第27部
【2012年06月15日15時53分02秒】
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
沈黙。
「・・・・・あのさぁ」
「何でしょうか。次元さん」
某市公園内。俺と湖晴は2人で並んで立ちながら、そんな独り言とも取れる会話をした。
『過去』の珠洲(ロリ珠洲)達を探す為に全く人通りの無い街路から歩き始めた俺と湖晴。湖晴が『現在』で蒲生の怪我の治療をしている最中に、蒲生から珠洲と11年前に、つまりは今俺達がいる『過去』で分かれた大まかな場所を聞いていてくれたので大して時間は掛からないと思っていた俺だったが、現実は俺の予想の裏の裏の裏を返して来た。
「あの走ってくる子って、珠洲だよな?」
「髪の色は違いますが、おそらくそうでしょう」
俺と湖晴は数10メートル程度先の方から走って来る女の子を見ていた。その女の子は白髪のサイドポニーテールをしており、身長や身体付きは一般的な幼稚園生くらいだった。
いや、そんな無駄な解説は不要だろう。俺達の方に走って来るあの女の子は珠洲だ。上垣外珠洲ではなく、蒲生珠洲だ。
だがしかし、相変わらず展開が早い。こんなにサクサクと事が進むと逆に不安になってしまう。そんな事を考えた俺は俺のすぐ隣に立つ湖晴に話し掛けた。
「なあ、湖晴。こんなにあっさり見つかって良いものなのか?」
「良いんじゃないですか?簡単に済むならそれはそれで」
いや、早く終わるのなら別に良いけどな。
「それを言ったら、その通りなのだが。でも、何か引っ掛かるんだよな」
「何がですか?」
「いや。1番最初の音穏の過去改変の時から少しだけ勘付いてはいたんだが、過去改変って本来はあまり上手く行かない物なんだろ?」
「はい。そうですね」
「だが、俺が湖晴を手伝い始めてからはそんなに難しい事は無かった様に思えるのだが」
「確かに、今まで私が1人で過去改変をして来た時に比べれば簡単ですが、それでも常人では出来ない事を次元さんは出来ているんですよ」
「そうなのか」
以前に湖晴が言っていた、今までに湖晴が1人でして来た過去改変は必ずしも成功した訳ではないと言う、アレの事か。タイム・イーターの成功・失敗の判定は確か、過去改変対象者がどうなろうが全く関係無く、この世界に悪影響が及ばなければ良いと言うだけの事。
しかし、やはり人である湖晴からしたら、せっかく過去改変をしたのだからその過去改変対象者が救われて欲しいと思う訳だ。だが、俺が過去改変に参加し始めてからは、その過去改変者である皆が救われている。誰も過去改変前よりも悲惨な道を歩む事無く、その辛い過去が清算されて普通に生活出来る様になっている。
今までに湖晴が1人で過去改変をして来た時には、こんな事は1回も無かったらしい。それはそれで、逆に凄い事だと思うが、ここではあえて口にはしない事にする。
「それに、これは初めて言いますが、次元さんが過去改変に関わっていると、その過去改変の影響が完璧に簡潔に正確に反映されるんですよ」
「ん?前にもそんな事言ってなかったか?」
「そうでしたっけ?」
デジャブか?いや、そんな湖晴の台詞が前にもあっただろ。絶対に。
「ほら、この間の日曜日の昼ご飯を食べ終わった時に言ってただろ?」
「あー、あの時は少し気分が悪かったので、私自身も次元さんに何を言ったかを覚えていないんですよ。ほとんど無意識に会話してた感じでしたから」
「まあ、確かに言動がかなりネガティブになってたしな」
その時に俺はタイム・イーターや過去改変について色々と知る事が出来た。だが、それはタイム・イーターや過去改変の全てではない事は分かる。実際に、あれから新事実も次々と判明しているしな。そもそも、真実を全て知るなんて事は不可能に近いのだ。
その時、俺達の方に向かって走って来ていたロリ珠洲が何かに躓いて勢い良く倒れた。
「あ、こけた」
