第24部
【2023年09月21日16時38分27秒】
「が、蒲生!?何でお前がここに!?」
俺達の前に現れたその人物は、ついこの間栄長の過去改変の時に知り合った蒲生黒矛と言う科学結社の1人だった。
だが、何であいつがこんな所に?栄長に呼ばれて来たのか?いや、確かにこの世界の栄長と蒲生は過去改変前と比べてかなり仲が良いみたいだが、それでもプライドが高い栄長が蒲生に助けを求めるとは思えない。となると、何か別の目的でここに来たと言う事だろうか?
すると、蒲生は俺と湖晴の元へと歩み寄り、そして話し掛けて来た。
「オイオイ。せっかくこのオレがオマエ等を助けてやろうって言ってんだから、もっとありがたくしろってのォ」
「いやいやいや、その前に何で蒲生がこの状況でこんな所に現れるんだ?」
「あァ?そんな事今はどうでも良いだろォ?『道端でオマエ等が抱き付いているのを見掛けて、暫く様子を見ていると何やら意味深な会話を始めて、今度はそれに行き詰ったみたいだから助けてやろう』って考えた訳じゃあねぇからなァ?」
「心の声丸出しじゃねぇか!と言うか、ずっと見てたんかい!それ以前に、そんな所見るなよ!恥ずかしいだろ!」
しかも最初っからじゃねぇか!もしかして、湖晴が俺に色々言って慰めてくれていたのも、俺が湖晴に言った台詞も全部聞かれてたのか!?恥ずかし!『穴があったら入りたい』とはまさにこの事だな!
「別に良いじゃねぇかァ、そんな事ォ」
「ま、まぁ良い。それで?何でこんな所に来たんだ?生憎だが、蒲生に手伝える事なんて無いと思うぞ?」
「おやおやァ?それまた何でだァ?オマエ等『過去改変』とやらをして、珠洲の過去を変えようとしてるんだろォ?」
「!?何で過去改変の事を知ってる!?」
過去改変後のこの世界の蒲生は過去改変の事を知らないはず。いや、過去改変前も知らなかったとは思うが。
しかも、珠洲の過去を変えようとしている事がバレているって事は、やはり俺と湖晴の会話を全て聞かれていたと言う事か。何処でどうやって聞いていたんだよ、全く。
「だから、さっきからずっとオマエ等の話を聞いてたって言っただろォ?」
「そ、そうだったな」
「それで、だ。オマエ等に取って置きの情報を教えてやろうって訳だァ。これでオマエ等への借りは全部返したって事にして貰うがなァ」
そう言えば、蒲生はやけに俺への『借り』とやらに執着するな。俺自身、別に蒲生に何かお礼をして貰いたくて過去改変をした訳ではないのだが。
それに、俺は蒲生の事が少し苦手だ。何か、普通に話しているだけで話のテンポが狂うし、1つ1つの言動が面倒臭いからな。まぁ、今回ばかりは蒲生が役に立ってくれるらしいので、仕方なく我慢するが。
その後、俺はその『取って置きの情報』とやらを蒲生に聞いた。
「それで、どんな情報なんだ?」
「少しだけ話が長くなるが良いかァ?まァ、今のオマエには選択肢は1つしか無いと思うがなァ」
「・・・・・分かった。話してくれ」
「オーケーオーケー。それじゃあ、オレがオマエ等に取って置きの情報を話してやる」
「おお」
前置きはさて置き、蒲生はそれを俺に話した。しかし、蒲生が発した1つ目のその台詞は俺の想像を遥かに上回る物だった。
「『オマエの義理の妹の上垣外珠洲は、俺の実の妹だ』」
「・・・・・・・」
「・・・・・ん?」
「・・・・・何ぃ!?」
「反応おせぇなァ・・・・・」
え!?『珠洲は蒲生の実の妹』!?ちょ・・・・・え!?どう言う事だ!?そんな事聞いてないぞ!?初耳だぞ!?
