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Time:Eater  作者: タングステン
第四話 『Sn』
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第28部

【2012年06月15日15時59分31秒】


 ・・・・・俺は・・・・・死んだのか・・・・・?


 俺はロリ珠洲を助ける為にあの暴走車の前に飛び出した。咄嗟の行動だったので後先を全く考えていなかったが、やはり結果はこうなってしまった。


 おそらく、俺はあの暴走車に轢かれた。それは間違いないだろう。あんなに至近距離で急にブレーキを掛けても普通の乗用車が止まれる訳が無いし、生憎だが横に飛んで逃げる様な身体能力を俺は持ち合わせてはいない。


 つまり、俺は死んだのだ。嘘偽り無く、死んだのだ。


 ロリ珠洲は大丈夫だろうか。クッション代わりにマンションの周辺にあった植え込みに適当に放り投げたから、打撲や打ち身はしてないとは思うが、擦り傷くらいはしてしまったかもしれない。まあ、珠洲を助ける事が出来たのなら、俺はそれで充分だ。


 湖晴は・・・・・まあ、少しは心配してくれるだろう。俺が死んだ事をある程度は悲しんでくれるだろう。


 もしかしたら、俺が死んだ事が自分の責任であると感じてしまうかもしれない。そんな湖晴に一言だけ『湖晴のせいじゃない』と言ってやりたいが、それも叶わぬ夢だ。もうどうしようもない。


 だが、たとえそれが叶わぬ夢だとしても、1つだけどうしても湖晴に伝えておきたかった言葉があった。湖晴からどの様な返事が返って来ても絶対にその事を悔やんだりしない。だから、それだけは伝えておきたかった。


 俺の脳内で様々な人物、場所、事柄が走馬灯の様にぐるぐると回っていた。吐き気を催してしまいそうなその情報量でスピードに俺は驚きを隠せなかった。いや、隠す相手なんてもういないけどな。


 だが、やはりアレだけは湖晴に伝えておくべきだった。その事だけが、この平凡を具現化したかの様な存在である上垣外次元の約17年間の人生の内でただ1つの後悔だった。


「湖晴・・・・・」


 ・・・・・・・ん?


「あれ?」


 俺は自分の声が自分の耳に届くのを感じた。声が、出ている?これは一体・・・・・?


 あるはずもない状況に俺は困惑しつつも、自分の体に感覚がある事に気が付いた。そして、俺は静かに目を開けて、ゆっくりと体を起こした。自分の脳裏に過ぎった、その微かな希望に期待しながら。


「死んで・・・ない・・・・・?」


 俺は自分の体の至る所を両手で触って行き、それらが全て実体であると言う事を確認した。てっきり、死んだから幽体離脱でもしたのかと思っていたが、そう言う訳ではないらしい。俺の体はこの現実世界にしっかりと固定され、実体としてそこに存在していた。


 もしかして、運良く当たり所が良くて、致命傷にはならなかったとかそう言う事か?つまり、俺が自分が死んだと思っていたのは、本当はただの思い込みだったのだろうか?


 アスファルトの地面の上に座り込んでいた俺は立ち上がり、一先ず辺りを見渡した。


「これは・・・・・」


 斜め左横を少しだけ振り向いてみるとそこには、さっきの暴走車がマンション1階部分に思いっ切り突っ込んでいると言う、かなりシュールな光景があった。植木はグシャグシャになり、塀は完全に崩壊していた。マンション1階の住人は今はいないのか、人が出て来る気配も無い。その惨状を見に来る野次馬の気配も無かった。


 この現場から推測して、俺が勝手に結論を出してしまうと『俺は車に轢かれなかった』と言う事になる。何がどうなって俺が助かったのかは不明だが、取り合えず、生き残れて良かった。


 だが、それと同時に俺には1つ引っ掛かる事もあった。それは『音』と『衝撃』だ。


 俺は確かに、俺の体に車がぶつかった『音』を聞いた。補足として、あれが単なる幻聴だったらり耳鳴りだったりとか言う可能性を考え始めると日が暮れても議論は終わらないので、その様な起こる確率の低い可能性は予め考慮しない物とする。


 しかし、そう考えるとやはりこれはかなり不可解だ。俺は車にぶつかったはず。それは、俺のこの体が覚えている。だが現実はそうではない。俺の体は至って健康であり、骨折だったり打撲だったりをしている様な痛みも傷跡も全く無い。


 俺の感じた事と現実が少しだけずれている。これは一体、どう言う事なんだ・・・・・?


