺の心の声及び思考ばかりだと一向に話は進まないので、話を進めたいと思う。道中で『過去』の2人を見付けた俺はロリ珠洲に声を掛けた。ロリ珠洲を『過去』の2人と仲直りをさせる為に。


「あの2人が君のおにいちゃんと例の赤毛さんなんだろ?」

「う、うん」

「ほら、仲直りするんじゃなかったのか?」

「したいけど・・・・・」


 やはり、何をすれば良いのかが分かっていても、それが今までに自分が出来なかった事ならば、それを実行するのには少し躊躇いが生まれてしまう。それは俺の様な高校生でも同じ事だ。だが、今はそんな事を言っていられる場面ではない。俺が代行を務めるとしよう。


「話し掛け難いか?」

「・・・・・うん」

「じゃあ、俺に任せておけ。話して来てやるから」

「あ、ありがとう・・・・・」


 俺の台詞を聞いたロリ珠洲は小声で返事をし、軽く頷いた。


 ここは車道に面していないし、車が入れる様な広いスペースは無いので、建物の中から突然車が飛び出して来たりしなければ、珠洲が車に撥ねられると言う事態は無いだろう。なので、ゆっくりと話に集中する事が出来る。


 俺は湖晴とロリ珠洲を後方10数メートルに立たせたまま、道中を歩き続ける『過去』の2人に後ろから話し掛けた。


「ちょっと良いかな、そこのお2人さん」

「ん?何だ、お前」


 俺が声を掛けると、『過去』の蒲生とその隣にいる『過去』の栄長が振り向いた。蒲生は『現在』とは比べ物にならないくらいの穢れを知らない純粋無垢な瞳を持っており、声もかなり高かった。うーん、どうしてあんな風になっちゃったんだろうか。


「蒲生黒矛君だよね?ほら、俺の後ろにいる珠洲ちゃんのお兄さんの」

「何で名前知ってる!?と言うか、珠洲!?珠洲に何かあったのか!?」

「いや、何も無かったよ」


 嘘です。暴走車に追い駆けられました。俺が植え込みに投げました。


「君はあの子のおにいちゃんなんだろ?」

「そうだ」

「だったら、何で珠洲ちゃんから目を離した?」

「え?」


 俺は『過去』の蒲生に説教口調で、今回の件について聞き出し、問い掛ける。別に蒲生が悪い訳ではないのは知っている。だが、ここでその事についてしっかりと説明解説しておかなければ、珠洲は再び同じ目に会う。そうなってしまえば、結局結末は変わらない。過去改変は成功しないのだ。


 だからこそ俺は説教をした。珠洲の為に、『過去』の蒲生に。


「何で珠洲ちゃんの気持ちに気付けなかった?君が珠洲ちゃんに冷たい態度をする事で、珠洲ちゃんがどう思うかなんて分かり切っていた事だろ?」

「それは・・・」

「それともう1つ。今日、俺と俺の後ろのあの綺麗なお姉さんがここに来なかったら、珠洲ちゃんは車に撥ねられていたんだぞ?知らなかったとは思うが」

「珠洲が・・・・・?いや、でも、交通事故なんて・・・」


 信じられないのは分かる。俺が『過去』の蒲生の立場なら絶対に信じられないだろう。だが、俺はその事故の事を知っている。だから・・・・・、


「今のお前には信じられない事かもしれないけどなぁ!珠洲はその事故でお前と一緒にいた記憶を全部忘れちまうんだ!それでも良いのか!?」

「!?・・・・・い、いや、良くない・・・・・」


 俺は怒鳴った。これは蒲生に対する怒りでも、珠洲を撥ねた車の運転手に対する怒りでも、自分に対する怒りでも何でもない。俺はただ、この世界に怒っていたのだ。


 俺は珠洲が自分の妹の間の約10年間楽しかった。何があっても、何が起きようと楽しかった。それなのに、その10年間を無かった事にするこんな結末を用意したこの世界に怒っていたのだ。