「どう言う事だ!?」
「どうもこうも、そのままの意味だァ。珠洲の本名は『蒲生珠洲』って言ってなァ、俺の3歳下の妹なんだァ」
「え?でも、ちょっと待て。珠洲は1度だって、自分の事を『蒲生』なんて名乗ってはいなかったぞ?」
「そりゃそうだろうなァ。珠洲は事故に遭っちまったからなァ」
「?更に訳が分からなくなったぞ。もう少し詳しく教えてくれ」
「まァ、そう焦るなってェ」
俺が聞くと、蒲生は淡々と珠洲の過去を話し始めた。俺が知らない、いや、知っていたかもしれないが覚えていない珠洲の過去。その全容を俺に伝えた。
「話は11年前に遡る。俺はその日もいたっていつも通りだった。だが、珠洲がそんな俺にイラついて何処かへと走って行っちまったんだァ」
「その時にすぐにオレが珠洲を追い駆ければ良かったんだが、丁度リンが体調が悪くなっててなァ。そっちを離れる訳にもいかなかったんだァ。別にリンのせいではないがァ」
「オレと分かれた後、珠洲はこの街に来たらしい。本人は自分が今何処を走っているかなんて検討も付いていなかったと思うがなァ」
「そして、この街で交通事故に遭った。幸いな事に体には大きな怪我は無かったらしいが、その時に脳の一部に深刻な損傷を受けたらしい。ちなみに、珠洲を撥ねた車の運転手は捕まっていないそうだァ」
「それで、珠洲は記憶を失った。覚えていたのは生活に必要最低限な事と、自分が『珠洲』と言う名前である事だけ」
「ちなみに、ここまでの話は珠洲が行方不明になったと知ったオレがあっちこっちの病院やら交番やらに行った時に、偶然珠洲が入院していた病院に辿り着いて聞いたんだァ」
「ここまでの事実を知ったオレはその全てをオレの両親に伝えた。『珠洲はまだ生きてる』ってなァ。その頃、蒲生家内では珠洲は行方不明とは言え数日間も経っていたから死んだものだと思われていたんだァ」
「だが、オレの両親はオレの言葉を聞き入れなかったァ。今思えば、無理も無い選択だったとは思うがなァ」
「その頃、オレはまだ知らなかったが、オレが今所属している組織はかなり危ない状況にあってなァ。娘が1人消えたってのに『そんな事に時間を割いている暇は無い』なんて言いやがったんだァ。全く、酷い話だぜェ」
「だが、オレは諦めなかったぜェ?そんな風に言われた後も、珠洲が入院していた病院に行った。しかし、2回目にそこに言った時には既に珠洲はいなかったんだァ」
「保護者が名乗り出る事がなく、珠洲自身も記憶が無い為、珠洲の身元が分からない。しかも、記憶が無い為、施設に預ける事も断念された」
「そこで、その病院側が決定したのは『珠洲の担当の医師であった上垣外夫妻に預ける』と言う事。上垣外夫妻もそれに同意したらしく、珠洲はそこで初めて上垣外家の養子扱いとなった」
「ここまでがオレがその病院に2回目に行った時に聞いた話だァ。あと、そんな時でもオレは自分が珠洲の兄貴である事を近くにいた看護師さんに話したが『保護者がいないと担当の医師に伝える事は出来ない』と言われたァ。子供ってのは全く無力だぜェ」
「その数週間後オレは探しに探した結果、珠洲が住んでいる家、つまりは上垣外、オマエの家を見つけたァ。オレが珠洲本人に話し掛ける事で、記憶喪失になっていたとしてもそれまでの全てを思い出させようとしたんだァ」
「だが、オレはそれを実行する事無く、家へと帰った」
「何故かってェ?そんな事、決まってる」
「『珠洲は幸せそうだったんだァ』。オレの家にいた時よりも、オマエといる時の方が楽しそうに見えたァ。その頃の家の事情的にも蒲生家よりも上垣外家の方が安定していて、珠洲の為にもそっちの方が良いだろうと思ったァ」
「それに、あいつは元々『おにいちゃんっ子』だからなァ。オレみたいな乱雑な兄貴じゃなくて、オマエみたいな優しそうな兄貴が出来て良かったと思ったんだァ」
「そして、今から1年前。オマエはオレの前に姿を現した。いや、さっきのオマエ等の話を聞いている限りでは、それも『過去改変』の何とやらなんだろうがなァ」
「オレは最初はオマエの事を思い出す事は出来なかったァ。何しろ、10年も前の事だァ。元々物覚えが良い方ではない、むしろ悪いオレがそんな事覚えていられる訳はなかったァ」
「だが、リンとの戦いがオマエ等によって終わらされた後にオレはようやく思い出したァ。『上垣外次元。アイツは珠洲の今の兄貴だ』ってなァ」
そして、蒲生は一呼吸置いた後、話を締め括った。
「『これが事の真相』だァ」