「まあ、良いか!さて、まずはロリ珠洲を回収ーっと」


 あれこれ考えていても仕方が無い。よく分からない時は、諦める。何事も諦めが肝心なのだ。答えの出ない問題無かった事にして、次の問題に移る。それこそが体力の無駄遣いをせず、効率的な生き方なのだ。


 俺はマンションの周辺にある植え込みに頭から突っ込んでいる(俺が適当に投げたせい)ロリ珠洲の足を引っ張り、引きずり出した。案の定と言うか何と言うか、ロリ珠洲は気絶していた。突然乗用車に追い掛けられて、全力疾走をして、その上いきなり植え込みに投げられてしまったのだから、疲労困憊精神不安定になり、気絶したとしても仕方が無い。


「次は・・・・・」


 ロリ珠洲を両手で抱き抱えながら、俺は湖晴がいるはずのマンションのホール部分に入って行った。そう言えばこのマンションって、入るのに暗証番号とかいらないんだな。セキュリティが整備されていないと言うのは、大丈夫なのだろうか。色々と。


 でもまあ、この『過去』は俺が普段住んでいる『現在』とは11年も離れているからな。あまりセキュリティをガチガチにしなくても、大きな犯罪は起きないのだろう。昔はそんなに平和だったとは、忘れていたな。いや、セキュリティ意識が低いだけなのかもしれないが。


「湖晴ー。いるかー?」


 俺はマンションホール内に響き渡るくらいの声量で湖晴の名を呼んだ。大して時間は経っていないと思うので、流石にここからは移動してはいないと思うのだが、湖晴の姿が見えない。


 このマンションのホール部分は単純な円形の大部屋ではなく、螺旋状の様な構造の通路に近い物だ。勿論道幅は大きいが一方通行なので入れ違いになる事はないとは思う。もしかして、さっきの暴走車がマンション1階部分に突っ込んだ時に、その衝撃を感知して取り合えず外に出たのかもしれない。


 そんな事を考えた俺は、一旦最深部まで歩いたら引き返そうと考えた。


 しかし、その後数メートルを歩いた時、俺はその光景を目撃してしまった。それと同時に俺は全身から嫌な汗がぶわっと吹き出て来ているのが良く分かった。背筋が凍り付いてしまったかの様な寒気もあった。顔が次第に青ざめて行くのも、改めて実感した。


「湖晴!?おい!だ、大丈夫か!?」


 俺が見たその光景。それは、湖晴が血の海の上で通路に横たわっている姿だった。しかも、かなりの量の血を口から吐き出していた。


 焦った俺は、腕で抱えていたロリ珠洲を壁にもたれる事が出来る様に座らせ、湖晴の元へと急いだ。


「湖晴!」

「じ・・・げん・・・・・さ、ゴホッゴホッ!」


 湖晴は意識はあるみたいだった。しかし、俺に声を掛け返そうとした際に、再び大量の血が湖晴の口から吐き出された。俺も湖晴もその血で全身が真っ赤に染まって行った。


「どうしたんだよ、一体!まさか、誰かに何かされたのか!?」

「・・・・・いえ、これは私の持病の様な物なんです・・・・・ゴホゴホッ」

「持病・・・・・?そう言えば、前に・・・・・」


 そうだった。俺はすっかり忘れていた。俺が何故湖晴の手伝いをしているのかを。湖晴は原因不明の病気にかかっているのだ。治療法も確立されていないと言う、病気に。


 初めて湖晴が俺の家に来た時に湖晴がその事を俺に言ったから、俺は湖晴の居候を珠洲に無理を言って認めて貰い、過去改変を手伝っているんじゃないか。何で俺は今までにそんな重要な事を忘れていたんだ。


「俺はどうすれば良いんだ!?薬か何かは無いのか!?」

「・・・えっと、鎮静剤なら先程、規定量飲みましたから・・・・・もう大丈夫だと思います・・・・・」

「だが、吐血の量が・・・」

「確かにいつもよりは少し多いですが・・・・・それでも、大体はこんな感じで・・・・・ゴホッ!」

「もう良いって!少し横になって休め!」

「ありがとう・・・・・ございます・・・・・次元さん」


 俺は着ていた制服の上着を脱ぎ、それをマンションホールの地面の上で横になった湖晴の上に布団の様に掛けた。少し湖晴が吐いた血が付いてしまっていたが、拭く物が無かったので我慢してもらう事にする。