うーん。助けに行くべきか、見守るべきか。怪我はして無さそうだが、何処か打ったかもしれないしなー。念の為、行っておくか。
俺がロリ珠洲の方に歩いて行こうとした時に、湖晴が俺に話し掛けて来た。それと同時に俺の足も止まった。
「珠洲さんがここに来るまでにまだ時間がありそうなので、今更な質問を1つしても良いですか?」
「?構わないが。何だ?」
「珠洲さんって、この『過去』に来る前の『現在』では黒髪でしたよね?」
「ああ」
ちなみに、俺も黒髪だ。勿論、地毛だ。
「でも、今走って来ている過去の珠洲さんは白髪ですよね?髪型はサイドポニーテールで同じですが」
「俺の勝手な推測だが、蒲生家の人間は白髪なんだろ。それで、珠洲は元々蒲生の妹だから本当は白髪なんじゃないか?俺が珠洲が義妹だって言う事を知る前までは単純に色素が薄いだけだと思っていたけどな」
「そう言う事だったんですか」
だから、珠洲は『現在』では数ヶ月に1回は髪を染めに行っていた。それも、全部自分の金で払っていたと言うのだから驚きだ。白髪でも充分に似合ってたのに。
「そう言えば、珠洲が小学2年くらいだったかな。その頃に突然、珠洲が髪を染めるとか言い始めてな。おそらく、自分の髪の色が俺とか両親とかと違う事が嫌だったんだとは思うが」
「なるほど。そんな隠しエピソードがあったんですね」
もはや隠すつもりはなかったが、隠し過ぎたエピソードではある。しかしまあ、そう言う事だ。最初に珠洲が髪を染めると言って来た事も、今になってみれば良い思い出だったのかもしれない。他にも色んな事があったな・・・・・。
「まあな。でも、この過去改変が終われば珠洲は俺の妹ではなくなる。寂しくなるが、それが俺の為であり、珠洲の為だ。それに、珠洲に湖晴を含めた皆を襲撃させる訳にもいかないしな」
「・・・・・・・」
「お、やっと珠洲が来たぞ」
「え?あ、はい」
何かに躓いてこけていたロリ珠洲だったが、今ではもう体制を立て直して再び俺達の方に向かって走って来ている。ロリ珠洲本人は別に、俺と湖晴の方に向かって走っている訳ではないのだとは思うが、たまたまその行き先のルート上に俺達がいただけなのだ。
そして俺は、俺の真横を通過し掛けたロリ珠洲の服の襟元を持って、ロリ珠洲の動きを無理矢理制止した。それと同時に、ロリ珠洲は手を適当に振るいながら足をバタバタさせて俺に必死に抵抗して来た。
やはり、珠洲とは言えどもここでは幼稚園生。高校生の俺からしたらそのか弱い力は無いも同然だった。
「よっと。珠洲確保っと」
「何だお前!離せー!」
「やっぱりまだ幼稚園生だからな。走るのが遅い遅い。力も弱い弱い」
「・・・・・流石に襟首を持つのはどうかと」
「ん?それもそうか」
湖晴がそれはまるで犯罪者を見るかの様な目付きで俺を見つつ、そんな台詞を言って来たので、俺は仕方なくロリ珠洲から手を離した。そして、目線をロリ珠洲と同じくらいの高さにする為に少し腰を折って、俺はロリ珠洲に話し掛けた。
ロリ珠洲は敵意を剥き出しにしながら、俺の事を睨み付けていたが、大して怖くなかった。むしろ可愛かった。俺は別にロリコンではないが、やけに『現在』の珠洲の面影があったからな。
「さて」
「だ、誰だ!お前は!」
どうやって本題に移るべきか・・・・・。
「俺は将来的にお前の兄貴になるはずだった奴だよ」
「ワタシの兄貴・・・・・?嘘付くな!ワタシのおにいちゃんはおにいちゃんだけだ!」
「・・・・・昔からブラコンだったのか」
「ブラ・・・・・何?」
「いやいや、何でもないよ。さあ、お兄さん達と少し歩かないかい?」
「嫌だ」
「即答かい」
流石に幼稚園生とは言え『知らない人に話し掛けられても付いて行っては駄目』と言う教育は受けているのだろう。と言うか、教わっていなくても俺なら知らない場所になんて行きたくない。
「君は君のおにいちゃんと喧嘩をしてここまで来たんだろ?」
「・・・・・!?何でそれを!?」
「ふふふ。俺は何でも知ってるのさ」
「!?」