 だから、この場面で俺が『過去』の蒲生に怒鳴ったのは完全に筋違いであり、八つ当たりなのだ。


 突然俺が大声を出したからか、『過去』の蒲生が少し驚いた。それを見た俺は少しだけ感情を静め、なるべく冷静に1つ1つの台詞を言って行った。


「・・・・・だったらさ、もう少しだけで良いから珠洲に構ってやってくれよ。それだけで、珠洲は救われるんだ。余計な事をしなくて済むし、無駄な争い事に巻き込まれなくて済むんだ。俺が何を言いたいか分かってくれたか?」

「あ、ああ・・・・・じゃなくて・・・・・はい」

「分かってくれれば良い。これからも妹を大切にな。お前のたった1人の実の妹の珠洲を、な」


 『過去』の蒲生に俺の言いたい事は伝わっただろうか。もしかすると、まだ幼い『過去』の蒲生には俺が何を言っているのが理解出来ていないかもしれない。本当は全然真面目に話を聞いていないかもしれない。


 だが、今はそれで良い。今は俺の台詞を記憶の片隅に置いてくれているだけで良い。珠洲の事をこれからもずっと大切にして、ある時にふと俺の台詞を思い出してくれれば、俺はそれで満足だ。


 そして、俺は蒲生の代わりに約10年間、珠洲の兄貴をして来た思いを託す為、最後に一言付け足した。


「今のお前以外の人の思いも背負っていると言う事を忘れるなよ」


 俺と、過去改変前の蒲生の思いを込めて。


「俺以外?」

「・・・・・いや、何でもない」


 『過去』の蒲生が聞き返して来たが、流石にこれ以上未来の事を話すと不味いかもしれないので何も答えないでおいた。


 そして次だ。俺は『過去』の蒲生から視線を右横に移し、隣でやや俺の事を警戒しつつ立っている『過去』の栄長に話し掛けた。


「そこの赤毛ちゃん」

「な、何ですか・・・・・?あと『赤毛ちゃん』って呼ばないで下さい」

「ああ、悪い悪い。・・・・・えっと、これからは珠洲と仲良くしてやってくれるか?」

「私は別に仲良くしたくない訳じゃないけど、珠洲ちゃんが何か突っかかって来るから・・・・・」

「その事はもう大丈夫だ。珠洲にはもう言ってある」

「そうですか・・・・・」


 一言だけ言っておけば、まあ、大丈夫だろう。湖晴曰く、俺が過去改変に関わるとその影響が正確に、しかも最小限に反映されるらしいからな。こんな些細な一言でも充分に過去改変をする力はあるのだろう。


 俺が背後10数メートルにいるはずの『過去』の珠洲達を呼ぼうと後ろを振り返った時、『過去』の栄長が俺に質問して来た。


「そう言えば、貴方は一体?」

「俺か?俺は・・・・・」


 やはり、昔から栄長はそう言う方面で勘が良い。俺が答え難い事を的確に聞いて来る。だが、10歳以上も離れている今なら、一言返答するだけで充分だ。


「今は言わないでおくよ。その内また会えるから、その時は珠洲だけじゃなくて、俺達の事もよろしくな」

「えっと・・・・・はい」


 俺は目の前にいる『過去』の2人を見て一瞬微笑むと、後ろを振り向き、『過去』の珠洲を呼んだ。すると、『過去』の珠洲が俺の方に走って来た。


「珠洲ちゃん。取り合えず、2人には君の事を言っておいたから、あとは自分で何とかするんだぞ?赤毛ちゃんにごめんなさいって言ったり、おにいちゃんに自分の気持ちを伝えるんだぞ?」

「は、はい」

「俺は何も出来てはいないよ。ただ、本来あるべき方向に世界を少しだけ傾けさせただけさ」

「世界・・・・・?」

「あまり深くは考えなくて良いよ。さあ、おにいちゃんと赤毛ちゃんの所にお行き」

「うん!ありがとう!」

「ああ。またな」


 そして、『過去』の珠洲は『過去』の2人の元へと走って行った。仲直りは出来ただろうか、勘違いは解けただろうか、本当の気持ちは伝えられただろうか。俺はその真相を確かめる事はしなかった。いや、今の俺の心境ではそんな事は出来なかった。