 10数秒後、湖晴が俺に話し掛けて来た。


「そう言えば『過去』の珠洲さんは・・・・・?」

「ロリ珠洲ならそこで寝てるよ。俺が投げた時のショックとかで気を失ったみたいだからな」

「投げた・・・・・?まあ、深入りはしない様にしておきましょう。それで・・・・・私達を追跡していた車は?」

「何か、マンション1階のベランダに突っ込んでた」


 マンション1階の住人の方には申し訳ないが、そのベランダは木っ端微塵となっていた。それはもう、言葉通りの解釈でどうぞ。


「・・・・・それは、一体どうなったらそんな事になるんですか」

「さあな。俺もびっくりだったよ」

「いきなり車が出たから・・・・・ですか?」

「それもある。だが、俺はてっきり自分が車に轢かれたものだと思ったんだ」

「次元さんが・・・・・?」

「ああ。でもまあ、ギリギリの所で車がスリップしたみたいで助かったのさ」


 よく分からない走馬灯の様な物もあったしな。あれはあれで良い経験が出来たと思うが、金輪際2度と起こっては欲しくない出来事だな。死に掛けるなんて事は人生で1回経験すれば充分過ぎる。


「それで、その車の運転手は・・・・・」

「あ、見忘れてた。だが、多分誰も乗ってなかったと思う。いたらすぐに分かるからな」


 ロリ珠洲を植え込みから引き抜くのと、湖晴を探すのに一生懸命で、大事な事をすっかり忘れていた。だが、あの車の先端部分はマンションの壁に激突したせいで大きく破損していたので、中に人がいたのなら一溜まりもなかっただろう。


 すると、横になっている湖晴が俺に何かを問い掛けて来る。


「でも、それだと色々とおかしいですよね」

「何がだ?」

「本当にあの車は『偶発的に暴走した』だけなのでしょうか」

「流石にそれは無いだろ。飲酒運転でもあんな乱暴で、逆に正確な運転は出来はしないだろ」

「だとすると、あの車は珠洲さんを殺そうとしていたと言う事になりますよね」

「本来、珠洲があの車に撥ねられるはずだったのならそうなるな」


 俺達がこの『過去』に来なかった過去改変前の世界では、珠洲は一体何処でどんな風に車に撥ねられたんだ。もしかして、俺と湖晴がこの『過去』に来たから、本来は暴走しないはずの車が暴走しながら珠洲を追尾したと言う事なのだろうか。・・・・・うーん。分からん。


 そして、湖晴は話を続ける。


「でも、あの車の運転手は次元さんが見た時にはいなかった。そして、珠洲さんも気絶しているとは言え一応無事。何かが変ではありませんか?」

「・・・・確かにそうだな。いや、でも・・・・・どう言う事だ?」

「私にも正確な事は何も分かりません。ですが、私達が知らない何かが大きく関わっていると言う事だけは分かります」


 この『過去』の珠洲はまだ4歳。誰かから恨みを買う様な事はしてはいないと思う。だが、だとすると、一体誰がそんな珠洲を殺そうとするんだ?


 もしかして、蒲生が所属している科学結社絡みの何かだろうか。確か、珠洲の本当の両親、つまりは蒲生の両親はその科学結社に所属していたはず。しかも、その運営はかなり困難な状況だったらしい。


 つまり、その科学結社に何らかの恨みを持つ何者かが、その科学結社に所属する蒲生の両親の娘である珠洲を殺そうとした、もしくは、人質に取ろうとした・・・・・?こじ付けの様だが、おそらく俺のこの推理は大方合っている。しかし、その真相を確かめる術は俺には無いがな。


 だが、珠洲をひたすら追尾していたあの暴走乗用車は?運転席に誰かが座っていたのなら、運転手は必ず命に関わる大怪我をしていた事だろう。たとえエアバッグが機能しても、防ぐ事の出来る衝撃の量は決まっている。そして、あの惨状を見る限り、その衝撃量は完全にエアバッグの許容量を越えていた。


 しかし、科学結社絡みの犯行がそんなに乱雑な物である訳が無い。・・・・・つまり、あくまで推測だが『元々車には誰も乗っていなかった』?科学結社の犯行だとすれば、可能性としては充分に考えられる。後で念の為に、運転席を調べておく必要がありそうだな。


 ・・・・・さて、湖晴が俺の制服を両手で持って被っている姿が可愛いのでこのまま放置しておいても良いのだが、話を進める事にしよう。


「だが、今は無事に珠洲を助ける事が出来た。あとは蒲生達に会いに行けば良いんだろ?」

「そうですね。それでは、行きましょうか」

「え?体調はもう大丈夫なのか?」

「はい。すっかり良くなりました」


 流石湖晴。治りが早い。辺り一面は血の海だがな。


「それでもアレだよな。湖晴のその持病も早く直す方法を見付けないとな」

「ありがとうございます。でも、私は大丈夫です」

「そうか?まあ、湖晴が元気なら、俺はそれで満足だ」


 取り合えず、ようやく本来の目的に没頭する事が出来そうだ。これで、珠洲を狙う何者かの気が済んだのならな。

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