「おにいちゃんと仲直りはしなくて良いのかい?」
「・・・・・うぅぅぅ。したいけど・・・・・」
「けど?」
「おにいちゃんにはもうカノジョがいる」
「彼女?」
「赤毛」
「あー、栄長か・・・・・」
「赤毛なんて死ねば良いんだ!あんなの!ワタシだけのおにいちゃんを横取りして!」
そう言えば、時空転移前に『現在』で蒲生がそんな事を言っていた様な、言っていなかった様な。やはり、栄長が関係していたのか。
と言うか、ちょっと待て。あの2人って、彼氏彼女の仲だったのか?一応、俺がした過去改変の影響は少なからずあるとは言え、それでも2人の仲がそうなるとは・・・・・いや、俺がした過去改変のせいではないだろう。栄長の過去改変2回をする前から、2人はそう言う仲だったのだ。多分。
おそらくこれで、俺は珠洲の過去の真相の全てを知る事が出来た。そして俺はその年齢差を生かして、珠洲に話し掛ける。
「だけどさ、君はそれで良いのかい?」
「え・・・・・?」
「本当に死ねば良いって思っているのかい?」
「・・・・・思ってる」
「本当に?本当は皆と仲良くしたいんじゃないのかい?」
「・・・・・・・」
俺が出した結論はこうだ。珠洲はブラコンでこの場合は蒲生の事が大好きだ。しかも、他の人とも仲良くしたいと思っている。だが、その蒲生は珠洲ではなく近くにいる栄長の方によく構っている。それで、珠洲と栄長は喧嘩みたいな事をしてしまった。
これが珠洲が他の女の子を好きにならない根本的な理由だろう。栄長にも悪気があった訳ではないだろう。だが、今回の場合はこの事が原因で珠洲は自分の兄の事しか見えなくなってしまった。それがたとえ義理の兄だとしても。
つまり、ここで俺が『過去』の珠洲、栄長、蒲生に仲直りをさせる事で珠洲の事故を回避すると同時に、珠洲の女嫌いや過度なブラコンを解消させる。そうすれば、皆が幸せになるだろう。珠洲が俺の妹にならないと言う事には変わりないがな。
ここまで考えた俺は続けてロリ珠洲に話し掛ける。
「君はおにいちゃんの事が大好きで、他の人とも出来る事ならば仲良くしたいって思っているんじゃないかい?」
「ワタシは・・・・・」
「話せばきっと分かってくれるよ。何なら、俺とこの綺麗なお姉さんも協力してやるよ」
ボンッ
何かが軽く爆発した様な音が聞こえた気がした。爆弾とかそう言う類とは別の、そうだな・・・・・例えるなら、阿燕の過去改変前に廊下で阿燕と話していた時に聞こえたあの音と同じ様な音だな。多分。
「ん?何の音だ?まあ、良いか」
そう言えば、湖晴の台詞が全く無いが・・・・・今はそんな事を気にしている場合ではない。
「それで、どうだ?君のおにいちゃんとその赤毛さんと仲直りしてみないか?」
「・・・・・本当に手伝ってくれるの?」
「もちろん」
「これからはずっと皆と仲良く出来る?」
「きっと、何時までも仲良くなれるよ」
「じゃ、じゃあ、お願いします・・・・・」
「ああ」
ロリ珠洲はその小さい手を俺の方に伸ばして来た。俺もその手を掴んで、交渉成立を互いに確認した。これで、後は俺の考え通りに事が進めば万事解決だ。
そう言えば『万事解決』って、珠洲がよく言っていたな。・・・・・まあ、俺にはもう未練なんて物はないがな。迷っていたら過去改変なんて出来ない。
「よし!それじゃあ早速、君のおにいちゃんの所に行きますか!」
「うん!」
俺は少し後ろに下がっていた湖晴の方に振り向いた。湖晴は疲れてしまったのかやや俯いていたが、構わず話を進める事にする。
「湖晴。一応話は付いた。後は車道に近付ける事なく、蒲生の元に連れて行けば良いんだよな?」
「・・・・・・・」
あれ?返事が無い。では、もう1回。
「湖晴?」
「え!?あ、はい!すみません!」
「大丈夫か?」
「はい!全然大丈夫です!」
「どうしたんだ?一体。・・・・・えっと、今言った通りで良いんだよな?」
「今言った通り・・・・・あ、はい。大丈夫だと思います」