 すると、3人の話している姿を見ていた俺に、湖晴が声を掛けて来た。


「次元さん」

「・・・・・湖晴か。これで過去改変は出来たんだろ?」

「珠洲さんを事故から回避させた時点で充分だったのですが、本当にこれで良かったのですか?」

「何がだ?」

「いえ、このまま私達が『現在』に戻りますと、そこにはもう珠洲さんはいないんですよ?」

「その事なら、前にも言ったはずだ。俺は別に何も後悔はしていない。これが本来、この世界であるべき姿なんだよ」

「次元さんが構わないなら、私は良いのですが・・・・・」


 そうだ。俺は過去改変をすると決めた時に、もうその決心は固まっていたのだ。珠洲が俺の家族ではなくなったとしても、それは本来あるべきこの世界のあり方ではない。本来は珠洲は蒲生の妹なのだ。俺が珠洲と10年以上も一緒に暮らしていたとしても、そんな事は関係無いのだ。


 関係なんて・・・・・無いんだ・・・・・。いや・・・・・、


「・・・・・訳ないだろ・・・・・」

「次元さん?」

「構わない訳・・・無いだろ・・・・・」


 本当は嫌だった。本当は珠洲には俺の妹でいて欲しかった。家事だとか、朝起こしてくれるだとか、そう言う事は一切関係無い。俺はただ、1人の妹として珠洲の事が大好きだっただけなのだ。


「義理とは言え、過去改変をする為だとは言え、家族を1人失ったんだぞ?・・・・・構わない訳ないだろ・・・・・」

「次元さん・・・・・」

「蒲生が珠洲と離れ離れになった時の悲しみが今ようやく分かった気がする。俺は珠洲と10年以上も一緒の家に住んで来たんだ。時には、そりゃあ悲しい事も辛い事も沢山あった」


 何回も包丁や拳銃を向けられた事もあった。いきなり風呂に入って来たり、朝起きたら布団に潜り込んでいた事もあった。喧嘩した事もあった。助け合った事もあった。


「だけどな、それでも俺は楽しかったんだ。珠洲と言う、何でも出来て、こんな駄目駄目な兄貴の為に尽くしてくれた妹がいて嬉しかったんだ。それが・・・・・」


 その全てが俺の大切な記憶であり、珠洲との思い出だ。この世界がそれを否定しようとも、珠洲本人がその全てを忘れようとも、ここに存在する俺が覚えている。


「それが俺の些細なミスで・・・・・俺がもっと早く珠洲の気持ちに気付いていれば、珠洲は皆を襲撃する事も無かったんだ。そうすれば、俺達が過去改変をする必要もなかった」


 俺は絶対に忘れない。珠洲と一緒に過ごして作って来た約10年の思い出を。


「こんな結末って、ありなのかよ・・・・・」

「・・・・・次元さん。今ならまだ引き返す事も可能だと思いますが、その決断を次元さんに聞くのは酷ですよね?」

「・・・・・ああ。俺は決めたんだ。『現在』で蒲生が俺に言った様に、俺は珠洲に幸せになって欲しい。俺が珠洲の兄貴だった世界以上に、幸せな世界になって欲しい・・・・・」


 その時、俺の目から何かの液体が零れ落ちたのが分かった。次々とその液体は俺の目から零れ落ちる。また、それは一向に止まる気配を見せない。・・・・・その液体は涙だった。俺の涙だった。


 そんな俺を見た湖晴が心配そうに声を掛けて来てくれる。


「次元さん、泣かないで下さい。私まで悲しくなってしまいます・・・・・」

「・・・・・悪い。本当は、絶対に泣かない様にしようと思ってたが、やっぱり無理だったよ。ははは」

「次元さん・・・・・。それでは、戻りましょうか。『現在』へ」

「ああ・・・・・」


 長かった俺達の過去改変は終わった。この過去改変の始まりが何時だったのかは断言出来ないが、ともかく、後は『現在』に戻って過去改変の影響を確かめなければならない。それが過去改変をするタイムトラベラーの責任なのだ。


 今だに両目から涙が溢れ続ける俺とそれを心配する湖晴はタイム・イーターの時空転移機能で11年前の『過去』から『現在』へと帰る。もう後戻りは出来ない。


 時空転移前の最後に一言。


 『・・・・・珠洲。俺みたいな駄目兄貴を今までずっと好きでいてくれてありがとう』


 直後、辺り一面に眩い閃光が走り、俺と湖晴は時空転移をした。

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