珠洲は蒲生の妹だった。だが、些細な事が原因で蒲生の元を離れてしまった。その時に交通事故に遭い、記憶を失った。蒲生の両親は科学結社の仕事が忙しくて珠洲を引き戻す事が出来ず、珠洲自身も記憶が無かった為、珠洲の身元は分からなかった。
行く宛が無くなった珠洲を何時までも入院させる訳にもいかなかった病院は、珠洲を何処か別の場所へと移す事にした。そこで選ばれたのが俺の家、上垣外家だった。そして珠洲は上垣外家の養子となり、俺の妹となった。その事を知った蒲生は珠洲を引き戻そうとしたが、その幸せそうな姿を見て諦めた。それから11年後が『今』と言う事だろう。
大方、今の話をまとめるとこんな感じだろう。
「その事を思い出したオレはこうしてこの街に来たァ。そして、オマエ等に会ったって訳だァ」
「そう・・・だったのか・・・・・」
「あァ」
「蒲生は・・・」
「あァ?」
蒲生の話を聞き終わった俺はこれまでの幾つかの不可解な事を思い出して納得した。珠洲がどうやって俺の妹になったのか、何で蒲生は珠洲の事を心配するのか。
だが、俺には1つ腑に落ちない事があった。そして俺はその事を蒲生に問いた。
「蒲生は寂しくはなかったのか?実の妹の珠洲が俺みたいな奴の妹になる事が嫌じゃなかったのか?」
「そりゃあ、最初は勿論嫌だったなァ」
「それなら、何で・・・」
「だが、オレは珠洲の幸せを優先したかったんだァ。オレといる時よりもオマエと一緒にいた方が幸せそうな珠洲の笑顔を守りたかったんだァ。ただそれだけの事だァ」
ここからは俺の推測だが、蒲生は妹の事を大事に思っていた。だからこそ、その幸せを望み、連れ戻す事を断念したのだろう。本当はそんな事はしたくなかったとしても。
もしかして、俺は勘違いしていただけなのではないだろうか?栄長の過去改変の件があったからか、蒲生の事をあまり好きにはなれなかったが、本当は蒲生って凄い良い奴なのではないだろうか?
行方不明の妹の事を考えて、たった1人で様々な施設を探し回ったり、両親に反発されてもめげなかったり。格好良すぎだろ。俺なんかよりも、蒲生の方がずっと兄貴らしいじゃないか。
「それに、もしあの時俺が珠洲を引き戻していたら、今頃珠洲は科学結社の一員だからな」
「そうなるのか。やっぱり」
「規則だからな。仕方ねぇんだァ」
栄長も蒲生も『親が科学結社の一員だから』と言う理由で科学結社に入らされている。それらの組織の中では具体的にどの様な事をしているのかは不明だが、少なくとも楽な仕事ばかりではないはずだ。そんな中に、珠洲が入っていたら・・・・・いや、そんな事考えたくもない。
「あと、もうオマエは気付いているとは思うが・・・」
「何をだ?」
「リンは珠洲の事を覚えてはいなかったみたいだが、珠洲とリンは昔から仲がワリぃんだァ」
「・・・・・だろうな」
成る程。先入観と言うべきか、本能と言うべきかそう言う類の物が2人を犬猿の仲に仕立て上げてしまっていたのか。だから2人は初対面の時も、今日の話し合いの時もギスギスした雰囲気で敵対していたのか。
「これで良かったかァ?少しはオレの話は役に立ったかァ?」
「ああ。ありがとな、蒲生。これで珠洲を救えそうだ」
正確には珠洲を俺の妹では無くして、元通り蒲生の妹にすると意味だが。
「あ、やっと見つけた♡」
その時だった。噂をすれば何とやら。俺の背後から珠洲の声が聞こえて来た。
「もー、探したよ?おにぃーちゃん♡赤毛ポニーテールは気持ち悪くて、相手をしていると気分が悪くなっちゃうから、気分転換に青髪白衣を殺しに来たよ♡もうすぐおにぃちゃんをアイツ等の呪縛から解き放ってあげるからね♡待っててね♡」
俺が後ろを振り向くと同時に、そんな風に珠洲の狂い切った台詞が聞こえて来る。今の台詞が確かならば、どうやら栄長は音穏達を守る事に成功したらしい。後で礼を言っておかないとな。
「上垣外」
「ん?」
すると、さっきよりも更に真剣な顔で蒲生が俺に話し掛けて来た。やはり、俺と湖晴の話を聞いていたとは言え、珠洲がこんなにも変わり果ててしまっている事にショックを受けたのだろうか。
しかし、そんな俺の心配は杞憂だった。そうだ。蒲生は俺なんかよりも、ずっと珠洲の兄貴らしいのだ。まさに、珠洲の実の兄貴と言った所だろう。
「オレに任せろ」
そう言った蒲生は、昔とは変わり果てて拳銃を右手に持ち、衣服に血が付着している珠洲へと向かって歩き始めた。
それが蒲生の、珠洲の実の兄である蒲生黒矛のけじめだったのだろう。