「雨に打たれ続けたから風邪でも引いたか?顔赤いぞ?」
それに、何故かいつもの冷静な湖晴ではなくなっている。やはり、大量出血をしたり、雨に打たれ続けたりしたから疲労が溜まっているのかもしれない。
それに、大分乾いて来たとは言え、俺も湖晴も着ている服がまだ少し濡れているからな。時期的には寒くなくても、体の芯まで冷えてしまっている可能性もある。
その時、湖晴がやや赤く染まった顔を俯けながら、小声で何かを言った。
「・・・・・鈍感」
「鈍感?」
「違います!同感って言ったんです!風邪引いたかもしれないって言う意味です!」
「何怒ってるんだ?」
湖晴が俺に『鈍感』と言ったのは明らかだが、何に対してだろうか。
「ねー、早く行こうよー」
すると、俺の手を握り締めているロリ珠洲が、立っているだけでつまらなくなってしまったのか、そんな事を言って来た。俺もそれに答える。
「おお、悪いな。それじゃあ、さっさと行こうか。な、湖晴」
「・・・・・はい」
湖晴の様子が変なのは『現在』に戻ってから聞けば良いとして、今はロリ珠洲を『過去』の蒲生達に合わせる事が先決だ。
俺と湖晴とロリ珠洲はゆっくりと公園内を歩きながら、なるべく車道に出ない様に、『過去』の蒲生達を探す。
そう言えば、ここの公園もグラヴィティ公園程ではないにしろ、かなり大きめだな。広々としていて良い感じだ。木も沢山植わっているし。
ブロロロロロ・・・・・
「・・・・・これ、何の音だ?」
「車か何かのエンジン音でしょうか」
「まあ、ここは車道に面してないし大丈夫だよな」
何処か遠くの方で乗用車が走っている様な音が聞こえて来る。まだ公園内だから車道に面していないとは言え、少し大通りに近付いてしまったのかもしれない。気を付けて歩くべきだな。
そして、俺が安心し切った台詞を放った、次の瞬間だった。
ガッ!
突如、10数メートル先にある花壇を乗り越えて、乗用車が俺達に向かって走って来たのだ。しかも、その速度は見た感じでは時速100キロ以上はあったかもしれない。
「次元さん!あの車!」
「何で車道じゃないのに走ってくるんだよぉぉぉ!!!」
「一先ず何処か建物の中に隠れましょう!」
「ああ!」
全くの想定外だった。そう言えば、誰が『珠洲は車道で撥ねられて記憶喪失になった』なんて言った?そんな事、俺は一言も聞いてはいなかった。つまり、こう言う事態も予め想定するべきだったのだ。
俺と湖晴とロリ珠洲は走りに走り、公園を出てすぐのマンションの中に走り込んだ。その際も、先程の乗用車はまるで俺達、いや、正確にはロリ珠洲を殺しに来ているかのように、追尾して来ていた。
「はぁはぁはぁ・・・・・湖晴・・・・・大丈夫だったか・・・・・?」
「・・・・・次元さん。『過去』の珠洲さんは・・・・・?」
「・・・・・あ、しまった!」
俺は周りを見渡した。しかし、ロリ珠洲のその姿は何処にも無かった。
迂闊にも程度と言う物が存在するだろう。不覚にも、俺は逃げるのに必死で、ロリ珠洲から手を離してしまっていたのだ。
不味い!このままでは過去改変は成功しない!
「畜生!湖晴!珠洲を頼んだ!」
「次元さん!?」
俺は湖晴をマンション1階のホールに残したまま、全速力でロリ珠洲を探しに行った。マンションを出て数秒後、10数メートル先に今にも力尽きて倒れてしまいそうなロリ珠洲の姿を発見した。そのすぐ後ろにはさっきの乗用車もあった。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「珠洲ーーーーー!!!!!」
俺はロリ珠洲に向かって走り、抱えると、そのままマンションの方に投げた。正確には、マンション周辺にある植木がクッションになるようにそこへと投げた。
しかし・・・、
「危ない!」
ドンッ!
誰かの声がした。その後、鈍い音がした。俺は車に轢かれたのだ。視界が次第に暗くなって行くのが分かる。そして、俺の意識はそのまま深い深い闇へと堕ちて行った。




